俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

出会いに飢えて・・・

みなさんは通勤電車の中で、どのように過ごしているでしょうか。

僕は以前はi-podで音楽を聴いたり、文庫本を読んだりしていたのだが、最近、電車の中の暇つぶしにほとほと困っている。


運よく座席に座れたら問題ない。

僕はケータイに今日も全く着信がないことを一応確認した後、迷わず寝てしまうから。


問題は立っているときだ。

i-podの中の音楽は聴き飽きたし、新しい曲を入れるお金がもったいない。

本を読もうにも、朝は寝ぼけて、帰りは疲れで頭が働かない。

一番いいのは誰かと適当に話しているのが時間つぶしになるのだが

僕にはそんな友だちがいない。


ごくまれにだが、電車の中で、僕の隣りに立った女性で、いかにもぼんやりと立っている人がいる。

ケータイをいじるわけでもなく、ゲームをするでもなく、本を読むでもなく、音楽を聴くでもない。

ぼんやりと車内広告などを見ながら、「早く着かないかな・・・」なんて顔でぼーっと立っている。


そんな女性がいると、僕は時々無性に話しかけたい衝動に駆られる。(ま、実際に話しかけたことはないけど)

僕が欧米人なら迷わずそうするだろう

下心抜きに、お互い暇つぶしに、電車で近くにいた人と世間話をするような習慣が日本にあったら、

電車の中はどんなにうざく、どんなに楽しいことだろう。


男「ちょっとすみません。今よろしいですか?」

女「はい?なんですか?」

男「あの~僕、八王子まで帰らなきゃならないんですけど、それまでちょっとお話させてもらってもいいですか?」

女「あ・・・はい、立川まででよかったら・・」

男「立川までということは、ま、30分くらいは話せますね。よろしくお願いします。」

女「あ、どうも」

男「私、吉田と申します。都内の金融企業に勤めています。」

女「あ、山本です」

男「山本さんね。どうも。じゃ、”リンダ”って呼んでいいかな?」

女「あ、それはちょっと・・・」

男「ダメ?じゃ、山ちゃんは?」

女「なんか・・・・いきなり慣れなれしいかな・・・」

男「そう?じゃ、とりあえず”梓”にしようか?」

女「なにが”とりあえず”なんですか。私は美恵です。」

男「お~美恵ちゃん!元気だった?」

女「初対面です」

男「あ、そうだった。美恵ちゃん、仕事は?PLさん?」

女「OLです。あたしそんな野球強くないです」

男「OLね、"Old Lady"」

女「"Office Lady"です!失礼な!」

男「冗談、冗談。相変わらず怒りっぽいね。」

女「だから初対面ですって!」

男「ところでミーちゃん、明日ひま?」

女「いつから”ミーちゃん”呼ばわり?」

男「ま、いいからいいから。」

女「あたし、明日も会社です。」

男「うそ!だって明日水曜日だよ!」

女「だから普通会社あるでしょ!」

男「あ、そうか。俺もだ。じゃ、あさっては?」

女「木曜日だし」

男「しあさっては?」

女「金曜日」

男「ごあさっては?」

女「土曜日、って、”ごあさって”って何よ!」

男「あれ?”しあさって”の次って、”ごあさって”じゃなかったっけ?」

女「勝手に作らないでください。」

男「わかった。じゃ、とりあえずメアド教えて」

女「話が全然つながってない!なにが”とりあえず”なんですか!」

男「だって、物事には順番ってものがあるじゃない?」

女「それはこっちのセリフです!」

男「だから、まずは付き合おうよ」

女「は?今、会ったばっかりですけど?」

男「あ、でも一期一会というし」

女「なんでいきなり知らない人と付き合わなきゃいけないんですか」

男「いや、でも、もうお互いよく知ってるし」

女「全然」

男「付き合ってみたらいいと思うよ」

女「なんで?」

男「いやね、なかなか俺みたいな男っていないよ。金はないし、顔はブサイクだし、足は臭いし、仕事は不定期だし」

女「いいとこないじゃない」

男「でも、一つだけ!これだけは言っておきたいんだけどね、実は、すご~くね、ちんちんが小さいの」

女「いいとこ言えや!一個でも!」

男「こんな俺でも一つだけ良いところがありましてね」

女「なによ」

男「女性運だけはいいんですよ。今日もね。」

女「ふ~ん、ちょっとは気の利いたことが言えるんじゃない。」

男「いや、今日もね、朝、女の人のお尻を触っていたら捕まっちゃってね」

女「どんな運じゃい!」

男「いや~憑いているな~」

女「気持ち悪いわ!」

男「ということで、デートはどこ行きたい?」

女「っつーか、デート行くって言っていないし!」

男「でも行ったら楽しいよ。景色がきれいだよ~、食べ物もおいしいよ~、空気もおいしいよ~」

女「行くとこ決まってんじゃないよ」

男「南大門市場もあるよ~、垢すりもあるよ~、焼肉もあるよ~」

女「って、韓国かい!いきなり海外って!」

男「しかも割り勘!」

女「初デートで割り勘って!あんた最っ低ーな男ね。」

男「あ、もしかして、ファーストキスのとき、舌を入れる派?」

女「いれるか!というか、質問の意味わかんねーし!」

男「あ、じゃなくて、初デートは男性におごってもらいたい派?」

女「派って、言われても。別にいいんだけど・・・・・ちょっと冷めるじゃない」

男「あ、じゃ、僕全部出しますよ」

女「別に催促したわけじゃ・・・」

男「いや、もう、全部出します。なんだったら下半身も出します」

女「そこは出さなくてもいい。電車の中だし」

男「というか俺は女性を喜ばせたいのよ」

女「ま、それはいい心がけだと思うけど」

男「ずっとずっと喜ばせたいのよ」

女「うん。でもどうやって」

男「とりあえずはね。君が寂しい夜に、メールを送ろうと思う」

女「・・・・何て?」

男「やーい!一人ぼっち!」

女「死ね!」

男「いや、違うんだよ。実はその後に・・・ビシっと決めるんですよ!」

女「・・・・何て?」

男「でも今夜はふたりぼっちさ・・・って」

女「それって・・・・・・」

男「窓の外をのぞいてごらん・・・あのでかいのが、”だいだらぼっち”さ・・・」

女「ごまかさないでちゃんと答えてよ!」


まもなく、立川~、立川~


男「でも君って、突っ込みうまいね」

女「あんたが突っ込ませたんでしょ」

男「あの、意外に俺たちって合うかもしれないよ。楽しかったし。」

女「・・・・・・・・」

男「あの・・・・・・・本当に・・・メールするよ」

女「・・・・・・・」

男「ちゃんと・・・・楽しませるから」

女「・・・・・・・」

男「あ、じゃ、これ、俺のメアド・・・よかったら」


立川~立川です。お忘れ物のないよう、ご注意ください。


男「あの、あの、えっと・・・」

女「(振り返る)」

男「み、美恵ちゃん。あの・・・」

女「