俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

音漏れチャカチャカ

それはとてつもなくタチの悪い奴だった。

朝の通勤電車に乗った途端「うわ~・・・・最悪だ・・・」と思った。

イヤホンからキチガイのような音楽をチャカチャカ鳴らしたバカがどこかにいる。

それがもう、ひどいのである。

ちょっとした音漏れなら我慢もできよう。

しかし今朝のはそれこそ車内のスピーカーで小さく流してるんじゃないかってほどに、車内に響いていた。

そもそも、朝の通勤電車は、みな静かなのである。

満員電車の圧迫感に、みなじっと耐えながら、静かに時が過ぎるのを待っているのである。

しかも、僕が乗ったのは通勤特快で、23分ドアが開かないのである。

ただでさえものすごい圧迫感の中、そんなチャカチャカ音を23分も聞かされたら、したこともない罪を自供しそうになるのである。

僕はかばんからそっとi-Podを出して耳にはめ、韓国語のリスニングを始めた。

これでなんとかごまかせると思ったのだ。

が、語学のCDはやはり沈黙の時間も多い。

なのでやはりあのチャカチャカ音が気になるのである。


何かのテレビでやっていたが、イヤホンは高い音ほど音漏れがして、そんな音ほど人を不快にさせるのだそうだ。

今朝のチャカチャカ・バカも例に漏れずヘビィ・メタル

電車でイヤホンから音漏れしてる奴はたいがいロックかヘビメタだ。

だから周りの人を不愉快にさせる。

本当にイライラするのだ。

あいつらの耳ってどうなってんだ?

そんなにボリュームを上げないと聞えないのか?

うちの96歳のじいさんぐらい耳が遠いのか?



僕は吊革につかまり、目をつぶって語学CDに耳を集中させるのだが、耳に集中すればするほどチャカチャカが気になってくる。

どうも僕から2メートルくらい離れているようだ。

僕の隣の隣の隣の隣くらい?

ここまで聞こえてくるんだから、そのバカの半径1メートル以内に立っている人は相当イライラしてるはずだ。

なぜ、誰も注意しないのか?

絶対にみんなイライラしてるはずである。

誰か、注意すればいいのである!(とみんな思ってる)



ちなみに僕は・・・・

彼と"ちょっと"離れているのである。

ああ、なんて残念・・・。

もっと近くにいたら「ちょっと音量下げてもらえますか?」なんてスマートに言ってやるのに。

残念、残念。

これは一番近くにいる奴が注意しなきゃいけないところなのに・・・・なぜこれしきのことが言えない?

逆ギレされるのが怖いのか!?


ん?僕?

僕は怖くないさぁ。

だって、僕は、格闘技とか・・・・・・・・よくTVで見てるし。

僕に殴りかかってきたら大変だよ。

ボコボコにしちゃうよ。

『とんぼ』の長渕剛みたいになっちゃうよ。

こう見えても僕は”平塚の虎”って呼ばれてたからね。

虎を解き放つと大変だよ。血を見るよ。


それにしても誰も何も言わねーな。

新宿まで我慢しようってことか?

だめだね。

注意するべきだよ。

そいつは明日も電車の中で周りに迷惑をかけるよ。

それは社会のためにならないよ。

だれかがちゃんとわからせてあげなきゃ?


僕?

いや、僕がしてもいいけどね。

ま、相手が泣いたら可哀想だしね。

うん、その、あれだ。

会社に遅刻していけないしね。家族もいるし(・・・・・・・・・と、みんな思ってる)


だれかが一言いったら、援護射撃をする準備はできてるよ。

ほら、正当防衛ってのもあるからね。

そいつが逆ギレして殴りかかってきたら、俺ももう、虎を解き放つよ。

うん。

もう修羅場になるよ。


目をつぶり、じっとチャカチャカ野郎をタコ殴りにしてる妄想をしていると、

隣の隣の隣ぐらいから、「ボソボソ」っという声が聞こえた。

「ん?なんだ?」

と思って目を開けると、「チッ」という舌打ちが聞こえた。

こ、これはついに開戦か!?

あと10分我慢すれば新宿だと言うのに!


しかし、その後、チャカチャカ音はピタリと止み、車内はまた平和な静寂が訪れた。

その直前に、あからさまな安堵のため息が聞こえたのが笑えた。


それにしても情けないの~~~チャカチャカ野郎も・・・

かかってこいや~

ああ、俺の腕の見せ所だったのに

ま、今日も死人が出なくて済んだよ。

俺も人殺しにならなくて済んだ。


僕は今日も晴れ晴れとした気持ちで新宿駅を降りるのであった。


ドン!

僕「あ、すみません・・・」






(この野郎!俺をなめんじゃねーぞ! 殺すぞコルァ!!!)



あら嫌だ、遅刻しちゃう!早く行かなきゃ・・・・