俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

引っ越しのあいさつ

みなさんは、アパートを引っ越した時、ちゃんとお隣さんやご近所さんにあいさつをしているだろうか?

引っ越しのあいさつはするに越したことはない。

礼儀上したほうがいいのは間違いない。

しかし、このご時世、女性の一人暮らしの場合はあいさつをすると「女性の一人暮らし」を知らせてしまうことになり、危険を伴う。

よって東京ではアパートくらいだとお隣さんにあいさつをしないことも珍しくない。


が、これがマンションとなると話が変わる。

大きなマンションは組合があることもあるそうだし、ご近所の目もある。

マンションは家族ぐるみのつきあいになることだってあるから、両隣、上下階へのあいさつは欠かせないだろう。


が、自慢じゃないが僕は人見知り

できることならあいさつはしないですましたい。

ご近所つきあいなんてしたくない。

僕の住処は”マンションタイプ”とは銘打っているものの、3階建て、ワンフロア3部屋の、なんともこぢんまりとした建物なのだ。

アパートと言ってもいいと思う。

アパートならあいさつは省略してもいいじゃないか!

そう何度も自分にいいわけをしていた。

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話は変わるが、僕の妻は韓国人

だからというわけではないが、やはりあいさつはしっかりしておいたほうがいいと思う。

同じ建物に挨拶をしない外国人がいるのは、日本人にしたらあまり気味のいい話ではない。

ちょっとでも物音がすれば、「なにしてるのかしら?」とご近所さんは不安になるし、

ゴミの出し方のルールを守っていない人がいたら、「きっとあそこの家の人よ!日本人じゃないからルールがわからないのよ!」なんてあらぬ嫌疑をかけられかねない。


僕は嫁に「挨拶周りをする時に配る韓国ノリを持ってくるように」と命じ、引っ越しを待った。


実際、僕は嫁より1週間早くこの部屋に越してきていた。

本来ならば引っ越しをした当日か翌日にはあいさつをするのが礼儀である。

が、「まだ嫁が来ていないからしょうがない」

そう自分に言い訳をし、僕はなるべくほかの住民に会わないようにひっそりと暮らした。

まあ、窓にカーテンもかけてあるし、絶対に「あれ?あの部屋、誰か入ったのかな?それにしてはあいさつがねーな・・」と気づかれているだろうが、

一応「気づかれてないはず」と信じながら過ごしていたらやっと嫁が来日。

ちゃんと挨拶周り用の韓国ノリも買ってきた。

その日の夜は疲れているというので挨拶は後回し

次の人は「やはり熨斗をつけるべきじゃないか」ということで中止

その次の日は嫁が「粗品」とかかれた熨斗を買ってきたので、「それは違うんじゃないか?」ということで中止

そのまた次の日にやっとこさ「ご挨拶」と書かれた熨斗を買ってきたのだが、その日は熨斗に名前を書くだけでおわってしまった。


困った・・・

僕が引っ越してからもう2週間は経っている。

嫁が来てからも1週間が経っている・・・。

最初は威勢良く「挨拶周りに行くぞ!これが日本の習慣だ!」と言っていたのだが、さすがにこれだけ日にちが過ぎると完全にタイミングを失っている。

正直、行きたくない・・・。

今更のこのこ挨拶に行って、「何よ?今頃?」みたいな顔をされたら嫌だ。

が、いつまでもご近所さんと顔を合わせないようにビクビクしながら暮らすのもストレスだ。

でもなぁ・・・

このまま妻が「もう挨拶やめない?」って行ってくれたら・・・

「なんだよ~しょうがね~な~」と言いながらホッとできるのに・・・

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そんなことを考え始めた日曜の昼

妻がいきなり「挨拶周りしない?」と言い出したのである。

「・・・・そ、そうね・・・・」

妻にこう言われてしまったら嫌とは言えない。

僕は一家の主なのである。

もっと言うなら、日本の鑑なのである。

夫として

日本人として

”ちゃんと”やらないといけないのである。


僕はやっとこさ重い腰を上げた。

紙袋に韓国ノリを詰め、嫁を従えて挨拶周りに出ることにした。

まず真上の部屋

呼び鈴を押すと、インターホン越しに「どなたですか?」という子供の声がする。

「あ、2階の○○と申します。引っ越しのご挨拶に伺いました」

ガキにはやや不相応なほど丁寧に名乗ると、その推定5歳の男の子は

「・・・・・・お母さ~ん!何か来たぁ!」と、インターホンのスイッチをしたまま叫ぶのである。

「"何か "じゃなくて"誰か "だろう・・・」と心の中で思いつつ、待っていると、奥のほうで母親らしき人が何か言っている。

ちょっとイラついているようだ。

「誰が来たの?」「わかんない!」「ちゃんと名前聞かなかったの?」「わかんないんだもん!」みたいなやりとりがなされているようだ。

しばらくすると今度は母親の声で「はい?なんでしょう?」とインターホン越しに訪ねてきた。

声はちょっと怖い。

僕はもう一度「あの、2階に越してきた○○と申します。ごあいさつに伺いました」というと、「ああ・・・。ちょっと待ってください」と、ややふてぶてしく答えるのである。

「なんか怖いな・・・・どんなのが出てくるんだろう?」と思っていると、これがまたなかなか出てこない。

同じ2Kの部屋なんだから、そんなに時間がかかるわけがない。

3分ほどすると、ドアが開き、なんと中から金髪チョビ髭の優しそうな男性が顔を出した。

なんとなく拍子抜けしながらも、韓国ノリを渡して挨拶をすると

「あ、これはこれはどうも、ご丁寧に・・・」と、実に礼儀正しく応じてくれるのであった。

奥さんは料理で手が放せなかったか、トイレ・シャワー中だったのかもしれない。

とにかく、最初の挨拶は無事に済んだ。

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次の部屋はやや派手目の30代女性が出てきた。

同じように「引っ越しのあいさつに来ました」と名乗ると、「はい、ああ、ありがとうございます。すみません、ちょっと今、主人が出ておりまして」と丁寧に頭を下げ、「いえ、いえ、突然おじゃましてすみません」と答えると今度は奥にいた子供に「ほら、挨拶しなさい」と促すのである。

その後、同じ階、下の階とあいさつに行った。

妻は調子に乗って呼び鈴を押す係を買って出た。

こちとら、心の準備が必要だというのに、妻は「次!」と張り切って呼び鈴を押しては後ろに引っ込むのである。

が、妻が調子に乗るのも仕方がない。

挨拶にいった全ての家で

「これはご丁寧に。すみません」と少し申し訳なさそうに頭を下げてくれるのである。

みんな、ものすごく対応が丁寧なのである。


なんだ・・・こんなことなら最初からもっと早く挨拶をしておけばよかった。

そりゃそうだ。

引っ越しのあいさつに来られて、悪い気はしないもの。

挨拶にくるような人なら悪い人ではないだろうし、挨拶に来られるだけで先輩気分だもの。

上から目線で「おう!かわいいヤツじゃねーか!わからないことがあったら何でも訊いてくんな!」ぐらいのことも言いたいくらいだ。

そして嫁と一緒だったのもよかったのかもしれない。

女性の一人暮らしらしき人もいたが、その人だって夫婦で挨拶に来られたほうが警戒しなくて済むだろう。


自分の部屋に帰ってきたとき、どっと緊張感が取れた・・・。

いや~~~~~~~良かった!!

やっと肩の荷が下りた・・・

なんだよ~~~

挨拶まわり、簡単じゃん!!

このまま下の部屋の乳児を抱いた若奥さんの家になだれ込んで家族ぐるみのつきあいを開始したい気分だ。

僕はちょっと得意になって「どうよ?これが日本の習慣なんだよ!」と言うと

妻は「すごいね~。みんな優しいね~。○○(←僕の名前)も挨拶上手だね~」と褒めてくれたので

僕はますますドヤ顔になって

「ま、最近はあいさつ回りをしない奴も多いけどね~。でもやっぱり常識でしょ?挨拶は?」

などと答えてしまった。


そこで結論

挨拶周りは・・・・・・やっぱりしたほうがいい!!

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大人なら・・・・・・・・・