土曜の朝は、日ごろの運動不足を補うため、たまにジョギングをしている。
調子がいい時は1時間くらい、途中休憩を入れれば10キロメートルくらいは走る。
今日は調子に乗って、府中競馬場まで走ってしまった。
大きなレースがある日は、客の数がものすごく、警備員の数も半端じゃないのだが、今日はどうもレースはお休みのようだ。
競馬場の入り口付近で軽くストレッチをしていると、それでもちょろちょろと人が中に入っていく。
そういえば、入場ゲートは開いている。
しかも、みなチケットを買うことなく中に入っていく。
これって、僕が入ってもいいのかな?
恐る恐る他の人に混じって中に入ってみる。
競馬場、初潜入なのだ。
すると、パドックは整備士(?)の人たちが芝を直したりしていた。
いや~、きれいきれい!
芝生がすんごいきれい!
しかも広い!
ま、馬で走るのだから、ある程度の広さは必要なんだろうけど。
それにしてもこの広い芝と土!開放的な空間!気持ちいいな~。
そのまま観客席の前をてくてく歩いていく。
すると、レースがないのに、かなりの人が集まっている。
この人たちは何してるんだろう?午後にでも、レースがあるのかな?
と思っていると、みな、モニターで福島競馬(?)を見ているようである。
「家で見ればいいのに・・・」
しかし、これ、すごい光景だ。
みな左手に折りたたんだ競馬新聞、右手に赤ペンを持っている。
典型的な「競馬鑑賞スタイル」だ。
あんなの、コントの世界だけかと思ったら、みんなそのスタイルなのでびっくりした。
競馬場でのファッションチェックはなかなかおもしろい。
野球帽をかぶっている確率70%
ビールかたばこを吸ってる確率62%(しかもたばこはポイ捨てが普通?)
ウエストポーチ率55%
シャツイン率75%
ベスト(というか、チョッキ)率33%
それら全てをそろえている率19%
本当に、普通の人が思い描く競馬ファンそのものなのだ。
しかもおっさん率がものすごい。
東京中のおっさんを集めたのではないかというほど、おっさん密度が濃いのだ。
そしてそのおっさんが、これまたいい具合に枯れているのだ。
平均年齢は62、63歳といったところか?
普通、ギャルをたくさん集めたらものすごいパワーを感じる。
おばさんをたくさん集めても、ものすごい熱気とバイタリティを感じる。
しかし、おっさんがこんなに集まっても、生のオーラがゼロなのである。
きっと、レースが始まるとものすごい熱気なんだろうけど、
この土曜の昼下がり、
家を追い出された集まったおっさん達は、びっくりするぐらい覇気がないのである。
あんたら、本当に高度経済成長を支えたのか?
どうしてこうも、エネルギーを感じないのかとよく見てみたら、
一人で来ているお父さんがほとんどなのである。
稀に、競馬仲間と楽しそうにしている人もいるが、
ほとんどのお父さんが、一人でこっそりと、一人でひっそりと、一人で悶々と
競馬新聞と格闘しているのである。
そこには、CMで見るような明るい競馬のイメージはなく
仕事場も追われ、家族からも忌み嫌われ、
行く場所が無くなったお父さん達の掃き溜めの様相を呈していた。
しかし、ここでは”一人でいること”は恥ずかしいことではない。
それが普通なのだから。
中には、乳飲み子を背負いながら着ている人
日雇い労働者風
鼻にチューブを差し込んだ病院逃亡者などなど
絵に描けば「枯れ木も森のにぎわい」と言った感じ(実際は、覇気は感じれないけど)なのだ。
ここは世間に疲れたお父さん達の溜り場なのだ。
土曜の朝は、お母さんが掃除を始めるので、逃げ場書はここしかないのだ。
そして、ここは決して楽しい場所ではなく
かといって修羅場でもない。
多少は安らげる気もするし、でも人生の疲れや哀愁も感じる
そんな場所なのだ
僕はこの広い会場で、ただただ時間をつぶしているおっちゃん達を残し、家路についた。
僕は宝くじ以外のギャンブルは一切やらないが
もし、僕が結婚もできず、老後も一人で暮らすとしたら
逃げる場所はここかもしれない
一瞬だけそう思う、土曜の昼下がりだった
*こんな客はめったにいません!