俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

夫婦だもの・・・その3

妻は昼寝から起きると、こちらを一瞥もせずに台所へ立った。


僕「なあ、そろそろちゃんと話をしようか?」

妻「ご飯を食べながら・・・・」

僕「いや、今のほうがいいよ」

妻「ご飯作るのに時間がかかるんだよ」

僕「ご飯の時間は遅くなってもいいから」


すると妻は、今川焼きだか大判焼きだかわからないが、とにかく昼に買ってきたらしいものと、アイスコーヒーをテーブルの上に置き、席に着いた。

顔は相変わらず憮然としている。


僕「俺が昨日の昼、ご飯を作るのが遅いって怒ったのが嫌だったの?」

妻「・・・・別に・・・」

僕「別にって、沢尻エリカじゃないんだから・・・・」

妻「・・・・別に嫌ということじゃない」

僕「怒ってるの?」

妻「怒ってないよ(怒)・・・」


僕は一瞬、「あっそう・・・・」と言いそうになった。

が、「怒ってない!」「あっそう」では決して解決はしないのだ。

ここは相手の言葉を引き出さなくてはいけないのだ。


僕「俺がなにも言わないでムスっとしたから?『そんなに怒らなくてもいいじゃん』とか?」

妻「・・・・」

僕「ねえ、教えてよ。このままでずっといても、お互い良くないよ。時間に厳しすぎるのが悪かった?」

妻「・・・・」

僕「・・・・」


ストップウォッチで測れば10秒程度の沈黙でも、こういう時の沈黙はなんとも長く感じるものである。

ん~・・・どうしようかな~と次の手を考えようかと思った瞬間、妻が口を開いた。


妻「(泣く)最近、ずっと冷たいよ・・・」

夫「ん?ずっと?」

妻「昨日も朝から冷たかったよ」

夫「????」


僕は妻が機嫌を損ねた原因は、昨日の昼のことだと思っていた。

昼ご飯を作るのが遅くて僕がムスっとしたことが原因だと思っていた。

が、そうではなかったのである。

妻は、積もりに積もっていたストレスを一気に解放した。


「昨日の朝、『(あなたが仕事をするなら)あたしはなにをしたらいいの?』って聞いたとき、『自分で決めろ』って言ったじゃん。すごく冷たくてショックだったよ。ちょっと甘えただけだったのに」(←俺、そんなキツイ言い方はしたっけ? その1を参照!)

「あたしが掃除したと言ったら『きれいになった』って言うくせに、ホコリを見つけたら黙ってダスキンで拭くじゃん。あたしに『ここ掃除し忘れてるよ』って言ってくれたらいいのに!そういうのもすごくショックなんだよ!『家事もちゃんとできないのか!』って姑に無言で言われてるみたいなんだよ!」

「目覚まし時計だって、あたしがセットしたって言ってるのに、絶対自分でもう一度チェックするじゃん!なんであたしを信用しないんだ!っていつも思ってたよ!」

「冷蔵庫の開けっ放しだって、わざとじゃないのに急に大きい声あげることないじゃない!」

「昨日だって、ちゃんとお昼作るつもりだったのに、急に国から電話がかかってきたんだよ。家族と話しちゃいけなの?韓国語で話しちゃいけないの?」

「あたし、日本でずっと一人なんだよ!家族と話すぐらいいいじゃん!本当に、もうあんたの前では家族と電話できないのかって思ったよ!」

「昨日、昼ごはんの時間を聞いたとき、『何時でもいいけど、12時半』って言ったじゃん。何時でもいいなら怒ることないじゃん!!」(←当然僕の方は「何時でもいいけど」より「12時半」の方に重きを置いていた)

「あたしがゲームばかりするって嫌み言うじゃん!あたしバイトもなかなか見つからないし、やることないんだよ。あんたが仕事にいる間、家でずっと一人なんだよ!寂しいし、つまらないんだよ!」

「昨日、バイトの面接もひどかったんだよ。『返事は一週間後』とか言われてさ、ショックだったんだよ。それなのに面接のことも聞いてこないしさ!妻の様子がおかしかったらそれに気づいて話を聞くのが夫の役目なんだよ!」

「あたしが怒ってるのに昼寝したり、声もかけてこないし、へらへらしているし!あたしに興味ないのかと思ったよ!」

「あんたがシャワーに行ってる間に泣いてたわよ!でも泣いたらずるいと思って見せなかったよ」

「メールで『迎えに来る』って書いてきた時も、なんかこのまま機嫌とられてごまかされそうだったから・・・・ちゃんと話さないで終わっても良くないと思ったよ!」

「本当に最悪のことまで考えたんだから!!離婚したらさ、女は韓国ではもう生きていけないんだ!!(←?)」


妻は涙をポロポロこぼしながら、思いの丈を打ち明けた。

「本当に!全然話しかけてこないし!放っておかれるし!あたしに興味ないのかと思ったよ!あたしは先に好きになったほうだからさ、あんたは最初あたしに興味なかったからさ、怖いんだよ!お互い いい年だったらしかたなく結婚したんじゃないかって・・・あたしは先にホレたほうだからそう思うんだよ!!!」

気づくと僕も泣いていた。

ごめんね、ごめんねと言いながら・・・

妻もまた僕が声をかけるのを待っていたのだ。

実はそれは夫の仕事だったのだ・・・・

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妻は台所に立った。

そしていとこが日本に来ていること、弟も来月 日本に遊びに来ること、僕の健康保険のこと、バイトの面接のことなどなど

たまりにたまっていた”本当は話したかったこと”を、

堰を切ったように話し始めた。

僕はそれは一つ一つ聞いた。


やはり妻はこっちのほうがいい。

仕事中は多少、面倒に感じることもないわけではないが

妻は明るくおしゃべりすぎで、リアクションが大きくて、甘えん坊で・・・・

夫婦はできるだけ仲がいいほうがいい・・・



その日、我が家の食卓には「ベトナム風、生春巻き(手巻き寿司式)」が並んだ。

自分で具を選んで生春巻きを作る、というものだ。

僕は大学を出てから2年ほど、青年海外協力隊員としてベトナムにいたことがあり、ベトナムは青春がいっぱい詰まった国。

よってベトナム料理も大好きなのだ。(ベトナムにいたのはもう10年以上前だが・・・)

それを知っていた妻はこっそり材料を買いそろえていたのだ。

実は妻の方も、今晩あたりがヤマだと思っており、「何か好きな料理でも作って仲直りのきっかけを作ろう」と密かに思っていたそうな・・・





そりゃあ喧嘩もするさ、人間だもの

夫婦なんてもともと血のつながっていない他人同士だもの

でも、友達や同僚と違うのは

これからずっと、死ぬまで生活を共にする他人であるということ。

だからこそ、ちゃんと話し合って理解し合おうと思うのが夫婦だと思う。

無視したり、ごまかしたり、どちらか一方が我慢したり・・・ってことは友達や同僚にはできても

夫婦では長くは続けられない。

解決するためには嫌でもぶつかるしかない。


だからこそ、かな?

喧嘩もするさ、夫婦だもの。

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