それは2週間前のこと
昼間に嫁から電話がかかってきた。
僕はしばらくは電話に出られなかったのだが、仕事中に電話をかけてくるなんてよほど一大事に違いない。
身内の不幸か、はたまた子供の集団下校中に無免許運転の車が突っ込んだか
いや待て僕には子供はいないし、身内はすでに別の意味で不幸だ
なんだろうと思って、仕事の合間に電話を返してみると、
「週末、お台場のホテルにただで泊まれるらしい。行くか?すぐに返事をいないといけない」
ということだった。
よくわからないが、とりあえず「おう!」と答えておいた。
ふ~ん・・・お台場のホテルねぇ~~
で、帰宅後、詳しく話を聞いてみるとようやく事情が飲めた。
妻の知り合いは小さな旅行会社を経営している。ある時、中国からのお客さんがお台場のホテルを予約したはいいが、お金を払ったのに直前でキャンセル。
4部屋が空き部屋のままとなり、ホテルに問い合わせたところ「お代はいただいているので好きに使ってくれて結構」ということだったので親類・友人に声をかけた、ということだった。
ま、お台場なら1時間ちょっとで行けるので、わざわざ泊まりで行く必要もないのだが、まあせっかくだし、ホテルの朝食付きだし、行ってみることにした。
僕はホテルの朝食が大好きなのだ。
妙にでかい窓から朝日が燦燦と降り注ぐ中、ボーイさんに窓側の席に恭しく案内される。
白いテーブルクロスがかけられた上品なテーブル席に座り、まずはオレンジジュースを一杯。
寝起きのオレンジジュースがしみじみ旨い。
おもわず窓の外を見ながら大きく息をつく。
ビュッフェ形式だからすべてのメニューを食べて、腹がパンパンになったらコーヒーで締める。
そしてホテルの部屋でゆっくり至福のウンコ。
うほほ~~い!楽しみだぞい!
こうして僕と妻は土曜の午後、お台場へと向かったのであった。
正直、僕はお台場自体にはあまり興味はない。
が、嫁が妙にウキウキしている。
なんでも、お台場に新しい商業施設ができたらしく、そこで買い物をしたいのだそうだ。
ホテルに着くと、想像以上にいいホテルでちょっと腰が引けた。
僕は昔、タイとかベトナム、マレーシアなどの東南アジアの国によく行っていたのでホテルは意外に慣れているはずだった。
が、いざカウンターで宿泊カードを出されるとかなり焦る。
「こ、こ、これ、日本語で書いていいんだべか・・・」
「しょ、職業を書く欄って・・・正直に書かないと怒られるんだべか?」
と、急に田舎モンになってうろたえてしまう。
しかも「よろしければご案内いたします」なんて言われて、きれいなお姉さんに導かれるとさらに緊張は高まる。
思わず嫁に「チ、チップ、あげたほうがいいんだべか?」と聞きたくなるが、そんなことを日本語で言ったら思いっきりお姉さんに聞かれてしまうし
そもそも日本人にチップあげるなんておかしすぎる。
「ナメてんのか!」って怒られそうだ。
ま、ホテルの部屋に入ってなかなか出て行かなかったらチップかエッチを要求していると判断すればいいや。
そう一人で悶々と考えていると無事、部屋に到着。
嫁が「うわ~!きれい!」と興奮しているところで我に返った。
幸か不幸かホテルのお姉さんはカードキーの説明をしただけで帰って行った。
ん~~さすがニッポンジン!
ホテルに荷物を置いて、噂のダイバーシティへ向かう。
なんでも、おととい開店したばかりだそうで、初めての週末とあってものすごい人だかり。
僕はとりあえず建物の前に立っているガンダムを見に行くと、これがまあ、すごい迫力なのだ。
何年か前にもお台場にガンダムが建てられて、嫁はそれを見ているので「なんだ、動かないのか」「あの時はもっと人が多くて大変だったな」と冷静
一方僕はもともとガンダムに興味はなかったが、実物大がとてもよくできていたので子供に戻って興奮。
「すげ~な~、日本ってすげ~な~・・・本当にガンダムがいるんだもんな~~」
と外国人のようにはしゃいでしまった。
次にダイバーシティに入るとまあ、これがものすごい混雑。
嫁の後について、いろんな店に入って行ったのだが、僕が覚えているのは「人が多かった」ということだけ。
僕は「人酔い」するたちなので、人ごみが苦手なのだ。
頭が痛くて次第に無口になり、不機嫌になる。
それを察知した嫁は「さっさと飯を食わせて落ち着かせよう」と最上階のレストラン街へ連れて行くのだが、これがどの店も2時間、3時間待ちは当たり前。
僕は一気にダイバーシティが嫌いになってしまった。
しかたなくダイバーシティを出て、アクアシティという別のテナントビルに入った。
ここは比較的すいていて、レストランにもすぐに入れた。
ま、しばらくはダイバーシティに客が集中するだろうが、あそこもすぐに静かになるだろう。
僕はカツ丼を食べながら、ダイバーシティへの文句を垂れ始めた。
「そもそも、お台場なんて週末とか連休とかじゃないと客が集まらないだろう?」
「ゆりかもめ高ぇーんだよ」
「中国人客を集めたいっていうけど、アキバに行くっつーの!」
「スカイツリー客を呼び込みたいって、コバンザメか!」
「日本初出店の店とか言っても既存の店と代わり映えしねぇっつーの!」
「買い物だけなら都心のほうが便利だっつーの!」
などと言いながら、結局はお台場で買ったワインをホテルの部屋で1本開け、スーパー成城で買ったちょっとお高いチーズを堪能しながら眠りにつくのであった。
結構楽しい夜だった。
翌日、久しぶりに目覚ましのならない朝を迎えた。
いや~・・・ホテルの布団はフカフカで気持ちがいい。
部屋のドアにはなぜか英字新聞がはさまれていた。
他の部屋は日本の新聞が挟まっているのに。
おそらく韓国人の嫁がチェックインの際、アルファベットで記帳したせいだ。
嫁は英語わからないっていうのに・・・・
とにもかくにも朝食!
とにかく朝食のためにホテルに泊まったんだから、朝食を食べなきゃ始まらない!
朝食会場は3つあるが、最上階のレストランはものすごく込むらしいので、一番すいてそうな1階のレストランにした。
朝食会場の入り口で朝食チケットを渡す。
ホテルは高級なのに、この食券システムだけはちょっと貧乏臭い気がするのは僕だけか?
ま、とにかくその後は黒服を着たウェイターが恭しく窓際の席にエスコートしてくれる。
あいにくの小雨交じりの朝だがそれもまた味があっていい。
なかなかいい眺めだ。
まずはオレンジジュースで喉を湿らし、雨に濡れた中庭を寂しそうな表情で眺める。
別に寂しそうな表情でなくてもいいんだけど、僕はもともと寝起きが悪い上に辛気臭い顔なのだ。
そして意気揚々とビュッフェへと向かう。
ビュッフェ形式の朝食を一通り眺めたあと、日ごろの貧乏性を発揮しながらすべてを少しずつ皿にとっていく。
クロワッサンと食パン、炊き込みご飯におかゆ。お!ホットケーキとワッフルもあるな。
それから野菜炒め、焼きそば、ポテト、温野菜、サラダは嫌いなのでやめて、
ウインナー、ベーコン、目玉焼き、温泉卵、漬物、
味噌汁とコーンスープ・・・も両方もらって
あとはデザートね
バナナ、パイナップル、マンゴー、フルーツポンチ、ヨーグルト、冷凍ライチ
そのすべてのメニューが30分後にはきれいにトイレへと流されていくことをこの時まだ僕は知らない。
そんなこと知りたくもない。
たくさん食べてたくさん出す!
これぞ健康の証!
パンツを下ろして準備完了!
砲台用意!打て!
ペリーが来航し、それに脅威を感じた江戸幕府が砲台を作った場所
それが「お台場」の由来だそうだ
う~む・・・ガンダム