俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

夫婦間ルール

2月14日

世間ではバレンタインデーなどと浮かれるめでたい日のようだが、今年の2月14日は私にとっては実にプレッシャーのかかる日であった。

私には結婚して10年になる妻がいる。

子供がいないせいか、結婚して10年たった今も夫婦仲は良好なほうだと思う。


実は結婚して4年目に、妻は一度怒って実家に戻ってしまったことがあった。

当時、私にはその原因がまったくわからなかった。

彼女が言うには

「ずっと不満に思っていたことがある。結婚前はあんなに私に気を使ってくれたし、食事に連れていってくれたり、記念日にはサプライズを用意してくれた。」

「それが結婚して私のことを”飯炊き女”ぐらいにしか思わなくなった。食事を作ることも掃除をすることも洗濯することも、私がやるのが当然だと思っている。」

「この前も、私がお風呂の掃除をお願いしたのにやっていなかった・・・。結婚しても年に1回くらいは旅行に行こうって約束したのに、まだ一度も連れて行ったこともないし、たまに花を買ってくるって言って、買ってきてくれたこともない。キスの一つもくれない。まさに”釣った魚に餌はやらない”男だ」

とのことだ。

まったく、女というのは感情的な生き物だ。

結婚前と結婚後では扱いが変わるのは当然じゃないか。

結婚前が特別だったのだ。それはお互い他人だったからだ。

だからこそ自分をよく見せようとしたし、相手を喜ばせようと一生懸命サービスをした。

しかし今は”家族”になったのだ。お互い気兼ねなく過ごせる間柄になったのだ。

お互い無理に自分をよく見せようとする必要はなくなった代わりに、”安心”を手に入れた。

だから私は妻の放屁もあえて目をつぶることにしているのだ。


まるで私がまったく家事をしていないかのように彼女は言うが、彼女は気づいていないだけだ。
私がちゃんとお皿を下げ、便座を下げ、脱いだ洋服を洗濯機に入れていることを。

私の同僚の男連中がまったくできていないこれらの”家事”を私はちゃんと実行しているのだ。

風呂掃除の件だって、私は午後にやろうと思っていたのだ。日曜日は長い。午前中ゆっくり過ごし、午後に掃除をしたっていいではないか。

そもそも、日曜日の朝に言うのがいけないのである。私は日曜の朝はゆっくり過ごそうと土曜日の夜からリラックスしていたのに。

また、妻は食事の後にすぐに皿を洗いたがる。

私は食後30分は動けないから、少しして洗剤につけておいて、寝る前に洗うのが独身時代からの習慣だった。

それを妻のために合わせてあげていたのに。

たまに花を買ってきてくれることもない、というのは妻の記憶違いだ。私は確かに2年前に妻に花をプレゼントしている。

論理的に考えれば間違いなく私の方が正しい。

しかし女性は総じて感情的で突発的、都合のいい部分しか見えないようにできている。



妻の怒りは相当根が深かった。

私も意地を張ってしまったのがよくなかったのかもしれない。

結局私たちは友人の薦めで、カウンセリングを受けることになった。

私としては不本意だった。

・・・・・・・私は悪くないのだから。

しかし、妻と離婚するようなことは考えたくもない。

しかたなく、私は妻とカウンセラーの前におとなしく座ることにした。

私はボーッと聞いていたのだが、妻はカウンセラーの言葉にいちいち頷き、メモをとり、熱心に聞いていた。

そのせいか、妻が私に言うことが変わってきた。


妻は金曜の夜になるとこんな風に言うようになった。

「明日は朝11時に車で埼玉のアウトレットモールに連れてって。お昼はそこで食べましょ」

「日曜日は10時までに風呂とトイレの清掃お願いね。ゴルフの打ちっぱなしに行くなら4時には帰ってきて。夕飯の買い物に行くから」などなど。


さらには夫婦間の細かいルールが決まるようになった。


「年に1回、お互いの誕生日には小さなプレゼントを用意すること」

「年に1回、結婚記念日には外食をすること」

「日に三度、出勤前、帰宅後、就寝前にキスをすること」


なんだかバカにされているようなルールだが、「”たまには”~~すること」なんて言われるより、ずっと実行しやすいことは確かだ。

さすがに「毎月第2土曜の夜は夫婦の営みを持つこと」というルールはやりすぎだと思ったが。

これについてはそろそろ「四半期に1回」ぐらいのペースに変更したいものだ。


さて、明日は2月14日のバレンタインデー。

実は私たちの結婚記念日でもある。

しかも運が悪いことに日曜日だ。

妻はお昼前に出かけようと張り切っている。


何事においても論理的で計画的な私は頭の中に週末のプランを組み立てる。

月曜の仕事に影響を来たさないためには夜11時には帰宅してベッドに入りたい。

すると夜10時には食事を済まし、レストランを出て帰宅の途につかなければならない。

すると食事を始めるのは8時ぐらいか。

おそらく妻は何か洋服なりアクセサリーなりを要求してくるはずだ。
しかも500円程度のチョコレートと引き換えに。

妻の買い物は長い。

せめて夕方6時頃にはさりげなくデパートかアウトレットに連れて行かなければ。

そういえば明日は映画を観たいと言っていたな。

バレンタインデーの日曜日に映画なんて、ものすごい混雑が予想される。
くそ。私としたことが、ネットで予約をするのを忘れていた。

3時ごろ上映開始のものを捜すか。

1時間は並ぶから、1時半には食事を終えないと。

11時に家を出て、向こうに着いたらすぐに食事だ。


それよりも出発前だ。

明日も10時までに風呂掃除とトイレ掃除を終わらせなければならない。

その前に御飯を食べて、新聞を読んで、日曜朝のワイドショーを見るとなると・・・7時起き?

はあ・・・・せっかくの日曜日なのに。

しかたない、早く寝るとする・・・・・・・・・・・か!????


しまった!!

今日は第2土曜日だ!

ということは、夫婦の営みを持つ日だった!

なんてことだ。

できれば12時には眠りたい。そうすれば7時間寝られる。

12時に寝るには・・・・・えっと、最近妻は丁寧な前戯と終わった後の甘いピロートークを求めてくるから・・・・逆算して、逆算して・・・・・・・・・



私「ねえ、そろそろ・・・・・・・・・・寝ない?」

妻「はあ?まだ『エンタの神様』も始まってないじゃない」

私「いや、ま、そうなんだけど・・・・・」


まったく女は計画性がない・・・・・・・・・



*初めて訪問してくださった方へ

これは創作です。僕は正真正銘、独身です。

こんなことを明言しなければならないのも恥ずかしいのですが・・・