それは今年五月のこと
『ナニコレ珍百景』は、視聴者の投稿を元に、町の珍しい景色、建物、動物、現象、行事、風習などを紹介する番組。
結構、採用のハードルが低いにも関わらず採用されると賞金3万円、MV珍を獲ると10万円と、わりと高額なため、素人投稿者が今、もっとも熱を入れている番組と言っていいかもしれない。
僕も賞金目当てに一回だけ投稿したことがあるが、見事に失敗。
が、僕が投稿した「蔦に覆われた家」のほんの200メートル先にある神社の石段が珍百景に選ばれたことから、僕の周りにも結構ネタを探してさまよっている人がいるのかもしれない。
この手の番組は80年代はたくさんあったが、ここ最近はかなり数が減ってしまった。
素人ネタなので、”大爆笑”とまではいかないが、家族と一緒に見てもっとも安心できる、良心的な番組とも言える。

で、今年の5月のことだが、青森県のあるおじいさんが紹介された。
93歳の竹浪正造じいさんの珍百景は「56年間描き続けた絵日記」
昭和27年に長男が生まれた時から毎日書かさず描き続け、
今ではノート2300冊分になっているという。
で、その絵日記が実に温かい。
絵もなかなか上手いが、なんとも生活感があってすばらしい。
「初めて水道が通った日」「初めて電話が通った日」
「ある年のおせちのメニュー」「娘の嫁入り道具一式」などなど
「ある年のおせちのメニュー」「娘の嫁入り道具一式」などなど
当時の青森の生活風景が細かく描かれていて、VTRを見終えた堀内建も「これは(民俗)資料として残したほうがいいかもしれない」とまともなコメントを残して感心する始末。
僕も「博物館に保存するか、図書館にデータ保存したほうがいいな」と思った。
日記を書き続けることもすばらしいが、青森の民俗風習を記録した資料としても貴重。
優しい挿絵とともに、生活記録が描かれていて実にすばらしいのである。

で、先日、何気なくテレビのワイドショーを見ていたら
その正造じいちゃんの絵日記がすでに出版されていて、しかもかなり好評であるという。
これは買わねばと本屋に行き、さっそく手に入れた。
で、少しずつ読もうと思い、トイレに設置。
朝、晩のうんこのたびに少しずつ読み進めた。
この日記は、いらずら好きの息子に後で振り返ってもらい、反省してもらうために描いたというが、
実に愛情たっぷりで、正造じいちゃんの子供たちをみる優しい視線が伺える。
もちろん、プロではないし、自分のために描いた絵日記なので画力は限界があるのだが、
毎日毎日、こんなに丁寧に絵を描いて、色をつけていたのかと思うと驚かされる。
年を追うごとに背景の描き方や全体の構図などがうまくなっているし、着物や履き物、家財道具が少しずつ変わっていく様子もおもしろい。
ちゃんと着物を着ていた夫婦はやがて洋服となり、
土間の台所は洋風のキッチンに、
ミキサーや録音機、電話機も昭和の香りを残し、
そして自らも少しずつしわが増え、老いていく。
そして最大の見所は、妻の礼さんがなくなるシーン。
戦中、戦後と、ともにかけぬけた最愛の妻が入院し、他界、葬式、通夜に至るまでしっかり記録している。
正造じいちゃんは、奥さんが亡くなったあと、何度も何度も奥さんの夢を見る。
そして命日、法事、お盆のたびに思いを馳せるのである。
優しいなぁ。
そして暖かい。
夫婦とはかくありたい。
そう思わずにはいられない。
奥さんを一途に愛し、一途に想い続ける竹造じいちゃん。
ここで日記が終わっていたらどんなに素敵なお話になっていたことだろう。
が、竹造じいちゃんはどこまでも正直に日記を書き続けるのである。
88歳の時、酔ったスナックのママに「私も竹浪さんが大好きよ」と言われ真剣に悩む竹造じいさん。
気持ち悪い・・・(が、当然、じいちゃんの勘違い)
92歳の時、夢の中にまたまた奥さん登場。
しかし物忘れが激しくなった正造じいちゃんは
「母親の夢は見るが、家内の夢は今まで見たことがない」と記録・・・・・
出版社の人もさすがに「やばい」と思ったのだろう。
活字にする歳にはこの部分は削ったが、直筆がしっかり載っていた。
で、しまいには夢に出てきた妻に
「20数年ぶりで会ったんだからSEXどうか・・・」
と誘う正造じいさん。
惜しくも「ここは病院だから・・・」と断られるのであるが、92歳にしてなんたるバイタリティ!!
奥さんとはいえ、92歳でセックスとは、気持ち悪いぞ!竹造じいちゃん!
でもちょっと素敵!

で、最後は平穏日常な日記で終わり、今でもマイペースで一日一日を過ごしているそうだが、
いいな~~
こういうじいさん、好きだな~~
なにより、「どんなことも包み隠さず書き残す」姿勢がすばらしい。
僕もこうありたいと思う。
どんなに恥ずかしいことも、どんなにつらいことも
人に気持ち悪がられても、笑われても
書きつづけていきたいと思うのだ。