トイレに籠るときにマンガを読むのが昔からの習慣なもので、半年に一度くらいKindleマンガをまとめ買いすることにしている。といっても最新マンガを読むのではなく、僕が買うのはもっぱら子供の頃に読んでいた昔の少年漫画。昨年の前期は『天地を喰らう』、後期は『Dr.NOGUCHI』を買った。で、今回僕が選んだのはやはり子供の頃に読んでいた『新ジャングルの王者ターちゃん♡』で、毎朝少しずつトイレで読んでいるのだが、久しぶりに読むとまあ実に面白いのである。
『新ジャングルの王者ターちゃん♡』(以下、『ターちゃん』)の連載は1990年から95年までだから、僕が高校生から大学生までのことだ。当時も面白かったが50を過ぎて読む『ターちゃん』は昔以上に面白い。あれは平成初期の少年漫画であり、令和初期の壮年漫画だ。

何がいいって、まず下品なのがいい。令和の少年誌であれだけうんこ・ちんこを連発する作品があるだろうか?サルの交尾やもっこり、パンツの恥ずかしいシミを描写する作品があるだろうか?
そして登場人物のキャラクターがいい。主人公のターちゃんは誰よりも強く、優しく、純粋で、働き者で、エロい(?)。ターちゃんは超人でもモンスターでも宇宙人でもない、普通(?)の人間だ。変身するわけでも超能力があるわけでもない、生身で戦う人間だ。なのに圧倒的に強い。これがかっこいい。当時、少年だった僕はその強さと優しさ、あのマッチョな体に憧れたものだ。そして大人になった僕は妻が太っても変わらず愛し続けるターちゃんのやさしさも見習わなければならない。(ちなみに、ターちゃんが実はベジタリアンだということはエッホエッホものだ。ベジタリアンであんなマッチョになれるか?)。
弟子のペドロも真面目で純粋で師匠思い、向上心があって男前だが大体ターちゃんの前フリでやられてしまう引き立て役だ。でも連載が進む中でどんどん強くなり、どんどん魅力的になってくる。ターちゃんとの試合シーン、白蓮仮面との試合はすごく好きだし、ドロシーとの純愛シーンもなかなか良かった。
妻のジェーンは基本的にはいつもターちゃんに厳しく、金の亡者、朝から晩まで食べて読書してブクブク太って動かない鬼嫁だが、実はターちゃんを一番理解していて、心配もしている優しい女性。一時期やせ薬で昔のダイナマイトボディに戻っていた時があったが、あれも魅力的だったな。少年漫画のヒロインで一番好きかもしれない。少年時代の僕も今の僕も痩せているジェーンさんを見るとムラムラしてしかたがない。
さらに今改めて『ターちゃん』を読み返してみると、作品を通して動物保護、ジャングル保護、自然の大切さを訴え続けた作者(徳弘正也先生)のメッセージが伝わってくる。意外と深い作品なのだ。『ターちゃん』はギャグマンガであり、格闘マンガであり、啓蒙漫画でもある。

でも結局、今の僕が『ターちゃん』に憧れるのはやはり下ネタを何の制限もなく披露できるところなのかもしれない。昭和生まれの僕はセクハラと共に生まれ、セクハラと共に育ったと言っても過言ではない(?)。昔はゴールデンタイムのバラエティ番組でも、深夜の情報番組でも、ドラマでもアニメでも、普通にお色気シーンがあって、家族の食卓を気まずい雰囲気にさせた。少年時代の僕は、『俺たちひょうきん族』で島崎敏郎が披露した腰を左右に素早く捻じりながらチンコをペチンペチンと鳴らす妙技を観て感銘を受け練習をしていた。新婚時代に嫁に披露したらそれなりにウケていた。
そんな僕でもコンプラのうるさくなった平成後期~令和ではすっかりおとなしくなってチンコも鳴らさなくなった。職場でも外でも言動にかなり気を付けるようになった。下ネタはもちろん言ってはいけないし、女性のプライベートも詮索しない、ましてや彼氏はいるのか、結婚しているのか、ファーストキスのとき舌を入れたのかなんて聞くのはもってのほか。「髪切った?」とか「きれいなお召し物ですね」なんて容姿について触れるだけでもセクハラと言われかねない時代だ。
だからこそ『ターちゃん』の世界観が羨ましく感じるのだ。野生児ターちゃんは普段腰巻(パンツ?)だけのフルチンなので、格闘シーンではちんこは丸見えだし、普段の生活でもちんこが見えることを気にしていない。むしろ目の前に女性に普通にちんこを使ったギャグや特技を見せている(が、周りの女性も実にあっけらかんとしている)。う、うらやましい・・・。またセクシーな女性が居候に来ることがよくあるのだが、下心を隠そうともせず股間をもっこりさせてパンツに染みをつけ、最終的にはそのパンツを洗ってもらったりしている。奥さんの前でエロ本を読み、「そんなのばっかり見てんじゃないわよ」と怒られ、妻のジェーンさんもターちゃんの一人Hを黙認している。「古紙でシコシコ」「オマン湖草荘」といった下ネタが何の気兼ねなく自由に披露できる世界・・・いいな、いいな。

肥料代わりにうんこをひねり出すシーンも秀逸。ジェーンさんも「また下品なことして」と大げさに怒ったりはしない。こういう夫婦の関係も実に羨ましい。
ターちゃんの下ネタは、どこか可愛げがある。あんなに直接的なのにハラスメントという感じがしない。ターちゃんは他の女性にチンコは立たせても、その以上関係を持とうとはしない。妻のジェーンさん一筋。だからターちゃんを形容するのに「エロい」も「女好き」も「えっち」もなんか当てはまらない。しいて言うなら“スケベ”かな。だから少年誌でも連載できたし、読者も作中の女性も笑ってターちゃんの下ネタを受け入れることができた。
それは令和の現実的には起こりえないことなのかもしれないが、だからこそ僕はあの『ターちゃん』の世界観が羨ましく感じるのだ。おじさんは昔も今も基本的に下ネタが大好きだ。若い頃は本当に「触りたい」「エッチしたい」という欲を持っていたが、ある程度の年になると単に「下ネタを言いたい」くらいになる。頭の中で「うわ~、いい女だなぁ~、おっぱい大きいな~」と言葉にするだけでいい。その先に何かしたいとは思わない。オヤジになればなるほど「俺も周りの反応とか気にしないで『ターちゃん』みたいにくだらない下ネタとかボケを連発してみてーな。きっと人生楽しんだろうな」なんて思ったりする。
でもこんな理屈っぽく『ターちゃん』を読んでしまうなんてね、年は取りたくないな・・・
