普段、駐在員をしている僕は、子供の夏休みに合わせて日本に一時帰国をする。息子は「ウルトラマンフェスに行きたい」「花火をしたい」「日本の漫画を買いたい!」と日本でやりたいことがたくさんあるようだし、妻も「ママ友に会う約束が5件、子供の予定が3件、あと化粧品と調味料と子供の計算ドリルを買って帰りたいしお土産も買いたい」と忙しそう。僕だけが実家でだらりと過ごそうと思っているが、そんな僕にでも日本に帰って食べたいものがあった。

実は実家の近くにあの”蒙古タンメン”の支店があるのだ。2年くらい前にできたようで、昨年僕は行けずじまいだった。
”蒙古タンメン!”
その名を初めて聞いたのはいつくらいだったろう?テレビで紹介され、芸能界にも多くのファンが名を連ね、辛い物好きなら必ず訪れたことがあるというあの”蒙古タンメン中本”。僕はずっと食べたいと思っていたのである。麻婆豆腐と野菜炒めみたいなものが載っていて、かなり独特なビジュアル。でもきっとただ辛いだけじゃなく、”旨辛”を体現したような、辛みの中にコクのようなものが感じられる味なんだと思う。きっと辛さにヒーヒー言いながらもスープを飲み干したくなるような、そんなラーメンなんだと思う。僕は機会があれば東京・池袋の本店の行列に並んででも食べてみたいと思っていたのだが、その願いはかなわず、セブンイレブンのカップラーメン版蒙古タンメンを食べながら「カップラーメンでさえ、あの旨さなんだから本物はもっとすごいんだろうな」と妄想していたのである。テレビで蒙古タンメンが紹介されるたびに、「いいなぁ、本物、食ってみたいな」と思っていたのである。その蒙古タンメン中本の支店が、実家の近所にできたのである。

昨年、実家に帰省した際、店の前を通りかかった時はものすごい行列だった。僕も妻もあの辛いラーメンを食べてみたかったのであるが、小学生で偏食(野菜を食べない)の息子が食べるものがないかもしれないという心配もあって、あきらめていた。のちにネットで辛さ0の「タンメン」があることを知った。野菜は俺が食べれば息子も麺だけなら食べられるはず。そう考え、今年リベンジに行ったのである。
午前11時ちょっと過ぎ、店舗到着(開店は11時)。店の中に10名、店の外に3名並んでいた。並んでいる人を見ると、みなアプリのスタンプカードみたいなのを開いてスタンプを押してもらっていた。みな常連さんのようで、10回、20回と通っているようだ。さすが蒙古タンメン!妻もテンションが上がったみたいで、なぜかハチマキも購入。30分ほど待ってカウンターの席に案内された。僕は蒙古タンメン、妻は北極ミニとご飯のセット、息子は辛さ0のタンメン。
で、何年も憧れ、待ち焦がれたあの蒙古タンメンを食べてみたのだが・・・なんかこう・・・僕のイメージとは違ったのである。
上に載っている具材はまあまあだけど、辛さはほとんどなし、スープも・・・特別な感じはしない。何より麺が・・・太麺で主張が強くて、なんか具にもスープにも合っていないような・・・。
50代の僕は食もだんだん細くなって、ラーメンも太麺より細麺を好むようになった。が蒙古タンメンはがっつり太麺!強靭なあごで力強く咀嚼することが求められる。その麺の存在感がすごいのである。やっとたどり着いた蒙古タンメンを残すわけにはいかぬと、やっつけ作業のような気持ちでがむしゃらに麺を咀嚼していたのだが、隣を見ると、息子がタンメンの太い面を1本ずつちゅるちゅる啜って、5本くらい食べたところでご馳走様をしていたのである。さすがにこの状態で残すのはお店の人に悪いと、僕は自分の蒙古タンメンの麺と具を全てすすった後、息子のタンメンの処理に取り掛かった。こちらもまあ、太麺。歯ごたえの残ったシャキシャキの炒め野菜が憎らしい!妻の「北極のスープ、辛いけど大丈夫だよ?飲む?」なんて声も相手にしていられない。とにかく、お店の人に失礼のないように麺と具だけは掬わねば。50代のおじさんが太麺を2杯。これはきつい・・・。腹がはちきれそうだ・・・。だがなんとか食べきり、妊婦のように出っ張った腹を押さえ店を出た。
あれが・・・あの・・・大人気の・・・蒙古タンメンなのか・・・。
なんだかちょっぴり腑に落ちないが、とにかく一度食べてどういうものかわかったので気持ちの整理がついた。もう店舗に行くことはないだろうけど。

帰りの羽田空港第3ターミナル。出国審査を終え、搭乗を待つ間、昼ご飯を食べることにした。息子はおもむろに「ラーメンが食べたい!」と言い出し、羽田空港に出店していた”あの”六厘舎の店舗を指さした。僕はつけ麺、息子はとんこつラーメン(?)を頼み、食べ始めると息子は「なんか、思った味じゃない!」と三分の一ほど食べてご馳走様。六厘舎のぶっといつけ麺を啜りながら「はあ、あの残りの太麺も俺が処理するのか」とため息ついた。みんなそんなに太麺が好きなのか?
