婆さんはヨチヨチ歩いていた。
おいらは某駅近くの喫茶店でモーニングセットを平らげ、コーヒーを飲みながらせわしなく行き交うサラリーマンやOLさんたちをぼんやり眺めていた。
足早に去っていく人たちの中から、ヨチヨチ歩きの婆さんが姿を現した。
今どき珍しい、90度に腰が曲がった婆さんだった。
婆さんの視線は常に下だった。視線を上げようにも腰が曲がっているのでどうしようもない。
婆さんは傘を杖代わりに右足を半歩踏み出す。左足を右足に揃える。また半歩踏み出しては足を揃える。それを八回繰り返しては溜め息をつく。
しかし不思議と悲壮感はない。
なぜなら婆さんは意外にオシャレだったからだ。
婆さんは膝下10センチのスカートを履いていた。白いハイソックスも履いていた。淡いブルーのブラウスに薄い紫のカーディガンを羽織っていた。
オシャレをして腰を曲げて、婆さんはヨチヨチ歩いていた。
スピードは遅く、道のりは遠い。
でも婆さんは一歩一歩確実に歩む。
オイラはコーヒーを飲むのも忘れ、婆さんの道程を見守る。
「痩せ蛙 負けるな一茶 これにあり」
というか、俺もコーヒー飲んでる場合じゃない!
歩まねば!!!!!