(雷に打たれ、倒れている男)
アキラ:あれ?俺、どうなったんだっけ?確か、雷に打たれて・・・死んだのか?
ネギコ:あの、大丈夫ですか?
アキラ:あ、はい。って、あれ?誰?ここどこ?
ネギコ:あの、私、天使見習いのネギコって言います。
アキラ:天使?あ、じゃあ俺、天国行けるんだ。じゃあまあ、良かったのかな?つまんない人生だったけど・・・。
ネギコ:あ、いえ、あなたはまだ死ぬわけじゃないんですよ。私が助けるんで。
アキラ:あ、そうなんですか。このまま天国に連れて行ってくれてもいいんですけど。
ネギコ:私見習いなんで。見習いの仕事はまず救うことなんですよ。
アキラ:ああ、そうなんですか。じゃあ天国に連れて行ってくれるのは?
ネギコ:正天使からになります。
アキラ:正社員みたいな感じですね。まあいいや。で、何かしなきゃいけないんですか?
ネギコ:えっとですね、命を救う前に特殊な才能に目覚めさせるっていうのをやろうと思いまして。
アキラ:はあ。やらなきゃいけないんですか?
ネギコ:あの、私が見習いから本当の天使になるにはですね、徳を積んでポイントを稼いでランキングを上げなきゃいけないんです。
アキラ:ランキング?天使にもランキングがあるんですか?
ネギコ:ええ、ランキングが上だと神様に特別に認められた存在になるんです。
アキラ:へ~、そうなんですね。で、ネギコさんは今どのくらいなんです?
ネギコ:下弦の陸です。
アキラ:は?そんなマンガみたいな感じなんですか?
ネギコ:ええ、まあ。で、救った人がその後幸せな人生を歩めばかなり大きなポイントがもらえるんですね。でもやりすぎるとドーピングになって失格になっちゃうんですよ。
アキラ:・・・
ネギコ:だから私はバレない程度にちょこっと才能を与えて死にぞこないを救ってるんです。そうすると幸せになる確率があがりそうじゃないですか?
アキラ:死にぞこないって・・・。僕だって好きでそうなったわけじゃ・・・。
ネギコ:ええ、私もこの前、癌の手術で死にぞこなってる98歳のじいさんを助けたんですが、1ポイントしかもらえなくて。手術に耐えうる体力まであげたのに。
アキラ:う~ん、確かにそこまで行ったら何もしないであげたほうがいい気もしますね。
ネギコ:だから『雷に打たれた』って口実としてすごくいいんですよ。こっそり才能をプラスしても、不自然じゃないし。最近ではちょこっと雷様に賄賂を送ってね?
アキラ:は?じゃもしかして俺に雷落ちたのあんたのせい?
ネギコ:いや、今回は違います!安心して。今回はシンプルにあなたの運が悪かっただけですから。
アキラ:・・・何を安心すればいいのか・・・。
ネギコ:とにかく今回は私が助けますんで。んでなんか1個、目立たない程度に才能を開花させてあげますよ。
アキラ:目立たない程度の才能って・・・
ネギコ:プロスポーツ選手とかプロのアーティストとかは無理です。「大谷翔平!」とかはドーピングです。
アキラ:いや、大谷選手がドーピングしてるみたいに聞こえるわ。え~なんだろう?
ネギコ:あの、それでお金を稼ぐんじゃなくて、ちょっと人に褒められる程度?仲間内から認められる程度かな?読者モデルとかフォロワー数千人程度のYoutuberみたいな感じ?
アキラ:ん~ちょっと例えがわかりづらいですけど・・・。
ネギコ:例えば”歌”なんてどうです?歌唱力。
アキラ:でも歌手になって有名になっちゃダメなんですよね?
ネギコ:そうですね。でも仲間内で一番歌が上手いって良くないですか?
アキラ:あ~確かに。
ネギコ:友達に「私の結婚式で一曲歌って!」なんて頼まれて、情感たっぷりに歌ったら新婦はもちろん、両家のご両親も泣いちゃって、会場も思わず聴き入っちゃって、歌い終わった後に大歓声と拍手の海!
アキラ:あ~、それいいっすね。
ネギコ:『モニタリング』の透明カラオケで100点取っちゃって、カラオケボックスから漏れる声だけで通行人を魅了したりして。あと歌下手だと思ったら実はものすごく歌が上手いどっきりを仕掛けたりして。
アキラ:あ~、あれいいんだよな~。周りの人のリアクションがね~「え?うそ?歌、すごく上手くない?」ってびっくりするのがいいのよ。
ネギコ:あと、ストリートとかで弾き語りをしてるとメチャメチャ人に囲まれるってのも良くないですか?学生さんとかOLさんとかが足を止めて聴いてくれたり、「aikoさんの『カブトムシ』歌えますか?」なんてリクエストされたりして。毎週金曜日の夜9:00頃に駅前の商店街のシャッターの前に人の輪ができちゃったりして・・・
アキラ:なるほどね!確かにいいわ。そう考えると歌が上手いって幸せだよな~。歌が上手いだけで人生楽しくなる気がしてきた。仕事ができなくても彼女がいなくても、自分の声だけはみんなが認めてくれたり、自分に自信が持てたりするなら幸せな人生になるかも。せっかくなら秦基博みたいに歌ってみたいな~。
ネギコ:でもあくまで与えられるのはアマチュアレベルの才能ですからね。
アキラ:あ~そうか~。
ネギコ:ちなみにギターは?
アキラ:弾けません。
ネギコ:カラオケはよく行くんですか?
アキラ:一緒に行く人がいません。
ネギコ:・・・じゃあ、そもそも結婚式に呼んでくれる友達は・・・
アキラ:・・・ほかの才能でもいいですか?
(つづく)