友達からビール券をもらった。
なんでもお得意先のお客さんからもらったそうなのだが、友人はビールがあまり好きではないのでボクのところに送ってくれたのだ。
もっとも、後で調べてみたらビール以外の買い物もできるそうで、友人はボクに渡したことを悔しがっていた。
そんな悔しがる友人の声をよそに
ボクは早速ビール券を持ってお買い物。
ただ、スーパーでは利用できなさそうだから酒屋を探さなければならない。
酒屋ってうちの近所にあったかな?
そういえば、僕がいつもいってる「いなげや」の隣りに、今にもつぶれそうな酒屋があったような・・・。
ボクは夕食の買い物ついでに、その酒屋へ行ってみることにした。
まずは「いなげや」で夕食のお買い物
夕方5時半のいなげやは子供連れの主婦でいっぱい
こんな中で買い物かごを抱えて熱心にお買い物に励む35歳独身男ってなかなか絵になるね。
恥ずかしいったらありゃしない。
しかも買ったものがパンとコロッケって・・・
心なしか、レジのおばちゃんも蔑んでいるような・・・
さて、いなげやをあとにし、僕は問題の酒屋へ
一応、開いているようだが、照明が実に頼りない・・・
この店に入るのは初めてだ。
中に入ると・・・せ、狭い・・・
薄暗い・・・
で・・・・誰もいない?
どうしよう!?この場合、万引きしたらいいのか、「すみませ~ん」と声をかければいいのか。
ボクはもらい物のビール券で買い物に来ただけなのだ。
できるだけ労力は使いたくない。
風邪気味のボクにとっては大声で「すみませ~ん」というだけでも結構な労力なんですけど・・・
そう躊躇していると、いきなり背後から「はい、いらっしゃい・・・」と力ない声が・・・
振り向くと、そこには久々に客に対面して緊張している老婆の姿が
「いや、あの・・・すみません。これ、使えますか?」
恐る恐るビール券を差し出すと
老婆「使えますよ。ビールでも日本酒でも焼酎でもジュースでも、おつまみでも、この店にあるものはなんでも買えますよ」
ボク「あ、そうなんすか。えっと、どれにしょうかな・・・」
老婆「ビール券、3800円分あるからね。ビールでも日本酒でも焼酎でもジュースでもおつまみでも、この店にあるものは何でも買えますよ」
ボク「あ、ああ、そうですか。でもビールとチューハイしか飲めないんで」
老婆「そうですか。ええ、でも何でもいいんですよ。お店の中にあるものは。ビールでも日本酒でも焼酎でも・・・」
ボク「あ、はいはい。わかってます。えと、どれにしようかな」
老婆「すみませんねえ。チューハイはそこにあるのしかないんですよ。いなげやが出来たでしょう。チューハイとかはいなげやにも置いてあるんで、お客さん、みんなそっちで買っちゃいますからねえ。お客さん来てくれるなら箱で置いておきましょうかねえ。最近、みなさんあまり日本酒とか焼酎とか召し上がらないんでねえ・・・」
ボク「はあ。そうですか・・・えっと、ビールは・・・」
老婆「ビールはたくさんありますよ。アサヒでもサッポロでもキリンでもバドバイザーでも。おつまみもありますよ。ジュースでもいいんですよ。」
ボク「いや、あの、ビールで。えと、あの・・・あ!モルツあります?せっかくだからプレミアモルツなんていいなあ。もらいもののビール券だし」
ボク「えっと、えっと、(早く帰りたい・・・)」
ボク「いや、あの、説明はもういいですから。これください!」
老婆「はいはい。エビスね。ビール券、3枚と、213円あるかしら?」
ボク「はいはい」
老婆「他にはもういいの?この店にあるもの何でもいいのよ。ジュースでもおつまみでも・・・」
ボク「いや、もう結構ですから。すみません、ありがとうございました。」
老婆「まだビール券あるからね。また来てくださいね。急いで買う必要はないからね。ビールでも焼酎でも日本酒でも・・・」
ボクは老婆の言葉を待たずに店を出た。
きっと久々のお客さんでテンションが上がっていたのかもしれない。
いろいろと親切に勧めてくれたのに、急いで逃げ出してきてすまなかった。
どうしても早く帰って「スーパーニュース」の”激安!ワンコインで食べられるランチ特集”が見たかったのだ。
家に帰って、エビスビールを飲みながらふと、あの老婆のことを考えた。
あの店、せめて婆ちゃんが死ぬまでつぶれないといいな・・・
久しぶりに飲む本物のビールは
ちょっぴり苦い味がした。