俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

老人と海 その4

老人「いっしょういっしょにいてくれや~、みてくれや才能も全部ふく~めてえ~♪」

 

(歌いながら古いアパートの階段を昇る老人。そして2階奥の部屋のインターホンを押す)

 

老人「ポチっとな!(ぴ~んぽ~ん♪)」

 

女性の声「は~い」

 

老人「宅急便で~す。男前一人、お届けに参りました~」

 

女性「(恐る恐るドアを開けて)あっ・・・」

 

老人「宅急便で~す。印鑑か拇印か、どっちかといえばボインが好きです、ワシは」

 

女性「・・・・ど、どうぞ・・・」

 

老人「おじゃましま~す!」

 

(老人にお茶を入れる60代ぐらいの女性)

 

老人「うふふ・・・一人暮らしの女性の家にいるなんて、ちょっとドキドキ♡」

 

女性「冗談はやめてください」

 

老人「と、敏江さん、ワ、ワシはずっと前からあんたのことを・・・」

 

女性「・・・・・・」

 

老人「“よしえさん”だと思っていました・・・」

 

敏江「相変わらずね、お義父さんったら。はい、羊かん」

 

老人「なんじゃ、せっかくロマンポルノなムードだったのに」

 

敏江「それを言うならロマンティックでしょ。それにそんな雰囲気になってなかったですよ。」

 

老人「これから。これから恋のビンテージが上がって」

 

敏江「ボルテージ!」

 

老人「そう、それが上がってくるところだったのに・・・」

 

敏江「いいから羊かんでもどうぞ。」

 

老人「羊かんは、よう噛んで食べましょう」

 

敏江「あら?お義父さんにしてはベタな・・・」

 

老人「むっ!じゃ、羊かんは洋館で、よう噛んで食べようかん!」

 

敏江「質より量ですね」

 

老人「相変わらず厳しいの、敏江さんは。だから男の戯れ事が許せん・・・」

 

敏江「・・・・・」

 

老人「今、満に会ってきたんだ」

 

敏江「・・・・・そうですか。元気でして?」

 

老人「今、老人ホームに入っとる。」

 

敏江「え?老人ホーム?お義父さんじゃなくて?」

 

老人「そうそう、ワシもそろそろ老人ホームでオムツを替えてもらってって、こら!ワシはまだちゃんとこうやって自分のケツだって拭けるし、箸だってちゃんと持てるぞ!」

 

敏江「お尻拭いたら手を洗ってから箸を持ったほうがいいですよ。」

 

老人「そうそう、お尻を拭いたら手を洗ってそのままお箸を持って自分の稲荷を挟むって、こら!」

 

敏江「お義父さん、まだまだ絶好調ですね。その調子ならまだ2~3ヶ月は老人ホームはいらないわね。」

 

老人「そうそう、あと2~3カ月したらうんこを垂れ流してって、もういやん!」

 

敏江「満さん、どうして急に?」

 

老人「でもまた排便する姿を老人ホームの若い女性職員に見られると思うと、も~う、ふぁんたすてぃっく!!」

 

敏江「お義父さん!」

 

老人「あ、ああ。満も定年で仕事を辞めてから急に老けこんでな。隆たちの世話になりたくないんだと」

 

敏江「・・・・そう」

 

老人「まったく、そんな殊勝な考え、敏江さんと別れる前から持ってろっつーの!」


敏江「・・・・もういいんですよ。」

 

老人「よくないっつーの。あんたの作ってくれた“すぐ煮えるエマニエルのムニエル”は思わず舌を噛む旨さじゃった!あれが食べられなくなってワシはどんなに悲しんだことか・・・」

 

敏江「また作ってあげますよ」

 

老人「それだけじゃない!“イカすナイス・スライス・パラダイス・大豆ライス”や“なんてこった残ったパンナコッタのごった煮”も!」

 

敏江「よく覚えてますね」

 

老人「“柿・茎・菊・クコのコク牡蠣加工仕立て”」

 

敏江「そんなもの作ってませんよ」

 

老人「“カツに勝つ”」

 

敏江「完全にネタ切れね」

 

老人「む!ムカTK!」

 

敏江「は?なんて?」

 

老人「とにかく、あんたの料理は最高じゃった。だからこうして半年に一度通っとるんじゃ」

 

敏江「連絡なしに来られたって、何も用意してませんよ」

 

老人「え~~マジ?下がるわ~」

 

敏江「それより・・・・隆は・・・・・・元気にやってますか?」

 

老人「藤井隆?まあ、乙葉とはよくやってるんじゃない?」

 

敏江「違いますよ。隆!息子の隆ですよ」

 

老人「あ~隆の息子は最近、役立たずだって海さんが言ってた」

 

敏江「だれが隆のちんぼこの話をしてるんですか!隆の様子はどうかって聞いてるんです!」

 

老人「と、敏江さん、あんたいい年してなんて卑猥な言葉を・・・」

 

敏江「いいから教えてください」

 

老人「隆、元気にやっとるよ。今度、昇進するらしい。仕事ばっかりだからな。」

 

敏江「・・・・そう。良かった・・・。」

 

老人「ほら、写真」

 

敏江「・・・・・・・・・誰ですか、これ?」

 

老人「誰って・・・・隆・・・・・・・じゃなかった。これ葵の彼氏だった。」

 

敏江「なんでそんなもの持ってるんですか。」

 

老人「いや、葵の机の中、探ってたら出てきたから。あ、これこれ!この前、家族で高尾山に行ったときの写真!」

 

敏江「(写真を見ながら)まあ、葵もこんなに大きくなって・・・。」

 

老人「おっぱいも大きくなってきたぞ」

 

敏江「お義父さん・・・高尾山に行くのになんで鎧兜を?」

 

老人「いや、寒いと思って」

 

敏江「・・・・隆もすっかり父親の顔ね。うまくやってるようでよかったわ。」

 

老人「でも帰りも遅いし、最近、海さんも不満ばっかり言ってるぞ」

 

敏江「あら。な、なんて?」

 

老人「あの人はうそばっかりつくって」

 

敏江「どんなうそを?まさか・・・・浮気とか?」

 

老人「なんか、『子どもの頃、徳川家康に会った』とか『昔は俺も悪だった。坂本竜馬の後ろ髪を引っ張って遊んでた』とか。」

 

敏江「それはお義父さんがついたうそでしょ。隆には関係ないじゃない」

 

老人「だから海さん、『狼じいさん』って・・・」

 

敏江「お父さんが悪いんでしょ」

 

老人「しかも『あたしの言うこと聞かなかったら裏山に捨ててやる』って。ひどいと思わない?」

 

敏江「ま、あたしも当時は同じこと思ってたので何とも言えませんけど・・・」

 

老人「それにワシの自慢のお稲荷さんを見て『痩せたロバ』みたいだって!パンパンだっつーの。茶巾ずしだっつーの!」

 

敏江「お義父さん、もう海さんにセクハラするの止めなさい」

 

老人「すごいんだっつーの!!母さんなんか『暴れ馬』って呼んでたんだから。その暴れ馬の結晶が満だっつーの!」

 

敏江「お父さん、もう帰ったら?」

 

老人「いやじゃ!ワシのすごさを証明するんじゃ!」

 

敏江「そんなの証明しなくていいですから。」

 

(老人の携帯が鳴る)

 

老人「は!心臓が痺れる!なんじゃこれ?いかん!わし、もう死ぬ!」

 

敏江「電話が鳴ってるだけですよ。ほら、早く帰りなさいって呼んでるわよ」

 

老人「(泣く)ぐすん。うん、もう帰る。もっこり遅くなってしもうた。」

 

敏江「あ~あ、また海さんに怒られるわ・・・」

 

老人「いい。わし、怒られるの結構好きだから。あ、あとこれ(封筒を差し出す)」

 

敏江「お義父さん・・・・本当に結構ですから。私一人だけなら年金と生活保護でなんとかやっていけますから」

 

老人「まあまあ。あんたにこんな思いをさせたのは満の浮気が原因。息子の責任は親の責任じゃ」

 

敏江「お義父さん・・・」

 

老人「じゃ、わし、帰るわ。またな。体が寂しくなったら電話しろよ・・・・・・抱いてやるぜ!」

 

敏江「結構です。お気をつけて」

 

老人「アディタス!」

 

敏江「それを言うならアディオス、でしょ・・・」

 

(アパートの階段を下りる老人)

 

葵「あれ?ひーじー?何してんの?」

 

老人「あ、葵?な、何しておる?」

 

葵「それはあたしのセリフよ。だれの家?まさかひーじー・・・」

 

老人「ち、違う!これは・・・その・・・多目的トイレ的な・・・」

 

葵「それ、やばいんじゃない?」

 

老人「あ、じゃなくて・・・あの・・・」

 

葵「まさかひーじー・・・渡辺謙的な?渡部健的な?宮崎謙介的な?」

 

老人「ば、バカ言うな!けんけんけんけん言いおって。わしは母さん一筋じゃ!」

 

葵「ママに言っていい?」

 

老人「あ、待って!あの、鳩山家的な援助するから」

 

葵「まいど!」

 

老人「・・・・・・葵・・・・ところでお前・・・・その・・・おばあさんに会い・・・」

 

葵「ひーじー、買ってくるもの思い出した?」

 

老人「はぅあ!もっこり忘れとった!」

 

葵「ひひひひ!ママに怒られるよ!」

 

老人「も~う、興奮しちゃう!」

 

葵「何買うか思い出したの?メモとかやっぱりなかった?」

 

老人「メモメモ・・・・・いや、ポケットには変なプリクラしか・・・はぅあ!!!」

 

葵「何よ、誰のプリクラ?」

 

(夕焼け空の下、老人と少女の影が揉み合っていたのであった・・・)