俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

『およげ!たいやきくん』考

僕がお気に入り登録しているYoutube Channel『Mr.Fuji From Japan』にて『およげ!たいやきくん』のリアクション動画がアップロードされた。懐かしいな!『およげ!たいやきくん』。1975年の発売だから僕が2歳の時か。もちろん発売当時のことはわからないが、その後もずっと『ひらけ!ポンキッキ』(フジテレビ系列)で毎日のように流されていたのでよく聴いていた。で、Mr.Fuji君達がこの歌の歌詞について「どうゆうこと?」「日本一売れたCDは結局自分が食べられちゃう歌?」なんて言っているのを観て、いろいろと言いたくなってしまったのだ。この歌は・・・すごいんだぞ!

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ちなみにネットで調べてみたら『およげ!たいやきくん』の歌詞についての考察がここ数年、妙に増えているようだ。そして大方の見方は一致していて

・『およげ!たいやきくん』の歌詞は、当時の社会状況を反映している。

・サラリーマンの悲哀を歌った社会風刺ソングである

・タイ焼き屋=会社、鉄板の上で焼かれる=会社の型どおりに働く社畜、辛い仕事、おじさん=上司、おなかのあんこ=家族、桃色サンゴ=水商売の女、難破船=昔栄華を誇った場所、落ちぶれた先、サメ=堅気じゃない人、釣り針=詐欺・罠 などを表している、などなど。

作詞者の高田ひろお氏がそこまでを考えていたかはわからない。が、そこまで深く読み込め、解釈が広げられるような歌詞であることは間違いない。Wikipediaには「子供たちに遊び心と冒険心を伝えたい」「たい焼きを七つの海で自由に泳がせたら面白い」と思い立って書いた児童小説を読んだポンキッキのスタッフが歌にすることを依頼した、とまでしか書いていない。

およげ!たいやきくん - Wikipedia

ただ当時の子どもたちは当然そこまで歌詞を読み込めるはずもなく、当時の大人だって子供がほしがるからレコードを買ってやっただけだと思う。カラオケだってなかったし、大人が子供の歌を聴いたり歌ったりするような時代じゃなかった。ではなぜこれだけのヒットにつながったのか。以下は僕なりの考察である。

①『ひらけ!ポンキッキ』の影響

月曜から金曜日まで毎朝放送される人気子ども番組で毎日のように流れるのである。これ以上のプロモーションはあるまい。発売前の予約がすでに30~35万枚あったというのもうなずける。あのアニメのような、紙人形劇のような映像も印象的だったし、海中にいるようなゆらゆら揺れる演出も見事。さらに最後のおじさんの見た目の気持ち悪いさったらなかったな。

およげ!たいやきくん / 子門真人 - YouTube

②発売年

1973年生まれの僕は第二次ベビーブーマー、僕の父は団塊の世代。つまり親子ともに人口の多い世代だった。その多くの子どもが「このレコードほしい!」とねだり、その多くの親が「しょうがねぇ。買ってやるか」と行動に移してくれた。スマホも電子ゲームもなかった時代の贅沢なプレゼントだったんだろうな。ま、レコード買わなくても毎日テレビで流れていたんだけど。

子門真人

Wikipediaで調べてみると、最初は生田敬太郎さんという方が歌っていたそうだが、当初はレコード発売の予定がなかったので生田さんは別のレコード会社と専属契約を結んでしまったそうな。で代役としてたてられたのが子門真人さんなんだけど、圧巻だよな。子門さんじゃなかったらもしかしたらここまでのヒットにはなっていなかったかもしれない。僕は一時期、この歌を「みゃ~いにち、みゃ~いにち、ぶぉくらはてっぷぁんぬぉう~」なんて歌っていたが、これはとんねるず木梨憲武さんの影響だ。ノリさんは子門さんの歌い方が大好きでよくパロディをしていて、当時の子どももマネしていたな。風貌はコミックソングを歌いそうなんだが、歌の迫力・表現力はすごいの一言に尽きる。『ガッチャマン』も『ライディーン』も最高!

ガッチャマン (1972) OP2 - GATCHAMAN OP2 - YouTube

勇者ライディーン OP STEREO - YouTube

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④ツッコミどころのあるストーリー

現在では『およげ!たいやきくん』の歌詞について深く考察されているが、当時の子どもは「タイ焼きがどうやっておじさんとケンカするんだ?」「タイ焼き屋から海までどうやって移動したんだ?」「タイ焼きがどうやって釣り針に食いついた?口開かないだろ!」「海でふやけたタイ焼きを食うか?気持ち悪りぃ!」とツッコんでばかりだった。それがおもしろかった。子供ウケのいい歌やお話ってのは、理不尽で不自然で、ツッコミどころがあるほうがいい。なんなら少し残虐性があったほうがいい。「浦島太郎」なんてカメを助けたのに老人にされるという理不尽な話だし、「カチカチ山」なんてばあさんは鍋にされるわタヌキは船を沈められオールでとどめをさされるわ、かなりホラーだった。ああいう物語としての”ひっかかり”があると子供の記憶に残る。

⑤哀愁漂うメロディ

あの曲を作った人達ってすごいよな。歌詞を書いた高田さんはもちろん、作曲をした人も、編曲をした人もすごい。普通イントロからあんな哀しいメロディーつける?子供向けの曲に。バイオリンだかストリングスだかのちょっと冷たい音に、エレキギターのちょっとまぬけで哀愁漂うメロディが重なるあのイントロを聴くだけで一気に当時の気持ちに戻される。でゆっくりとしたAメロ、ノリのいいBメロでスケールが大きくなったのにまたAメロに戻って一気に哀愁の世界に引き戻される。

最後の最後もやっぱりハッピーエンドにならないのが歌詞でも音でも表現されている。たまらんね。

⑥そしてやはり子供の心に刺さる歌詞。

当時の僕はまず”ももいろサンゴ”という魅惑的な響きに心を打たれた。そして「時々サメにいじめられるけどそんなときゃ(そうさ)逃げるのさ」で感じた嫌な汗とドキドキ。さらに「どんなにどんなにもがいても、針が喉からとれないよ」という心の叫びを聞いた時の絶望感と恐怖。最後は「やっぱり僕はタイ焼きさ、少し焦げあるタイ焼きさ」の時の虚無感。調子に乗っていたヤツが死ぬ時ってこんな感じなのかな?「俺は自由だ!勝ち組だ!人気者だ!天才だ!有能だ!」って思って周りを見下してたやつが人に騙されたり炎上したり誰にも相手にされなくなったりして富も地位も名誉も人望も失ってどん底の状態で死ぬとき、「やっぱり俺は凡人だ」「成り上がりの田舎者だ…」「利用されてただけだったな」「所詮、ピエロだな」「自分では何もできない無能だったな」なんて思うのかな。

弱肉強食の”弱肉”

ちなみに『およげたいやきくん』は毎日の家事やら掃除当番なんかを黙々と淡々と、ちょっと嫌々するようなときに歌うとピッタリくる。僕は家族の垢がついた湯舟を洗剤とスポンジでゴシゴシこするときに「ま~いにっち、ま~いにっち、ぼくらはてっぱんのぉ~」なんて鼻歌を歌っている。おじさんの”やらされてる”作業には『およげ!たいやきくん』の哀愁のメロディーがよく似合う。