俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

車を運転しよう④ 番外編

マレーシアで車を買うことになった僕は、日本にいる両親からお金を借りることにした。

41歳のドラ息子が、74歳と68歳の親から金を借りるのである。

自分でも情けないとは思うがしょうがない。

「絶対に返すから。なんだったら利子をつけてでも!」と説得し、100万円を送ってもらうことにした。


ただし、僕の両親が住んでいるところはみずほ銀行三菱東京UFJといった都市銀行がない。
みんな”農協”とか、地元の信用金庫でお金を預けている家がほとんどだ。


母はその弱った足腰に鞭を打って近所の郵便局に行ってくれたのだが、「ここでは無理です。もう少し大きい郵便局じゃないと・・・」と言われてしまい、しかたなく自転車でえっちらおっちらと少し離れた大きめの郵便局へ行くことになった。

マレーシアの銀行に送金するには、英語で銀行名やら住所やらを書かなければならない。
母は苦労して申請書類を書き、ゆうちょ銀行からマレーシアの銀行へ送金をしてくれた。

通常なら4~5日でつくという。


不思議なもので、海外送金というのはとんでもなく時間がかかるものらしい。
「日本からマレーシアまで飛行機で6時間半。人の手で運んでも1日で済むのに・・・」
なんて僕などは考えてしまうのだが、そう簡単にはいかないらしい。

ゆうちょ銀行で4~5日。
地方の銀行や信用金庫だと3週間から4週間もかかるという。

別に本当にお金を運んでいるわけではあるまいに。
インターネットで情報のやりとりだけでしょうに。

とにかく、5月16日(金)に送金してくれたというので、次の週には届くだろう。
お金を払って車が手に入れば、夢のカーライフ!
41歳にして初めての車での通勤!
あのわずらわしいタクシー通勤ともおさらば!
車さえ手に入れば僕のマレーシア生活はバラ色に変わるはず!
そう考えるとうれしくなってしまう。

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しかし、水曜日になっても、木曜日になってもお金は届かなかった。
ま、多少は遅れることはある。なんたってここはマレーシア。

来週には口座に振り込まれてくるだろう。

僕にはまだ余裕があった。

しかし、その翌週もお金は振り込まれなかったのである。

カーディーラーからは「ボス!車の名義変更終わりましたよ!」「ボス!エンジンチャックも終わりましたよ!もういつでも乗って帰れますよ!」なんて電話がバンバンかかってきていた。

僕は両親に電話で「悪いけど、ゆうちょ銀行に問い合わせてくんない?」とお願いしてみた。

確かに2週間経っても振り込まれないのはおかしい。

両親はゆうちょ銀行に行き、説明を聞いたのだが「6月22日には確かに日本から海外に送金されている」「ただし、日本円をドルに換え、そのドルをまたマレーシアの通貨に換えるので時間がかかっているのかもしれない」「最近は海外からの送金に対してチェックが厳しくなっている。テロの支援に使われるのではないかということで、いろいろ調べられているのではないか」と言われたという。

いやいや、ちょっと待てや。
16日に振り込んだのに22日まで日本にあったのはそれはそれでおかしい。
おまけにドルに換えて送金し、マレーシアに通貨に換金するって、そんなの頼んでもいないし。なんでそんな二度手間なことするの?マレーシアって、普通に円を換金できる国なのに。

おまけに後期高齢者の我が父がなんでテロ支援をするっちゅーねん。
もっと言うなら、送られた相手(僕)がテロリストかどうか調べたらいいんじゃないの?
パスポートも見せるし、会社に来てもらってもいいし。なんだったら呼び出されてもいいよ。
とにかく早く金を口座に入れてくれ。

このころは毎日朝、昼、晩と、口座にお金が振り込まれていないかネットでチェックするようになっていた。

6月30日、お金を振り込んでから2週間。

僕はマレーシアの銀行にメールを書いた。電話で直接文句が言えたらよかったのだが、英語力に自信がないのだ。

しかしマレーシアの銀行からの返事が届いたのは3日後。

しかも妙にテンションの高い文面で

「いつも○○銀行を利用してくれてありがとうございます!でも海外送金は時間がかかるからね!もっとよく調べますので、送金日、送金機関、金額、氏名、取扱い番号etc教えてください!あと、控えの画像もPDFファイルで添付してね!なにか問題があったらいつでも相談してね!」

みたいなことが書いてあった。なんかイラつくなとは思ったが、とにかくすぐに情報を書き込んでメールを返信した。

しかし、返事が返ってきたのはまたもや2日後だった。
マレーシアはなにをしてものんびりなのだ。

その文面も

「いつも○○銀行を利用してくれてありがとうございます!あなたのケースをカスタマーセンターに報告しました。明日か明後日にはカスタマーセンターから連絡があるから、それまで待っててね。連絡がなかったら遠慮しないでまたメールしてね」

みたいな感じだった。謝罪がないのがいかにも海外である。


僕はカーディーラーに正直に「日本からお金を送ってもらってるんだけど、届かないんだよ。お金の支払い、あと1週間、待ってくんない?」と話すことにした。

するとあれほど愛想のよかったディーラーが「Oh・・・I see・・・」と急にふて腐れたような顔になった。

ちょっと待ってくれ。本当なんだから。悪いのは俺じゃないんだから!
なんで俺が借金の返済に苦しんでる人みたいになってんだよ!俺、そういうの一番嫌いでローンさえ組んだことないんだから。

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と同時に、日本にいる両親も再び郵便局に出向き、話を聞いてきてくれたそうである。
その田舎の郵便局員が言うには

「日本から海外に送金をする際には、一度アメリカに送られる。すべての金融機関がそうである」
「あなたのお金もアメリカまでは渡っていることが確認できた」
「あとはマレーシアの金融機関で止まっている可能性がある」
「もしくは、口座番号一つ違うだけで別の人の口座に送金されてしまうのだが、本当にミスはないか?」
「国によっては、銀行に直接お金が渡るのではなく、国の中央機関に集められることがある。そこから呼び出しがあって、お金を取りに行くこともある」

なんて説明を聞いてきたらしい。
日本からの送金がすべてアメリカ経由なんてにわかに信じがたいが、そうだとしたら「なんでそんなことするの?」「余計なことしてくれるなや!」という感じだ。

僕も両親も、日本からマレーシアに送金をしたのである。それを勝手に、僕らの知らないところでアメリカ経由にしたのは日本の金融機関だ。今はどこにあるかわからない、じゃすまされない。

しかし、その後の追跡調査には「お金がかかる」とまで言うのである。
ちょい待てや!
こっちは手数料を払って送金を依頼してんだから、責任を持って口座にお金を届けるのがそっちの義務だろうが!


6月3日、送金から18日。
マレーシアの銀行のカスタマーセンターから連絡がきた。
ちゃんと個人名で送られてきたがもちろん謝罪はなく、「苦情を訴えてくれてありがとう」みたいな内容だった。

そして「あなたのケースを調査班に依頼して調べてもらってる。わかったらすぐに連絡するから。あと、このメールはよっぽどのことがなければコピーとかしちゃだめよ」みたいなことが書いてあった。

なんか・・・思いっきり”たらいまわし”にされてるみたいなんだけど。
調査なんてそっちでゆっくりしてくれたらいい。とにかく先にお金を入れてくれまいか?

しかし次の日も、次の日も、お金はもちろん、その人から調査結果が来ることはなかった。

夕方6時。

もう銀行は営業時間は終わっているだろう。
だが僕は思い切ってメールに書いてあったその担当者の部署に電話を入れた。

幸か不幸か、電話には誰も出なかった。

そこでもう一度メールを書いた。

もう泣き落としのような文面で「頼むから早くお金を返してくれ!」みたいなことを書いた。

本当は「この泥棒銀行が!人の金を盗んだとネットで言いふらすぞ!」とか書いてみようかとも思ったが、とりあえず「お金がないと困るんだ!」みたいな書き方にとどめておいた。

お金が振り込まれたのはその夜(6月5日)だった。


まるで「こいつしつこいなぁ~。電話までかけてきやがった。しょうがねぇ、こいつの仕事を先にやってやっか」ってな感じで処理してもらったようだ。


おかげで僕は無事にカーディーラーにお金を払い、車を手に入れることができたのだが
今回の件で学んだマレーシアでの教訓は

しつこく催促すると嫌われるが、先に仕事をしてもらえる


ということだ

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