まずは下のページの動画を見てもらいたい。
タイトルどおり、家族がテレビを見ていると、リビングの壁から幽霊が現れ、直角に曲がって隣の部屋に消えていく姿が映っている。
家族がビビッて逃げ出す光景が印象的だ。
まあ、「なんか作ったような映像だな」とか「なんでビデオカメラが回ってるんだ」「変な効果音も入ってるし、子ども笑ってるし・・・」というのもあるだろう。
が、僕はこの動画を見た瞬間、「あ~~、なんか懐かしい~~」という気持ちになった。
それは僕が大学生の時のこと
僕は東京郊外にある大学の学生寮に住んでいた。
当時、生まれて初めて一人暮らしをすることになった僕は、初めてその寮を見たとき「う~む、こんなところに住むのか・・・」と軽いショックを受けたものだが、
一方で「芸能人が下積み時代に住んでたアパートってこんな感じかもな~」と、昔ながらの学生寮のイメージにちょっとウキウキしたような気もする。
それでも東京出身の同級生と、イギリス帰りの帰国子女の同級生が、一目見て入居を取りやめたぐらいだから、相当素敵なところではあった。例えば
・築20年(当時)でかなりボロい
・航空写真を撮るときにジグザグの形に見えるように作ったため、一つ一つの部屋はいびつな5角形~7角形
・部屋がいびつなため、机とベッドを置くとほとんどそれで部屋が埋まってしまう。
(そのため、みなベッドの下にビールケースなどを置いて高くし、収納スペースにしていた)
(そのため、みなベッドの下にビールケースなどを置いて高くし、収納スペースにしていた)
・トイレ、キッチンは各フロアで共同。20部屋の真ん中にある。
・風呂は学生用の銭湯。もちろん有料で夜10時まで。
・片側の壁は薄く、片側の壁は厚い。どうも、もともと一部屋だったのをベニヤ板で仕切った模様
・建物の入り口に巨大なゴミのコンテナがあり、夏はものすごい異臭を放つ
・エアコンなし。共通管理のヒーターがあるがスイッチはなく、勝手に動き勝手に消える。
・窓際によく蜂が巣を作る。
・手を洗う洗面台はあるが、お湯は出ない。
・特に僕が住んでいた9号館はもっとも汚く、通称「スラム」と呼ばれていた。
などなど。
でも今思えば、学生時代にこういう生活ができたのはありがたかったな。
だって36歳になった今も、まだ6畳一間の5万円のアパートで暮らしてるが、なんの不満も違和感もないもんな。


で、この学生寮に昔から伝わる怖い話(今で言う”都市伝説”)があって、それがまさに「壁を突き抜ける幽霊」だったのである。
彼は陸上部に所属し、日夜練習に励んでいたが、ある日のバイト帰りに交通事故で死んでしまう。
特に3階の部屋の壁から壁へとすり抜け、ひたすら走り続ける彼
ちょうど上の動画の幽霊のように、突然壁から現れて隣りの壁へと消えていくものだから、学生にとってはたまったものではない。
そこである日、学生の一人がこんな提案をした。
「彼は今も、見えないゴールに向かって走り続けている。彼を成仏させるには、見事にゴールをさせてあげるしかない。」
彼は壁に白いテープを張り、そこに「GOAL」と書き入れた。
そしてある夜、
彼がベットで寝ていると、ふと壁のテープが剥がれ落ちる気配がした
明かりをつけると、確かにゴールテープがはがれ、その日から幽霊は走らなくなったという。

(おそらくここからは後の学生の創作だと思う)
夜な夜な学生寮の壁を走り抜ける幽霊は、一人の学生の温かい配慮のおかげで見事に成仏した。
そしてその話を聞いた彼の友人が彼の部屋に集まり、彼を労うためのパーティーを開いた。
缶ビールを空け、鍋をつつき、夜中まで陽気に騒ぐ学生達。
ふとその中の一人がかばんの中からクラッカーを取り出し、成仏祝いにと夜中だと言うのに「パン!」と一発鳴らしてしまった。
すると・・・・・・・・・・
スタートの号砲だと勘違いしたあの幽霊がまた走り始めてしまった・・・というオチ
ま、学生時代はこうして怪談を漫談に替える陽気さがあったな。
そしてその後、幽霊はどうなったか。
「A君はもう一度壁にゴールテープを張ったのだが、ゴールした後、安心してA君の部屋に居座ってしまった。」
「B君はゴールテープをかなり下のほうに張ってしまったため、お化けがつまづいて顔面を強打した」
「C君はオナニーしている姿を幽霊に見られた」
「D君が部屋で筋トレをしていると、幽霊と正面衝突。幽霊はD君にのりうつり、D君はフルマラソンにチャレンジするハメに」
「角部屋のE君の部屋をすり抜けたところで幽霊は床がないことに気づき、落下して死亡」
「F君の壁に張ってあった武田久美子のポスターの前で急に停止し、Uターンした」
「G君が部屋で彼女と交尾をしているのをチラ見して通り過ぎていった」
「風船ガムが割れた音にも反応してスタートするらしい」
「H君は部屋の机に置いてあったジュースを給水と間違えて飲まれたらしい」
「山登りでは東洋大・柏原に負けるらしい」
などなど、様々な噂が流れたが、おそらく全て後の者が尾ひれをつけておもしろおかしく伝えたものであろう。

ま、後の者って、僕なんですけどね。