俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

さらば第三舞台

昨年の暮れ、第三舞台の封印解除&解散公演 『深呼吸する惑星』を観に行った。

第三舞台というのは、鴻上尚史さんが主宰する人気劇団。

僕の友だちは昔から鴻上さんの舞台が好きでよく観に行っているそうだ。

で、僕も18年ぐらい前にその友達に誘われて何度か公演を観に行ったことがあるのだが、ものすごく興奮したのを覚えている。

学生の演劇とはまるでレベルが違う。

華やかでカッコよく、コミカルでエネルギッシュだった。

コントのようでもあるが、シリアスな展開ではしっかり演技を魅せる。

早口言葉のような長いセリフ回しをスラスラとこなす役者さんたちに「よくあんなに長いセリフを覚えられるものだ」と感心したのを覚えている。

当時、演劇などあまり興味がなかった僕だったが、第三舞台の公演を観ると、無条件にハッピーになれて、元気がもらえた。

結局、友達と一緒に1994年『スナフキンの手紙』、1995年『パレード旅団』、1996年『リレイヤーIII 』、1997年『朝日のような夕日をつれて'97 』と毎年のように第三舞台の公演を観るほどハマった。

その後、僕の海外放浪やら、第三舞台の10年間封印宣言やらで熱は冷めつつあったのだが、今回、また友人がチケットをゲットしてくれたということで、第三舞台の解散公演を見届けることにしたのである。


イメージ 1


第三舞台解散公演『深呼吸する惑星』

会場へ行くと、さっそく鴻上尚史発見。

グッズ売り場の前で「あ!これはなんだぁ~?」とグッズを取り上げ、販売員が「それは第三舞台特製○○です。今なら○○円でお買い求めいただけます!」なんて掛け合いをしていた。

会場にはものすごい花束。

送り主もテレビに出ている有名俳優・女優ばっかり。

で、いかにも演劇関係者、芸能関係者みたいな人が「や~鴻上君、ご苦労様。やっと公演にありつけたね~」なんて大物ぶって握手をしていた。

そんな大物ぶりを見てちょっとうらやみつつ、劇場の中へ入る。

劇場にはどこかで聞いたような音楽が流れている。

この音楽、どこで聞いたんだっけ?と思っていると、隣に座った友達が

「お前はなにも覚えとらんのか?この音楽は第三舞台の開幕前にいつも流れてる音楽だよ。」という。

ああ、それでか。

なんとも懐かしい気持ちになる。

だって、僕がこの音楽を聴いたのは、もう15年以上前のこと。

まだ学生で、当日チケットをとるために友達と4時間ぐらい固い床に交代で座りながら待ったものだ。


で、今回の会場はそんな甘酸っぱい思い出を抱えたオールドファンで溢れている。

例えば劇団四季や宝塚には熱狂的なファンがいて、何回も公演を観に来る人がいるのだが、

第三舞台も強烈なリピーターを抱えている集団だ。

だからか、会場がちょっと異質。

みんな妙にこなれた感じ。

騒ぐ子供もいなければ、不慣れなジジババもいない。

「あんなに急いで席に座るのは素人。開幕のブザーが鳴ってから席に座ればいい。それまでロビーでゆっくりコーヒーでも飲んでるのが通なんだよ」

そんなやつばっかり。

で、そういう奴に限って座席の奥のほうのチケットを持っていたりして、通路側の客から一斉に舌打ちを浴びていたりする。


そんな雰囲気の中、舞台はスタートした。

イメージ 2


で、結論から言うと、つまらなかったのだ。

なんかもうね、プロ野球のOB戦を観るような

往年の名選手の姿を観られるだけでうれしい、みたいな。

そんな出来なのだ。


ま、この10何年かの間に、僕も即興劇を習ったりもしたし、他のプロの舞台、友達のアマチュア舞台、素人演劇なんかも観たりした。

で、ほんのちょっとだけ「芝居の上手い下手」なんてものがわかるようになってしまったのあるかもしれないが、

昔のように目をキラキラさせながら「すげ~!」と唸るような作品ではなかった。



本当に、これが僕が昔 驚愕したプロの演技なのか?というくらい、声に魅力のない女優もいたし

ああ、またこの展開か・・・というお約束も多かった。

これは昔からの第三舞台のファンに対する鴻上さんのサービスなのかもしれないが、

もうお約束の連続。

今回の『深呼吸する惑星』で初めて第三舞台の公演を観たという人がいたら、頭の中は”?”だらけだったろう。

だって、おもしろくもなんともないところで、周りの客が喜んだり、大笑いしたりしているのだ。


で、一番ひどかったのが、なにをかくそう筧利夫の演技。

実は、僕が第三舞台にハマっていた’94~’97年の公演には筧さんは出ていなかったので、筧さんの舞台での演技を観るのはこれが初めてだった。

もちろん、テレビでの活躍は知っている。

ドラマは見たことないが、いつもテンションが高くて、話を振られると必ずボケる、とぼけたおじさんだ。

今回の公演では、唯一テレビでも活躍する一番の有名人なので、僕も期待していたのだが、まあひどかった。

心配になって、他の人のブログなので今回の公演の感想を観てみたのだが、おおむね筧さんの評価は高くない。

大声、早口、棒読み、しかも大根

で、一番セリフが多い中心人物。

「あの人、テレビにもよく出てる有名な俳優さんなんでしょう?なんで?」という感じ。


もともとそういう人なのかもしれないし、それが魅力なのかもしれない。

また、テレビの仕事が忙しくて練習する暇がなかったのかもしれないし、

昔からの看板役者なので鴻上さんも注意できなかったのかもしれない。


もちろん、筧さんだけがひどいわけではないし、第三舞台のオールドファンは喜んでいたのだから、これで良かったのかもしれない。

が、少なくとも僕は「長いな・・・まだ終わらないのかな・・・」と公演中何度も思ってしまった。

昔は公演が終わった直後は興奮しながら友達と感想を言い合ったりしたものだが、

今日は友達も何も言わずに「さ、飯でも食いに行くか・・・」とそっけない。

つまり、そういう出来だったのだろう。

イメージ 3


まあ、第三舞台はこれで解散。

鴻上さんは若手の役者を使って、また新しいステージを作るらしい。


僕も今回で解散というのは正解だと思う。

鴻上さんも、役者も、観客も、

もう同じメンバーでは新鮮な驚きは作れないに違いない。

これではステージと観客の間に存在するという”第三舞台”は創造できまい。


なにか、一つの青春が終わったような寂しさもあるが

僕もいつまでも昔の青春に浸っていてはいけない。

新しいステージに立たなくては。

ま、とりあえず今は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・晩飯を食べるのが先決だけどね。

サヨナラ、第三舞台

イメージ 4