老人「みゅ~じっくふぉーざぴ~ぽ~ら~びん♪つ~ばさをひ~ろげ~て~♪」
葵「あら?ひーじーちゃん!こんなところで何してんの?」
老人「おやおや。この年になって逆ナンされるとは思わなかった。お嬢さん、ワシに惚れると火傷するよ」
葵「ひーじーちゃん、何言ってんのよ。あたしよ」
老人「ま、まさか!トラか?お前、死んだはずじゃ・・・」
葵「誰のこと言ってんのよ。あたしが虎のわけないでしょ」
老人「いやいや、動物の虎じゃなくて、ワシの死んだ妻の名前がトラだったんじゃ」
葵「トラ?マジ受ける!なんて名前してるのよ!ありえなくね?」
老人「昔の女性はみんなそうじゃったんよ。ネー、ウシ、トラ、ウー、タツ、ミー・・・」
葵「絶対うそでしょ。“ネー”なんて名前おかしいもん」
老人「いや、ほんとに。ワシの兄弟、みんなその人のこと“ネーさん”って呼んでたもん。あ~いい思い出!」
葵「・・・・。“ミー”って名前も新しすぎじゃね?」
老人「いやいや、ホントに。昔、米軍基地で車の修理の仕事してたら、外人さんがミーがユーにチップをやろうって」
葵「完全に英語入ってるよね。ひーじーちゃん“ユー”って呼ばれて変だと思わなかった?」
老人「いや、ワシ、下の名前、雄輔だから!」
葵「げっ!上地ゆーたんと一緒!?マジ、下がるわ~」
老人「イェーイ!どう?ワシ、盛れてる?」
葵「ひーじーちゃん、気持ち悪いからひと昔前のギャル語使うの止めて・・・」
老人「最近のワシ、イケイケだから。夜もチョー漏れてるし!」
葵「トイレにイケイケ!」
老人「ところで、こんな時間に何をしておる。学校は?」
葵「あー、英語の授業タルいからふけてきた」
老人「あ~樽井先生ね。最近、白髪も増えてきたしね」
葵「ひーじー、無理やり話、合わせなくてもいいから。」
老人「でも英語の勉強は必要だぞ。ワシ、米軍基地で仕事してたから結構英語得意だよ」
葵「へー、すげー」
老人「Give me chocolate! Gime me chewing gum ! 」
葵「チョコくれガムくれか。時代だね~」
老人「Give me give me Shake! Choo Choo Train! Tomorrow never knows・・・」
葵「どっかで聞いたような・・・」
老人「Come on baby America!Dream no mikatawo inspire~♪」
葵「『U.S.A』じゃん。でも、ひーじー、その年で踊れるだけすげーよ。」
老人「今度、Youtubeに投稿してみようかな」
葵「やめときな。笑われるから。」
老人「な、英語得意だったろ?」
葵「まあね、90でそれだけしゃべれたらね」
老人「失礼な!ワシはまだ89じゃ!」
葵「どうでもいいでしょ。そこは。」
老人「ワシはまだまだ生きるんじゃ!」
葵「もう十分だって。何歳まで生きるつもり?」
老人「体と気力が続く限りは」
葵「ベテランスポーツ選手じゃないんだから。それにそんなに生きてどうするの?」
老人「再婚でもしてみるかね」
葵「無理っしょ~、相手いくつよ。」
老人「下は18から上は120まで」
葵「広っ!っつーか、120は今日本にいないから」
老人「外人さんでもOKよ!」
葵「ま、英語得意だからね。でも18でひーじーの相手してくれる人はいないでしょ」
老人「でも最近、年上の男性がもててるらしいし」
葵「年上すぎる!70以上も違うでしょ」
老人「でも話、合うし」
葵「それはジジイの割には健闘してる方だと思うけど・・・とにかく若い子は無理よ」
老人「じゃあアラサー、アラフォーでいいよ!」
葵「なんで上から目線なのよ。アラフォーだって90は相手にしないでしょ」
老人「でも、ほら、この前つかまった結婚詐欺の女とか、金持ちのじーさん相手にしてたじゃない?」
葵「結婚詐欺って最初からわかってるなら、結婚できないでしょ!」
老人「あ、そうか。あ、でも、アンちゃんも今、独り身だし」
葵「杏がひーじーの相手するわけねーし。」
老人「ワシが言ってるの道端アンジェリカだし!」
葵「どっちもだよ!・・・ったく・・・。それより、何か買い物の途中だったんじゃないの?」
老人「あ~そうじゃったそうじゃった。ところで何買うんだったっけな?」
葵「何、覚えてないの?」
老人「最近、物忘れがひどくてな~。EXILEって今、何人だっけ?」
葵「そんなこと覚えてなくたっていいわよ。トイレと薬飲むのさえ忘れなければ」
老人「あれ?今日、お前の彼氏の誕生日じゃなかったっけ?」
葵「だから何でそんなの覚えてるのよ!」
老人「先週、言ってたじゃん。プレゼント買うから小遣いくれって。」
葵「(小声で)・・・・そういうとこはよく覚えてんのよね。」
老人「(頭を抱えながら)あ~~~櫻坂46のメンバーの名前が覚えられん!」
葵「ねえ、ママからメモとかもらってないの?」
老人「う~ん、もらったような、もらってないような・・・」
葵「ポケットに入ってないの?」
老人「入っているような入ってないような。」
葵「確かめてみたの!」
老人「あ、はい。え~と・・・・・ポケットにはゴミと夢と勇気しか入っていません。」
葵「じゃそれ全部捨てて。頼まれたのまたパンとか牛乳じゃないの?」
老人「あ!そうそう!パンと牛乳!と・・・・あとなんだったっけ?」
葵「まだあるの?ママも意地悪ね」
老人「あと酒と・・・・・涙と男と女と、部屋とYシャツとたわしと、愛しさと切なさと心強さと・・・」
葵「ひーじー、あたしマルキュー行くからまたね。ママには内緒ね」
老人「おや?トラさん、またどっかへ行っちゃうのかい?おーい!さくらちゃん!トラさんがまた旅に出るとよ!」
葵「やめて。あたし寅さんじゃないから。」
老人「じゃ、ワシもご隠居さんじゃないから!」
葵「だれもご隠居さんだなんて呼んでないわよ。もういいから!もう行くからね!バイバイひーじー!」
老人「おう!達者でな!気をつけて行けよ!お土産待ってるぞ!・・・う~む。よし、葵にはワシの蔵を相続しよう」
(遠くから)
葵「ひーじー!あたし、名前、葵だからね!」
葵「ひーじー!あたし、名前、葵だからね!」
老人「わかってるよ・・・まったく・・・今度わしの名前覚えてるかテストしてやるからな!」