俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

彼氏研修その7「両親に紹介する」の巻

(あらすじ:36歳にして初めて彼女ができた起夫は、女性との付き合い方をまるで知らない彼氏童貞。よって経験豊富?な韓国人彼女ジュンを教官と仰ぎ、立派な彼氏になるためのイロハを教わっている。)


ジュン「ふ~・・・緊張するなあ・・・。ねえ、髪、変じゃない?ねえ?大丈夫?」

起夫「うわっ、凄い風!ちゃんと傘持っててください!」

ジュン「くっそぉ~!なんでよりによってこんな大事な日にこんな天気なんだぁ!」


強風と小雨が降る中、ジュンと起夫は起夫の実家に向かっていた。

「それにしても・・・」

起夫は付き合い始めてからのこの1ヵ月半のことを思い出していた。

とにかくものすごい速さで話が展開していた。

すでにジュンの母親には顔を合わせている。

これで起夫の両親にジュンを紹介すれば、もう話は決まったようなものである。


人生は何が起こるかわからない。

生まれてからこれまでの36年間、女性と付き合ったことがなかったのに

これまで婚活すらする資金もなかったのに

ジュンと付き合いだしてから結婚までの流れがものすごく速い。

むしろ本人たちよりも、周りの勢いが強烈で、ジュンと起夫は流れるままに身を任せていた。


起夫「あの、うちの父親は小心者で、兄嫁の両親に会うときもほとんどしゃべれずに早く帰りたがった男なので、今日もしゃべれないと思います。でも、別に結婚に反対しているわけではないので・・・」

ジュン「う~~~。おなか痛くなってきた・・・」

起夫「あの、できれば教官のほうからいろいろ訊いていただけると・・・父親も楽かなと」

ジュン「ま、やれるだけやってみるけど」

起夫の実家の前に立つと、ジュンは急いで髪を整え、息を深く吸った。

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起夫「ただいま」
ジュン「こ、こんにちは・・・」

すると両親は必要以上に低姿勢でジュンを迎えた。

両親(特に父)は完全にアガっていた。

居間に通されるジュンと起夫

母親はお茶を淹れはじめ、父親は茶菓子を用意し始める。

しかし両親はなかなか座ろうとしない。

予想通りであった。

普通は家の主人は床の間の前にどかっと座り、堂々と客を迎えるものである。

が、小心者の起夫の父にそんなことができるわけがなく、何を話せばいいのかわからない父親は母とともに台所に逃げてしまうのであった。

ようやくお茶の用意が整うと、父親はすっと障子を開け、ひざまずき、「ようこそおいでくださいました」と言った。

起夫は心の中で「旅館か!」「そんでもってあんたは仲居か!」と突っ込んだが、儒教文化の韓国では父親を侮辱するなどもってのほかなので、起夫は冷静に「あの、お父さんもお母さんも落ち着いて座って・・・」と諭すのであった。

母「そ、そうね。お父さん、お茶は?」

父「おう、そうだな。俺たちもお茶入れて座るか?」

当たり前である・・・。

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しかし、最初はぎくしゃくした両親とジュンであったが、ジュンが日本語が堪能であること、化粧っけも少なく、質素な服装でまじめなルックスだったことに、両親は次第に安心感を覚えたようだ。

そしてジュンが幼い頃に父親をなくし、働いて家族を支えてきたことなどにも感心したらしい。

すると母親はおもむろに自分達の結婚当初のことを話し始めた。

母「これからいろいろあるだろうけど・・・・結婚は譲り合い。お互いに我慢をしたり、スタイルを変えたりしてかなきゃいけない。あたしも昔は、お父さんがズボンのポケットにものを入れたまま洗濯機かごに入れるのが許せなかった」

母親曰く、母の実家では家族は自分でポケットの中のものを取り出して洗濯かごに入れるのがルールだった。

一方、父の実家では「洗濯する前に母親が洗濯物のポケットをチェックするのが当たり前」だったのだそうだ。

それ以外でも、結婚当初は些細な生活スタイルの違いでイライラすることがあったという。

それは起夫でさえも初めて聞く話ばかりであった。

これまで喧嘩などしたことがなく、夫婦間のいざこざなどないと勝手に思っていた起夫には意外な驚きであった。

が、あの両親でさえいざこざがあったのだというのは新鮮な驚きであり、

今回、起夫がジュンを連れてきたことによって初めて聞けた話なので、改めてジュンを連れてきて良かったと思った。

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父はこの日のために、腕を奮ってトン汁、たまごサラダ、いかと大根に煮物、酢の物などを作ってジュンに振舞った。

ジュンは猫舌であるため、食べるのは遅いがよく食べる。

結局ジュンは漬物、刺身、御飯、デザートの苺を含め、多めに用意された食事を全て平らげた。
しかも御飯と苺はお代わりをした。

ちなみに食事の前にも、ジュンは大量の茶菓子とチョコレートを平らげていた。

起夫は改めてジュンの大食いに目を丸くしたが、父は自慢の手料理を全て平らげてもらい、大喜びであった。

最後は母親がジュンと写真を撮りたいというので写真をとっておいとますることにした。

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ジュン「ああ・・・おなかが苦しい・・・」

起夫「教官、食べすぎっすよ・・・。でも良かった。父親もがんばってよく話してくれたし」

ジュン「うん。なんか、全然小心者じゃないじゃん。お父さん、よく話してくれたよ。料理も上手だし」

起夫「うん。でも良かった。両親も教官のこと優しそうで良かったって言ってましたよ」

ジュン「そういえばね、最後に写真撮ったじゃん?あの時、お母さんが私の耳元で『うちのお嫁さんと』って言ってくれたんだよ。うれしかったな」

起夫「・・・・」


明日はジュンが帰国する日である。