Ａ「では、今年度の必要経費について説明してください。」
Ｂ「え～、昨今の不景気で、ここ数年、事業は停滞しており、有効な手立てが見えない状況です。よって今年度の予算を確保した上で、より有効に活用したいと。」
Ａ「具体的には？」
Ｂ「まずはスーツの購入。見栄えのいいスーツを着ることで営業の成績アップが見込まれ、ひいては収入のアップにつながります。」
Ａ「今のスーツ、まだ着れるんじゃないですか？」
Ｂ「現在私が着用しているスーツは3年前に”洋服の青山”で購入したもので、数回にわたるクリーニングによる布の劣化等、損傷が激しく、健全な営業活動に支障を来たすものと思われます。」
Ａ「どうしても今年購入しなければならないという必要性が見受けられません。却下します」
Ｂ「では、次にビジネスシューズの購入。これは現在使用しているものが摩擦による踵の減少が激しいため、代替品の必要性に迫られております。」
Ａ「穴が開いているんですか？」
Ｂ「今にも開きそうです。」
Ａ「現在は開いていないんですね。」
Ｂ「はい」
Ａ「今年度、緊急に必要であるという状態とは受け取れません。却下します。」
Ａ「ほかに何かご意見がございますか？」
Ｂ「え～、今一度、ご健闘いただきたい。今年度の予算削減により、収入の著しい減退が見込まれます。まずは健全な就業環境を整えることが必須かと思われます。スーツは来年度に持ち越すにしても、昼食代200円アップは、この時勢、避けられない時代かと思われます。」
Ａ「現状の500円でも可能なのではありませんか？」
Ｂ「え～、健全な肉体には健全な精神が宿ると申します。また、昨今、食糧事情の悪化や、ファストフードの台頭により、この先進国と言われる日本においても、文化と伝統に基づく精神的な食糧危機におそわれております。ここでしっかりとした食育を確立させないと、労働者の健康問題にも発展する可能性があります。」
Ａ「具体的にどのようなものを望んでいますか？」
Ｂ「あたたかい御飯、野菜、煮物、そしてお味噌汁等、伝統的な和食が好ましいものと思われます。大手有名定食チェーン『大戸や』の平均価格帯から勘案しても、700円～800円ぐらいが望ましいかと」
Ａ「西友で300円未満のお弁当が買えますので、予算を削減します。」
Ｂ「ちょっと待ってください！事業というのは単に必要経費だけでまかなえるものではありません。コーヒー代、タクシー代、その他遊行費など、円滑な事業の運営には目に見えない必要な経費がかかるものです。」
Ａ「具体的な使用目的と金額をお願いします。」
Ｂ「え～と、コーヒー代250円、タクシー代2100円、遊行費2万円・・・」
Ａ「コーヒー代は100円の自動販売機を見つけること。タクシーには乗らずにバスと電車を利用すること。それから遊行費というのは何ですか？はっきりおっしゃってください。」
Ｂ「その・・・労働意欲の充実のためにですね、接待費と申しますか・・・、交際費と申しますか・・・。」
Ａ「却下します。」
Ｂ「横暴です！事業についての詳細を知らないあなたが、独断と偏見だけで予算を削減してしまっては、労働意欲の減退、そして技術の衰退をもたらす危険性があります！」
Ａ「昨年度の事業報告書に、妻への贈答品、記念行事費等の予算が組まれておりませんでしたが、これは？」
Ｂ「え？あ、あの、それは今年度にですね、持ち越してですね、ちょうど5周年ということで、予算に組み込んでいただければと」
Ａ「どのような計画を考えていますか？」
Ｂ「あの～～～、エプロンとですね、え～と・・・庭の手入れなどを検討しております。」
Ａ「却下します。」
Ｂ「あ～、せめて！お小遣いを現状の3000円から、3500円に上げていただけないでしょうか！」
Ａ「目的は？」
Ｂ「え？あの～コーヒーとか・・・」
Ａ「却下します！」
Ｂ「あ！ちょっと待ってください！えっと、妻への接待費用のためです！」
Ａ「その件に関しましては家債を発行して、別途予算を組むこととします。よって貴君の掲げる今年度事業は全て却下とします。」
Ｂ「あ～～～～せめて予算削減にぃ～～～」
