俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

野球観戦記

先日、東京ドームに野球を観に行ってきた。

友達A君が急に「一緒に行くはずだった奴がキャンセルになっちゃって。チケットおまけしとくから野球見に行かない?」とメールをよこしてきたのだ。

彼は年間30試合くらいは球場に行って観戦をするほど野球好き

一方僕も一応は高校2年まで軟式野球などをやっていたし、子供の頃は巨人ファンでもあったが、FA制度の施行から一気に球団への愛着がなくなった。

また自分が野球をやらなくなってからはせいぜいスポーツニュースを見るくらい

わざわざお金を払って野球を観に行ったり、テレビで2時間以上もプロ野球中継にかじりつくなんてのは無駄だとさえ思うようになった。

さらに出不精である僕は、出かけることを何よりも面倒なことと考えており、家でくつろぐことを至福の時ととらえている。

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夕方6時、水道橋駅前で待ち合わせて、東京ドームへ向かうと、もう駅からずっと人!人!人!

金曜の夜で、ただでさえ街には人が多いのだが、これが東京ドームとなるとものすごい!

なんか、お祭りムードなのだ。

僕は金曜の夜でさえまっすぐ家に帰る男なので、「世の中の人々は夜にこんなに街をブラブラしているものなのか! 」なんて驚いたりもした。

みな巨人のユニフォームやら帽子やらタオルやら、応援グッズを身に着けているかと思いきや意外に背広姿のサラリーマンも多い。

ドームへ続く道路の両脇には店の客引きが大きな声を上げ、その間を若い女性、家族連れ、カップルやサラリーマンが楽しそうに闊歩している。

うん、たまには夜の街を歩いてみるのもいいものだ。


荷物チェックを受けて東京ドームに入る。

するとやや薄暗い廊下の向こうに、鮮やかなグリーンの人工芝を敷き詰めたグラウンドが広がっていた。

それは、野球観戦に不慣れな僕にとって、十分に衝撃を与えるほどのインパクトだった。

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すげー!すげー!と、おのぼりさんのようにキョロキョロと周りを見る僕を見てA君は笑っていたが、

いや、これ本当にすごい。このグラウンドを見るだけで来た甲斐があるね。

とりあえずビールと焼き鳥を買い、席に着く。

A君が2か月前から予約していた席というのは、3塁側の前から10列目。結構前のほうのいい席だった。

5200円(僕はA君に3000円で譲ってもらったのだが)のシートはやや狭く、足も組めないほど窮屈であったがA君曰く「外野席はもっとひどい。背もたれもないしね」などと言うのである。

しかもよく見るとA君はいつの間にか巨人のユニフォームに着替えており、周りの人もみななにがしか観戦グッズを用意しているようだ。

僕はビールと焼き鳥をやりながら、東京ドームをぐるりと見回す。

「うむ。東京ドームって、僕が中3ぐらいの時にできたんだっけな?もう20年以上か・・・」

「天井の布(?)が黒ずんできたな。そろそろ張替の時期かな?」

「外野席に永久欠番のユニフォームが貼ってあるけど・・・4番とか16番って誰だっけ?」

「あのバックネットの2階のVIPルームみたいのはなんだ?どういう人があそこで見てるんだろう?ナベツネか?」

「3階席って、ものすごい高いな。しかもガラガラだな。昔の川崎球場みたいにイチャついてるカップルとかいないかな?」

楽天ファンって、わざわざ東北から来てるのかな?地震は来るは楽天は弱いわ・・・泣きっ面に蜂だな」

すると、昔、球場でアルバイトをしていたA君がいろいろな豆知識を教えてくれる。

通路をさっきからウロウロしながらビール、日本酒、ジュース、アイス、弁当、応援グッズなどなど、様々なものを売り歩いている売り子さんはみなかわいい。

「東京ドームの売り子はみんな女の子。結構、見た目重視」

「みな持ち場が決まっていて、自分のシマでしか売ってはいけない」

「基本給が5000円ちょっとかな?あとは歩合制」

「グラウンドで踊っている女の子たちはタレント事務所に所属している」などなど。

歩合制ってのは厳しい。
だって、日本酒よりビールのほうが絶対売れるだろうに・・・。

が、売り子たちはみな笑顔を絶やさず、政治家のように右手を左右に挙げながらお客を探すのである。

みんな偉いな~

僕が大金持ちだったら、売り子一人ひとりから買ってあげたいけど、僕が金がない上に酒も強くない。

というか、金があったらVIP席に座っている。

すまぬすまぬと思いながら、売り子をチラ見する僕であった。

(目が合うと買わなきゃいけないからね・・・)

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さて、もともと酒が弱い僕は、試合前にコップ1杯のビールを飲み干した段階でもうゲームセットになってしまった。

もう頭もクラクラ回っている。

焼き鳥と唐揚げをビールでやっつけたので、もう十分楽しんだのだが、試合はこれからだという。

面倒だと思いながら試合を見てみたのだが、なんかどうも見にくい。

まず、テレビと違って解説がないので、ストライクかボールかもわからない。

ピッチャーが投げるのを見て、バックスクリーンの電光掲示板を見て、の繰り返しで首が痛くなる。

おまけに、油断して見逃してもリプレイをしてくれない。

パックスクリーンの右端の広告を消して、ずっとテレビ中継の画面を載せておいてくれたらいいのに。

A君は「そんなことしたらみんなそっち見ちゃうじゃん」というが、

僕は別にそれでいいのに・・・・・・・・・・


また、選手がまったくわからない。

あの巨人でさえ知らない選手ばかりなのだ

A君曰く「巨人は高橋も小笠原も亀井も怪我で出てない。楽天も岩隈が故障、岩村が2軍・・・」

僕「ちなみに目の前にいた巨人の3塁手の古城くんって、どんな子なの?」

A「守備要員・・・かな?」

僕「打たんの?」

A「・・・・バックスクリーンに打率が出るよ」

古城君の打率は1割を切っていた・・・。ピッチャーの東野でさえ1割5分なのに・・・

僕「・・・なんで彼が試合に出てるの?」

A「・・・・選手がいないんだよ・・・」

僕「楽天の選手って、なんか小さくない?山崎選手以外は」

A「楽天はちびっこ軍団なんだよ。今は。」

確かに今日出ていた選手の多くは成績も悪かったし、見栄えも悪かった。

なんか2軍の試合を見ているようだった。


が、本当の野球ファンは偉いもので、そんな選手たちにもちゃんと大きな声で声援を送るのである。

外野席の客などは攻撃のときはとても座って見られる雰囲気ではないらしい。

みな立ち上がって、声を張り上げて応援せざるを得ないというのである。


スポーツ観戦にも、コンサートにも行ったことがない僕などは

「みんな仕事で疲れてるだろうに・・・。わざわざ仕事帰りにあんなことしなくても・・・」

「というか、あんだけ声出すの、仕事より疲れるんじゃないか?」

なんて思ったりするのだ。

これを試合が始まってから終わるまで、ペナントレースが始まってから終わるまでやるのか・・・・・

大変だな・・・


すると巨人が得点

巨人ファンがオレンジ色のタオルを取り出して、頭の上でクルクル回し始める。

なんかレゲエのコンサートみたいだな。

みんなでそろって大好きな巨人軍の得点を祝う。

なんか、”巨人への忠誠と愛を証明する儀式!”みたいな感じね。

そんな中に僕が入ると、「高校の式典で君が代の時に立たない教師」みたいになっちゃうんだろうね。

きっと。

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ちなみに、僕が座っていた3塁内野席は楽天ファンも巨人ファンも入り乱れて座っている。

みな思い思いに応援をしているのだが、やはり外野席と違って、みな控え目

お上品なのだ。

なんせ、野球なんぞに5200円を払って観に来ている人たちだ。きっと裕福な人なのだろう。


さて、控えめな内野席のお客さんの中で、僕の真後ろに座っていた女性二人組がすごかったので、紹介したい。

二人のうち、一人はとにかく大の巨人ファンらしく、さっきから

「さ~か~も~とぉ~~!!」

「さ~か~も~とぉ~~!!」

「さ~か~も~とぉ~はぁ~やぁ~とぉ~~~~!!」

と大絶叫をしている。

それはもう、親の仇のように・・・借金の取り立てのように・・・ヤり捨てされた恨みを込めるように・・・・

もう何度も何度も連呼しているので喉が腫れないか心配になる。


というか、絶対彼女の声は届いていないと思うのだが、それでも彼女は坂本の名を叫び続ける。

そして坂本の名を3回呼んだ後で、1回「ま~つ~も~とぉ~~!!!」という名を叫ぶ。

が、たしか試合には”松本”という選手は出ていないはずである。

A君に「松本って、あの”青い稲妻”松本匡かな?」と聞くと

A「バカ。そんなわけねーだろ。というか、あんな若い子が松本匡を知ってるわけねえよ」

 「松本って、去年はレギュラーだったけど、今年は調子が悪くて試合に出てないんだよ。結構人気あるよ」


とのことである。

が、しばらく試合から遠ざかっていたその松本君が、彼女が見に来たこの試合で8回の守備から復帰したからさあ大変!

後ろの女の子はそれこそ失禁しそうな勢いで叫び始めるのである。

「きゃぁぁぁぁっぁ!ま~つ~も~と~!!」


「まつもとくぅぅぅ~~~ん!!かっこいいぃぃ~~~!!」


「まつもとくぅ~~ん!おかえり~~~!!!」


何度も言うが、内野席は控えめな方々の席なのである。

大声を出すようなお客はいないのである。

そんな中で大騒ぎするものだから、みな「なんだ?なんだ?」と振り返るのである。

「きゃぁ!どうしよ???あたし泣きそうなんだけど!」

「あああぁぁ!!松本君!松本君!ま~つ~も~と~く~~~~~~~~~~ん!!」


きっと彼女の部屋は大好きな坂本選手や松本選手のポスターで埋め尽くされているのである。

周りの友達がジャニーズやらK-POPアイドルに熱を上げている中、彼女は誰とも話が合わず、しかたなくまっすぐうちに帰ってお父さんと野球中継を見ているのである。

お父さんは晩酌をしながら、そんな娘と巨人戦を観るのが結構幸せだったりするのであるが

お母さんは「あんた、いい加減にしなさいよ!今年受験でしょ!巨人を応援したって将来なんにもならないよ!」なんて怒るのである。

が、今日はうるさいお母さんがいない。

だから大好きな松本君の名を、声を限りに叫ぶことができるのである。

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しかし悲しいかな、松本君はセンターなのである。

彼女の席から100メートルは離れているのである。

彼女の絶叫は絶対に松本君の耳には入ることはなく、内野席のお上品なお客さんの鼓膜を刺激するだけなのである。

「名前を100回呼んだら1回だけ大きな声に変えてくれる機械があったら彼女に貸してあげるのに…」

「というか、僕が松本君なら優しく彼女の応答に答えてあげるのに・・・・『静かにして』って」

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試合は巨人が4-1で勝ったそうな