赴任先の中国・北京でメガネを作ることになった。
僕は現在50代の駐在員だが、最近老眼に悩まされている。これまでメガネを作ったことは2回ある。20代の後半、免許更新のために作ったのが1回、そして40代の後半、なんとなく小さい文字が見えなくなってきた上に、またまた免許更新も重なったので念のために作ったのが1回。でも普段はメガネをかけない人生を歩んできた。実は30歳の時にレーシックの手術を受けたことがあり、以来20年以上メガネなしで過ごせてきたのだ。数年前まではオフィスのパソコンの倍率を大きくしている先輩を「ジジィか!」と心の中で笑っていたのだ。

しかしそんな僕にも老眼の波は容赦なく襲い掛かる。
ここ数年、僕は薬の箱の文字が見えず(何錠飲むかわからない)、濃縮そばつゆのラベルが見えず(何倍に薄めればいいのかがわからない)、「地球の歩き方」の文章が見えず(何がお勧めかがわからない)、嫁のスマホの文字が見えなかった(ママ友からの腹立つメッセージらしいが、メッセージも文字がまったく見えない)。
良く晴れた午前中の明るい日差しの下では小さい文字も見えたりするので「まだいける!」なんて強がっていたのだが、夜のリビングではそれも通じず、職場でも午後になるとパソコンの文字が重なって見えるようになって仕事に支障をきたすようになってきた。僕はメガネをかけてこない人生を歩んできたのでメガネをかける自分が想像できなかった。だからメガネをかけて生きてきた同僚に「耳の後ろとか鼻の付け根とか、痛くならない?」「寝るときとお風呂以外はずっとかけてるの?」「メガネケースっていつも通勤カバンに入れてるの?」とか小学生のような質問を繰り返した。50代のおじさんなのに。さらに同僚の女性が「私は入浴時も寝るときもメガネをかけている!メガネは顔の一部です!」と本当なのか嘘なのかわからないことを言い出し、恐怖すら覚えた。
一応、3~4年前に作ったメガネはいつも鞄に入れているので、どうしても文字が見えないときは一時的にそれを使っている。しかし僕の目の現在の状況は、見えないのはPCや書類など、手を伸ばした範囲の小さい文字だけで、メガネをかけたまま近くにいる人の顔を見たり、遠くを見たりすると目がクラクラしてしまう。典型的な老眼の症状なのだ。
で、話は先週のこと。小さい文字を見るために鞄からメガネケースを取り出し開けたところ、フレームからレンズが外れていたのだ。何度かはめてみたが、すぐに外れてしまう。3~4年前に作ったメガネは度数も合っているかわからない。来年夏に日本に一時帰国したときにでも新しいメガネを作ろうかと思ったがそれまでだいぶ時間がある。これで仕事に支障が出るのだけは避けたい。
で、結局僕はこの地でメガネを作ることにした。幸いここはメガネの国。AIによると中国は
・2025年のレポートによると、中国の近視人口は6.3億人から7億人を超えると推定されており、全人口(約14億人)の約半数
・2022年時点のデータで、児童・青少年の近視率は51.9%、高校生では81.2%
・2025年におけるアイウェアのユーザー普及率は53.3%と予測されており、2030年には61.2%まで上昇する見込み
・江蘇省丹陽(たんよう)市だけでも、世界の眼鏡レンズの約50%(2枚に1枚)を生産しており、年間売上高は2400億円
などなど。確かに中国人はメガネをかけているイメージだ。きっと需要も供給もたくさんあって、安く作れるに違いない。僕はChatGPTに「北京で外国人がメガネを作るのにおすすめの店」を聞いた。すると北京には「眼鏡城」なるものがあるという。Trip.comでもおすすめされるような観光地でもあるらしい。僕のうちからは電車で30分程度だというので行ってみた。
潘家园という町は、北京最大の小道具と古書、古銭の町として観光客も多く訪れる場所だが、地下鉄の違う出口を出ると全く違う顔になる。メガネの町なのだ。大通りの両側にメガネ屋だけを詰め込んだ大型のショッピングモールがあり、その周りの路面店も視力関係の店ばかり。まずは駅近くのショッピングモールに入ると、すぐに圧倒された。メガネ屋がずらりと並び、店の前に客引きの店員がハイエナのようにこちらを見ている。怖くなってエスカレーターで上階に上るが、2階も3階もずらりとメガネ屋が並び、客引きが待っている。「こんなに要るか?」「どこも一緒だろう?」「選べないだろう?」、そんな言葉が頭に浮かぶ。土曜日の午前は人もまばらで、店員が暇そうにしている。メガネなんて1日にいくつも入れるもんじゃないし、ましてやこれだけ店があるんだからやってけないだろう?しかも1つの店に店員多っ!僕はとりあえず各フロアを1周して外に出た。いや、すごい。本当にすごい。ここに来ればメガネに関してはあらゆる夢が叶うね。

大通りを渡り、お目当ての「眼鏡城」へ向かう。ここも大型ショッピングモールの中の個店すべてがメガネ屋という、メガネファンなら歓喜の声を上げるような建物だった。僕は事前に英語が通じる「ANN OPTICAL」という店を調べていたのでまっすぐそこに向かった。幸い、客は僕一人。中国人女性が英語で対応してくれた。念入りに左右の視力を調査し、遠視・近視の度合いも検査、レンズをいろいろ組み替えて僕に合ったものを選んでくれた。店員さんのおすすめは日本のHOYAというブランドらしい。せっかく中国に来たのに結局は日本製か、と思いつつも親切な店員さんのおすすめに従うことにした。フレーム選びもいろいろ手伝ってくれ、入店後ものの30分で注文が完了した。しかも2~3日で作って自宅まで送り届けてくれるという(旅行者にはホテルまで届けてくれるとのこと)。こりゃ楽だわ。料金は1050元(21000円程)なので日本で作るのと同じくらい(中国ではちょっと高い?)。ま、仕事で使うものだしね。
こうしてメガネの国のメガネの町で、3年ぶりのメガネ作成は成功裏に終わった。来年もお仕事がんばります!













