俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

逃げ帰ったオジサン

僕は中国の日系企業で働いている50代の中年サラリーマン。こちらに来て2年になる。中国赴任が決まってから中国語の勉強を始めたのだが、50代の語学学習は想像以上に大変で、仕事が!家庭が!と色々な言い訳をしながら勉強をサボりつつも、なんとか細々と勉強を続けてきた。おかげで昨年夏、日本に帰国した際にHSKという中国語検定試験の4級を受験して合格。それから1年、次のHSK5級受験に向け、勉強を続けてきた。

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僕の勉強は割と単純。使うのはYoutube動画(【中国語単語】これ1本で1321個のHSK5級単語を全部覚えよう! - YouTube)と公式試験問題集のみ。まず夜、1日20個ずつ単語と例文を見て聴いて意味を確認して、必要ならノートに書き写す。通勤中(30分×2)はそれを聴きながらで自転車を漕ぐ。オフィスでは空いている時間に単語ノートを見返す。それを毎日ずっと繰り返す。それをこの1年と2か月ずっと続けてきた。

おじさんは記憶力が格段に落ちている。だからこれだけ繰り返し単語と例文を聴いてもなかなか覚えられない。そしておじさんはコミュニケーションが苦手だ。だから読解はそれなりにできるが、聴解と会話が苦手。そもそも「中国語で話せるようになりたい」とか「中国人の友達がほしい」という意欲がほとんどない。これが痛い。でも受験戦争を勝ち抜いてきた世代はコツコツと勉強してる自分に酔いしれる傾向があるだけに継続が得意だ。そして試験を目標に勉強を続けることに慣れている。

僕は2025年10月に中国でHSK5級を受験することに目標を設定し、5か月前からは公式問題集で過去問を解いたり、作文を書く練習も始めた。公式問題集は模擬試験が5つ入っていて、1~2週間に1回、解いていった。で、試験までに3回繰り返した。作文練習はChatGPTにお題を出してもらって解答、添削もChatGPT先生だ。試験に申し込んだ際、1回オンラインの模擬試験を受けられるサービスがあり、それも300点中235点くらい取れていたので準備は万端だった。唯一の心配は口頭試験だ。これは全く準備していなかった。試験に申し込みの際、自動的に「筆記」と「口頭」の両方の試験に申し込むシステムになっていたのだが、実際は筆記だけ受けても試験の点数はもらえるらしい。「口頭」試験は受けてもいいし、受けなくてもいい。僕は口頭試験を受けようか受けまいか、当日まで決めきれないでいた。

 試験当日、同じ試験会場(同じHSK5級)にいたのは20人くらいだったか。欧米系・東欧系の人も少しいたが、ほとんど東アジア系の人だったように思う。で、試験は「ペーパー受験」と「オンライン受験」に分かれており、僕が申し込んだ「ペーパー試験」の受験者は僕を含めて5人しかいなかった。一人は小学生くらいの女の子、残り3人は中国の大学に留学している日本人と韓国人ってところか。

 最初の聴解試験はまあまあといったところ。半分以上はできた。次の読解試験も7割はいけたと思う。作文は時間が足りなかったし、文法も優しいものしか使えなかったので半分以下だろうな。ともあれ、筆記試験は終了。1年間がんばったプレッシャーから解放された気がした。あとは口頭試験だが、これは記念受験にすっかな~。

 すると試験問題を回収し終えた試験官が早口の中国語で「みなさん、口頭試験は受けますね。試験は30分後です」とアナウンスをする。僕は試験の日程を把握していたのでかろうじて何を言っているかわかったが、まずそのスピードにビビった。なのに一緒に試験を受けていた他の若い子たちはとても流暢の中国語で「口頭試験はこの教室でやるんすか?」「俺、トレイ入ってもいいっすか?スマホもチェックしたいんすけど?」「あの~、会話試験は先生たちが相手ですか?一人ずつやるんですか?」と話し始めたのだ。

 僕は他の受験者の中国語のあまりの流暢さにビビってしまった。まじか。レベルが全然違う!おそらく小学生の女の子は片親が中国人?現地の中学校にでも入るつもりだ。若い男の子たちはおしゃべりだけなら普通に中国語で流暢に話せていて、大学に入るのに資格が必要だからしかたなく受験してる感じだ。で、僕だけが桁外れに話せないおじさんなのだ。僕は簡単な自己紹介しかできない。会話力はHSK5級レベルに遠く及ばず、試験で気まずい空気が流れるのは必至なのだ。

 やばい・・・だめだ・・・。これは無理だ・・・。

僕は教室からトボトボ退出し、別教室に置いてあったスマホを取り出し、いかにも「あちゃ~、急に仕事が入っちゃった~」みたいな演技をしながら試験官の先生に「スミマセン、ワタシ、イソガシイ、カエル」と拙い中国語で伝えた。試験官の先生は目をきょとんとさせていたが、僕は足早に教室を離れ、スマホでタクシーを呼び、逃げるように会場を後にしたのだった・・・。会社でもそれなりのポジションをもらえているオジサンの逃走劇はそれはそれは惨めだったが、それでもこれで試験勉強はひと段落。その晩は一人、祝杯をあげるのであった。