俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

僕のデンマーク戦

「ワールドカップ?日本は3連敗に決まってるじゃん」

「何を夢見てるの?それが現実だよ。」

「なんか、カメルーンデンマークにも穴があるなんて言ってるけど、それを言うなら日本は穴だらけだよ」

「くだらない星勘定してるけど、E組の他のチームはまず日本戦で勝ち点3を”確実に”取ることを想定しているから。星配給係りなのよ、日本は」

「ワールドカップベスト4が目標?俺が他国の監督なら腹を抱えて笑ってるよ。ワールドカップ前の戦績、お忘れかい?ジャップ。身の程を知りたまえ」


自称「サッカーに興味はない男」である僕は

ほんの一ヶ月前まではそう公言してはばからなかった。

ワールドカップ日本代表を応援できる人は、野球で言えばロッテやベイスターズを応援できるやつぐらい、ボランティア精神にあふれた優しい奴なんだと、弱いチームだからこそ放っておけない、そんな母性溢れる奴なんだと思っていた。

今回に限って言えば、日本の”ごく少数の”サッカーファンを哀れんだりもした。


それがどうしたことだ。

僕はこの2週間というもの、ワールドカップ日本代表とそのファンにレイプされ続けている。


なまじカメルーン戦で勝ってしまったのがよくなかった。

あの時負けていれば「ほらね」と鼻で笑いながら、仕事に趣味にと精を出すことができたのに。

カメルーン戦に勝った直後からこの僕にも「もしかしたら・・・」なんて気持ちが生まれ

オランダ戦の惜敗から「オランダとこれだけやれたんだから・・・」と期待を抱き、

この4日ぐらいはデンマーク戦のことが気になって気になって仕事が手につかなくなる始末だ。

といっても、自称「サッカーに興味がない男」としては、間違っても青い日本代表ユニフォームを来たり、友達のうちに集まってテレビ観戦したり、パブリック・ビューイングに参加したり、渋谷でバカ騒ぎをしたりはできない。

まあ、元来人見知りが激しい上に出不精な男なので、そんなことはできっこない。

だから密かに我がオンボロアパートの一室で静かに拳に汗を握るしかない。

が、デンマーク戦は夜中の3時半にスタートなのだ。ハーフタイムもあるから、終わるのは5時半くらいか?

僕はここのところ木曜日は深夜の0時頃に帰宅している。それからずっと起きていたら明日の仕事に響く。

仮眠をとっても起きられるかどうか・・・。

それなら試合開始まで起きていて、試合が終わってからちょっとだけ寝たら・・・いやいや、これは寝坊する危険性が大だ。

俺はサッカーファンじゃないんだ。試合なんか見なくなって、朝の『めざましテレビ』で結果だけ見ればいいじゃないか。

ゴールシーンなんてあきれるほど流されるのだから。

でも・・・・正直言うと・・・・見たい。

でもせっかく見ても負けたらものすごく損な気がするし

スコアレス・ドローでも、「くっそ~。見なきゃ良かった。つまんね~」と後悔すると思う。

でももし、またいい試合をして・・・・スーパーゴールが生まれたりなんかしたら・・・・

う~ん、どうしようか・・・。

結局僕は「前半は0対0」と予想。後半の点が入りそうな時間帯から見る、ということにした。

目覚まし時計を4時にセットして目を閉じた。




蒸し暑さも手伝ってか、なかなか寝付けない。

それでも明日の仕事のために目をつぶる。

・・・どうなってるかな・・・・・どうなってるかな・・・








「(うぉ~~~!!!)」

 はっ!?

隣の部屋から聞こえる歓声で目が覚めた。

僕のオンボロアパートは隣の部屋の声がまる聞こえなのでアダルトビデオを見るにもイヤホンが必要なほどなのだ。

隣の部屋では大学生が集まってサッカーを見ていたようだ。

あの歓声からして日本がゴールを決めたのだ。

僕は急いでテレビのスイッチを入れると、案の定、本田がゴールを決めていた。

試合が始まって20分と経っていない。

くっそ~・・・・本田めぇ~・・・早ぇ~んだよ~~

しかしそれにしてもなんともお見事なフリーキック・・・

回転のないボールが、スローモーションでゴールに吸い込まれた。

「これで本田の市場価値はさらに上がったな・・・」

そんなことを思いながら

「このまま1対0か、デンマークが1点入れて1対1で、日本の決勝トーナメント進出ってとこだな」

そう予測して、またテレビを消し、布団をかぶった・・・。

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「うぉ~~!!!」

はっ!

また隣のバカ学生の歓声!!

またゴール??


急いでテレビをつけると、今度は遠藤の見事なフリーキック!!

なんと2点目をあげていた。

「なんだよ~、すげ~じゃん。これで決まりじゃん!」

前半だけで2対0

もうデンマークが逆転することは難しい。

それどころか、総攻撃に出たデンマークが逆に日本のカウンターを食らってもう2~3点とられるかもしれない。

スペイン対北朝鮮みたいな、サディスティックな試合を、日本が演じるかもしれない。

僕はすっかり目を覚まし、体を起こしてテレビを見る体勢に入った。

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試合は一進一退。

デンマークは守備のチームと言われているが、驚くほど守備が甘い。

まあ、攻撃に重点をおかなければならない状況ではあるのだろうが、それにしても日本のパスがおもしろいほど入る。

一方、日本もオランダ戦に比べると守備が甘い気がする。

冷や冷やする場面も度々あったが、相手の拙攻に助けられる。

しかし後半35分、ついにオランダがPKのチャンス。


僕は「ここで川島が止めたら、最後まで試合を見る。ここで川島が入れられたらおそらくデンマークが勢いづいて最後に猛攻を見せる。そのまま2対1か、最悪2対2ってとこだ。もう見る必要はない」

そう思ってみていると、川島はなんとか最初のシュートを止めたものの、こぼれ球を押し込まれ、デンマークが1点を入れた。

僕はそれを見届けてテレビを消し、布団をかぶった。












6時半。

2個目の目覚ましの音で目が覚めた。

さあ、日本中が大騒ぎしているだろう。

案の定、テレビをつけると朝のニュース番組はどこもサッカー一色。

また渋谷で若者がバカ騒ぎ。死ねばいいのに。

さいたまスタジアムも、東京のスポーツバーも人がいっぱい。

すげーな。日本人。

日本人ってこんなにサッカーが好きだったんだ。

こいつら金曜日休みなのか?

まあ、若い奴らばかりだから、体力があるんだろう。

それにしてもさいたまスタジアムの中継をしていたフジテレビの生野アナのはしゃぎぶりがむかつく。

マイクを使ってキャーキャー叫び、何を言っているかわからない。

おまえレポーター失格だ。


が、なんとスコアを見ると3対1になっている。

ということは・・・・僕が寝た後に日本はさらに1点をあげていたのだ!!



OH!MY GOD!!

なんてこったい!

最後はフリーキックではなく見事に相手のディフェンスを突破し、自分でも決められた本田が同い年の岡崎のゴールを譲って余裕のゴール。


それにしても僕は見事にゴールシーンだけを見逃していたということになる。

なんだよ!なんだよ!

僕が見てない時だけ点をとりやがって!!

僕は疫病神か!!

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なんとなく納得できない気分で

それでいてやはり日本の勝利はうれしく

重い体にムチを打ってシャワーを浴びた。

僕は中途半端な眠りで瞼が重い。

が僕は日本のサラリーマン。

サッカーを見て寝不足なんて口が裂けても言えない。


駅まで続く坂道を、寝ぼけ眼でてくてく歩く。

僕の隣を歩いている若いサラリーマンも

その前を歩く学生さんも

みんな僕と同じ顔




サッカー狂いと笑いたければ笑え

やはり僕も見事な日本の小市民だったのだ。

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