老人「ぐろ~りあ~、あいに~じゅら~ぶ、おま~えの熱いは~とで~♪」
所長「?」
老人「お、ここか、満がおるのは。まったく、父親にわざわざ遊びに来させる息子がどこにおる・・・」
所長「こんにちは。おじいちゃん、お一人?」
老人「ん?また逆ナンか?しかしそれにしては妙齢な・・・。ま、みのもんたから見たら”お嬢さん”か。お嬢さん、ワシに惚れると火傷するよ」
所長「おもしろいおじいちゃんね。どこから来たの?入所希望の方?」
老人「はあ?なんでワシが老人ホームなんかに入らにゃならんのだ。ワシはまだ89と10ヶ月だぞ!」
所長「あら、それは失礼しました。ご面会かしら?奥様が入居されてらっしゃるの?」
老人「いやいや。妻は12年前に餅を喉につまらせて死にました。なかなかツッコミのうまい妻でしたな。”柴又のあした順子”の名をほしいままにしていましたな。」
所長「(事務所のほうに)だれか!一人外に出てるわよ!」
老人「旧姓は久留間、名はトラ、人呼んで通風のトラとはうちのかみさんのことでして・・・」
所長「おじいちゃん、ちょっと待っててね。(事務職員に)だれか!ちゃんと見てなきゃだめじゃないの!」
老人「(所長に合わせて)だれか!早くお茶とお菓子持ってきてちょーだい!」
所長「おじいちゃん、静かに。お部屋に戻りましょうね。」
老人「は?何を言っておるんだ。ワシは息子に会いにきたんだ!満を出せ!」
所長「完全にボケてるわね」
老人「ちょっと待て!まだボケてないぞ。突っ込むならボケてからにしてくれ!」
所長「(事務所に向かって)だれか!早くしなさい!」
老人「早くしないとここで野グソしちゃうわよ!早くシロたいやきを持ってきなさい!」
所長「はいはい。おじいちゃん、ちょっと待っててね。」
老人「いや、そこは突っ込んでくれ。なんだここは?冗談のわかるやつはおらんのか?」
職員「所長!お待たせしました!お茶とたいやき持ってきました!」
老人「お、いた」
所長「おちゃとたいやきはいいのよ!それより、この方、入居者じゃないの?」
老人「いただきま~す!」
職員「いえ、違いますね」
所長「入居所の家族の方?」
職員「ちょっと、面識ないですね」
老人「たいやき旨し!」
所長「おかしいわね。どこかから徘徊してきたのかしら?」
職員「警察呼びますか?」
所長「そこまでしなくてもいいわよ。それよりたいやきなんてどうしたのよ。」
職員「あ、あれおやつです。所長の分」
所長「え!あれ、あたしの?」
職員「だって所長、『お茶とたいやき』って言うから・・・・」
所長「なんであげちゃうのよ!あたしのおやつ。しかもこんなじいさんに・・・・?あら?おじいちゃん?」
職員「あら?どこ行ったんでしょうね?」
所長「ああいうのが一番危ないのよ。徘徊しているうちにとんでもないところに行っちゃうんだから。」
職員「怖いですね」
所長「だから入居者から目を離しちゃだめよ。」
職員「わかりました。」
所長「それから知らない人にあたしのおやつあげちゃだめよ」
職員「・・・・・・・わかりました」
(老人ホーム内)
老人「ここが老人ホームか。ずいぶんしわくちゃな場所じゃな。若い子が一人もおらん。じじいとばばあばっかり」
職員B「おはようございます。お元気ですか?」
老人「はい、おかげさまで。あっちのほうはさっぱりですけど」
職員B「うふふふ」
老人「うふふふって・・・もっとなんか言ってくれよ・・・」
職員C「あら、新しく入った方?」
老人「ええ、今年からDA PUMPのメンバーになりました。ICCHAです。よろしく」
職員C「はい、よろしく。(右を見て)あ~田中さ~ん、おトイレ一人で行ける?」
老人「いや、よろしくじゃなくて・・・・なんじゃここは?ワシのボケが通用しない?」
満「と、父さん?」
老人「あ!じいちゃん!会いたかったよ~~!」
満「なんで僕がじいちゃんなんですか。」
老人「だって老人ホーム入ったじゃん。ワシより先に。」
満「父さんが元気すぎるんですよ。それより、わざわざ僕に会いに?」
老人「かわいい息子のためじゃ。なに、遠慮はいらん。コーヒーとケーキさえあれば」
満「ありませんよ。そんなもの」
満「何キレてんですか。そんなの老人ホームにあるわけないじゃないですか!」
老人「なんじゃ、つまらん。」
満「それより急にどうしたんですか?」
老人「ちょっと近くまで徘徊してきたのでな。」
満「冗談は止めてください。それより、息子達とはうまくやってるんですか?」
老人「おう!ばっちり!隆はあんま相手してくれないけど、海さんも葵も突っ込んでくれとる」
満「父さん。そんなにボケてばかりじゃ、いつか本当にボケたときに区別つかなくなりますよ」
老人「人を狼少年みたいに言うな。その時は”天然”と呼んでくれ」
満「”天然”っていうか、そこまでいったら”自然”ですけどね。」
老人「おう!それで結構!人はいつか自然に還る。素晴らしいことじゃないか!」
満「縁起でもないこと言わないでくださいよ。」
老人「人はいつか死ぬ。それが自然の摂理じゃ。わしだっていつかは死ぬ」
満「父さん・・・・」
老人「順番から言ってまずお前が先に死ぬ。次にわし、それから隆」
満「ちょっと待ってください!なんで僕が先なんですか!」
老人「いや、なんとなく。お前、先死にそうだし。」
満「いやですよ。父さん先死んでくださいよ」
老人「お前、親に向かって『先死ね』とはどういうことだ。この親不孝もん!」
満「子どもが親より先に死んだらそれこそ親不孝じゃないですか」
老人「そんなことないよ。お前が遺書に『遺産は全て父さんに譲ります』って書いてくれたら最高の親孝行だよ」
満「書きませんよ!遺産は隆に譲りますから!」
老人「じゃ、ワシの遺産は海さんに渡す!」
満「なんでですか!僕にくださいよ!」
老人「じゃ、お前の遺産、わしによこせ!」
満「だから何で僕が先に死ぬんですか!」
老人「だって、ワシが先に死んだら、だれが葵の面倒を見るんじゃ」
満「隆と海さんですよ」
老人「じゃ、だれが矢田亜希子の面倒を見るんじゃ!」
満「それは・・・・押し・・・とにかくお父さんが面倒見る必要ないでしょ!」
満「お父さんは磯野貴理の面倒でも見てあげたらどうですか?」
老人「・・・・・・・・それはヤダ」
満「・・・・・・・・・とにかく、僕は元気ですから。ここに来たのも隆たちに迷惑をかけたくなかっただけですから」
老人「満・・・・・・お前、しばらく見ないうちに、大人になりおって・・・」
満「・・・・・・もう68歳ですからね・・・」
老人「68歳でも98歳でもワシのかわいい子どもじゃ!いや、もうあんまりかわいくないけど、とにかくワシの息子じゃ!」
満「どうせかわいくないですよ!それにもし98歳だったら父さんより年上になってるでしょ!」
老人「そんな関係、ふぁんたすてぃっく!!」
満「もう帰ってください」
老人「それより、便所どこ?」
満「廊下の突き当たりを右ですよ」
老人「よし!じゃ、でっかいうんこしてくるからな。覚えておけよ!」
満「なんで覚えてなきゃいけないんですか・・・」
老人「お前に父親の心意気ってやつを見せてやる!」
満「見せなくていいですよ。」
(便所にて)
職員D「大丈夫ですか~?お一人でできますか~?」
老人「なにやつ!(振り返る)はぅあ!なんてきれいな・・・・まるで観月ありさちゃんじゃ・・・」
職員D「お手伝いしましょうか?」
老人「え、あ、お、お願いします。」
職員D「はい、じゃ、ズボンおろしましょうね」
老人「おぅ!ちょっと恥ずかしい・・・」
職員D「うふ、大丈夫ですよ。はい、しゃがんで~」
老人「ほぁた!はう!いやっほぅ!」
職員D「あら、たくさん出ましたね~」
老人「うお~~、ふぁんたすてぃっくぅぅぅ!」
(満の部屋)
老人「(ガラガラ・・・)」
満「・・・・・・・父さん、まだいたの?」
老人「満・・・・・・・・わしはもう、ダメかもしれん・・・」
満「どうしたんですか?」
老人「ばあさんというものがありながら・・・・・・・わしという男は・・・」
満「母さんがどうしたの?」
老人「母さんともしたことがないアブノーマルなプレイを・・・」
満「・・・・・・何があったか知りませんけど、大丈夫ですよ。母さんはもう12年前に死んだんだから」
老人「そうか?じゃ、自分を責める必要はないな?そうだよな。タイガーウッズに比べればかわいいもんだよな?そうかそうか。母さんは死んだんだった。あ~いい思い出!」
満「父さん、もう帰ったら?海さん心配してるよ」
老人「は!海さん?そうだ!忘れてた!」
満「え?どうしたの?」
老人「わし、買い物の途中だった!」
満「あ~あ、また海さんに怒られるよ!」
老人「またチクビに蝋を垂らされる!早く行かなきゃ!」
満「そんなわけないでしょ。でも早く帰ってあげて」
老人「おう!満、達者でな!夜泣きするなよ!寝る時はパンツ履けよ!」
満「父さんもね!長生きしてよ!」
老人「ふふふ・・・満、人生ははかない・・・・・・・・だからパンツもはかない・・・」
満「早く帰りなさい」
老人「は~~い!」