僕は今、シャワーを浴び、バスタオルを腰に巻いた状態で部屋の中をウロウロしている。
暑いからではない。
熱を冷ましているわけではない。
パンツを探しているのだ。
嫁と暮らし初めて10日が経った。
先日、一人暮らし時代の6畳一間のボロアパートを離れ、
現在、6畳二間のボロアパートに移り住んでいる。
このアパートにはまず僕が先に入り、1週間後に妻が入ることになったのだが、妻は「あとで私がまとめて片づけるから、あなたはそのままにしておいて」と言ってくれていた。
なかなかによく出来た妻であるなとは思ったが、今やこのアパートの部屋は完全に彼女のものとなった。
まず彼女は引っ越してくるなり、様々な整理グッズを欲した。
3段のカラーボックス２つ
押し入れよう衣装ケース 大×４
洗面台用の棚大・小
キッチン用棚1つ
キッチン用ワゴン1つ
食器用水切り台
シンク下用仕切棚
その他、僕が以前から所有していた棚や、衣装ケース、段ボール等を駆使し、押入の中やキッチン、洗面台等を必死に片づけ始めた。
そして彼女が完全に把握できる状態になった時、僕は完全に立場を見失った。
僕は大学進学以来、18年近く一人暮らしをしていたので、家事はある程度できる。
洗濯は1週間に1～2回。
バスタオルは2～3週間は同じものを使っていたので、それほど洗濯機を回す必要はなかった。
掃除は週に1回
掃除機は持っていなかったが、クイックルワイパーやダスキン風モップを使ってこまめに掃除していた。
自炊は自分で食べる分くらいは問題なく作れる。
男の料理はシンプルであり、複雑な工程を必要としない。
茹でるだけ、煮るだけ、焼くだけ、炒めるだけ、チンするだけ。
そのままお鍋やフライパンから食べれば余計な食器を使わずに住む。
簡単に作れるのでレトルトカレー、インスタントラーメン、乾麺（そば、うどん、ソーメン）なんかもよく利用した。
100円ローソンをこよなく愛し、100円のお総菜や「野菜炒めパック」なんかもよく利用した。
世の中は独身男性にも優しかったのだ・・・。
しかし、今や僕は家事をする気にはなれない。
妻は、掃除機を使うのである。
妻は、毎日バスタオルを洗うのである。
妻は、朝、昼、晩と料理を作るのである。
ヨーグルトとはちみつでサラダドレッシングを作ったり、お米に玄米を混ぜて炊いたりするのである。
今更、男の一人暮らし流の家事などできない。
今までキッチンの上の棚にあったはずのインスタントの味噌汁は姿を消した。
妻はインスタント味噌汁など必要としないのである。
今まで下駄箱の上に置いていたドリップコーヒーも姿を消した。
下駄箱は食べ物を置く場所ではないのである。
今まで段ボールに入れられたしばらく着ていない服はハンガーにかけれた。
今まで食卓に出しっぱなしにしていた爪切りは、薬箱の中へ
今までトイレの床に積み置かれていたマンガは本棚へ
今までベッドの上から消えることのなかった布団は押入へと
姿を消したのである。
が、僕は今までの自分の生活を妻に強要するつもりはない。
やはり出しっぱなしはよくない。
整理整頓は大事だ。
今まであった場所にものがないのは最初は苦労するけれど、そのうち慣れるはずだ。
が、僕は今、大変なピンチに陥っている。
妻が買い物に出ている間にシャワーを浴びてしまったのだ。
妻が来てからの10日間、僕が仕事から帰ってシャワーを浴びようとすると
妻はどこからかバスタオルとシャツとパンツを出してくるのである。
僕が独身時代、パンツを入れていた段ボールの姿はすでにない。
よって僕のパンツは押入れの中にある７つの衣装ケースのうちのどこかにあるはずである。
が、不思議なことに、７つの衣装ケースを開けてみても、パンツは見当たらないのである。
この中をすべて引っ掻き回したら、僕はあとでこっぴどく怒られるに違いない。
が、ぱっと見、パンツはどこにもないのである。
もし、僕が妻と喧嘩をして、妻が実家に帰ってしまったり、
不慮の事故で妻がいなくなってしまったりしたら、
僕はもう、一生パンツがはけないのである。
会社へ行く時も、ノーパンにスーツ
買い物に行く時もノーパンにジーンズ
銭湯に入るときもノーパンにタオル・・・
とにかくノーパンでいなければならないのである。
38歳にもなって、パンツをはいていないおじさんを、社会は認めてくれるのだろうか？
スーツから我慢汁がにじんでいるような大人を、世間は認めてくれるだろうか？
そう思うと、僕は嫁がいなければ生きてはいけないのである。
僕はなんだか悲しくなってしまった。
裸で腰にタオルを巻いたまま、涙がこぼれそうになった。
嫁よ・・・・
早く帰ってこい・・・
僕のパンツを出してくれ～
結婚すると男はだめになる。
