俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

漫才「自殺補助株式会社」

A「今日、新聞を見ていましたらね、また山手線で人身事故だそうですよ。」

B「多いね。山手線」

A「まったく他の人の迷惑も考えてほしいよね」

B「しかし日本という国は豊かな割には自殺する人が多いよな」

A「先進国の中では自殺する人の割合が一番多いんだって」

B「それだけ多いんなら、商売になるね」

A「何が?」

B「自殺がよ」

A「物騒なことを言うんじゃないよ。自殺が商売になるわけないでしょ」

B「いや、俺なんて老後が心配でね。できれば定年と同時に死にたいくらいで」

A「そんなこと言うんじゃないよ。がんばっていきましょうよ」

B「でも電車に飛び込むにしてもビルから飛び降りるにしても他の人に迷惑がかかるでしょ?」

A「ん、まあね。電車が止まるとかね、巻き添えを食らうとかね。」

B「うちでクビを吊るにしても、うんこビタビタ出るらしいからね。掃除が大変」

A「ん~、掃除の問題かあ?」

B「やっぱり死体処理をしたりね、事故現場の掃除をしたりする人に労力を負わせると思うと申し訳なくてね」

A「だったら自殺なんかするなよ」

B「いやいや、まだ富士の樹海っていうテもあるじゃない?」

A「あるじゃない?って言われたって知らないよ。」

B「でも最近、富士の樹海をパトロールしている人がいてさ」

A「ああ、自殺防止でね」

B「俺も説得されちゃってさ」

A「お前、自殺しようとしてたんか!やめてくれよ。相方いなくなるだろう!」

B「そこで俺、考えたんだ」

A「なにをだよ。思い直したか?」

B「その名も、『株式会社リ・スタート』っていうんだけどね」

A「会社を作るの?リ・スタートって、再出発という意味だよね?いいじゃない!」

B「人生の再出発をお手伝いしようと」

A「そうそう」

B「生まれ変わって頑張ってもらおうと」

A「そういうつもりでね」

B「一度死んで生まれ変わる時のお手伝いをしようと思うんだ」

A「それ、殺人じゃねえか!」

B「人ぎき悪いこというな!株式下がるじゃねえか!」

A「誰も買わねえよ、そんな株!」

B「ま、とにかく、いろいろアイディアを考えたんだ」

A「もういいよ。」

B「まず、特殊な棺おけを用意する。その棺おけから睡眠ガスが出るんだ」

A「だからもういいって!」

B「あ、その前にお金もらわなきゃ。前払いね。」

A「いいんだよ!細かいことは!」

B「そんで睡眠ガスで眠ったところで棺おけの中に仕組んだたくさんの針が体中を串刺しに」

A「うわ~~~~」

B「最後にとどめの電気ショック!」

A「最悪・・・」

B「これで確実に逝けます!」

A「張り切って言うな!」

B「それだけじゃないんです、奥さん!」

A「だれが奥さんだ!」

B「その棺おけはスイッチ一つで火葬室に移動」

A「ほお」

B「そのまま1時間、弱火でコトコト!」

A「煮るな!さっさと焼け!」

B「こんがり焼けましたらチーン!と音がして棺おけが出てきます」

A「こんがり焼くな!しかも余計な演出辞めろ!」

B「棺おけが徐々に立ち上がり、足元のほうから遺骨がザーッと落ちます」

A「トラックが砂利を下ろすみたいな感じね・・・」

B「骨壷に入れたら、本人の希望通りの埋葬方法で処理します!」

A「どんなのがあるの?」

B「分祀コース20万円、合祀コース15万円。ここまでが当社と契約したお寺に納骨されます。」

A「おお、意外に考えてるね。ほかには?」

B「自然葬プラン、山5万円、海3万円、トイレ1万円」

A「ちょっと待てえい!!トイレに捨てるのか!」

B「人聞き悪いこと言うな!納骨だぞ!」

A「トイレはないだろうよ」

B「ああ、”トイレ”というのは通称。業界用語だよ」

A「業界って、そんな業界ねえだろ」

B「”トイレ”は、火葬した後、そのままお棺の底が開いて遺骨が落ちるんだよ」

A「汲み取り便所みたいな」

B「合祀といってもらいたいね」

A「でも意外に値段が高くない?自殺を考えるような人が払えるかな?」

B「あ、得々プランもあるよ!」

A「そんのがあるのかよ!」

B「まず得Aコース、睡眠ガス抜きで1万8千円」

A「つまり、いきなり串刺しってことか・・・痛そうだな」

B「得Bコースは睡眠ガス、串刺し抜きで1万円」

A「え?いきなり火葬?絶対イヤ!」

B「得Cコースは全部抜きでボットン!5千円」

A「手を抜きすぎだよ。しかもボットンって言っちゃってるしね。」

B「倫理的には問題があるけど、どうしても死にたい人はいるわけじゃない」

A「なんだよ急に」

B「仕事がなくて、お金がなくて、犯罪を犯してまで刑務所に入る人だっているじゃない!」

A「ま、それは変だよな」

B「自殺をして電車を止めたり、他の人を巻き込むのは迷惑だし、罪じゃない」

A「確かにね」

B「自分で人生にピリオドを打つ権利があってもいいじゃない!それに人に迷惑をかけずにピリオドを打つのが他人の権利を侵さないことでもあるじゃない!」

A「ずいぶん熱く語るな」

B「自由に生きる権利があるなら、自由に死ぬ権利があってもいいはずだ!仕事も金も保護もない人に、それでも自殺せずに苦しみながら生きろというのは拷問だし、それこそ自由の侵害だ!基本的人権の尊重に反している!」

A「お、大きく出たね・・・」

B「だから政府にもこの仕事の趣旨を理解してもらってね、ちゃんとリ・スタート希望者に契約書を書いてもらってね、それで本人合意の下で処刑したらいいじゃない」

A「今、”処刑”っていっちゃったね。」

B「”再出発補助”をしてもいいじゃない!」

A「あ、言い直した。でも倫理的に、道徳的に、やっぱり自殺の補助は許されないし、殺人罪に問われるよ」

B「俺は人に迷惑をかけないで死にたい人を応援したいんだよ」

A「応援する方向を間違ってるよ」

B「そんでお金持ちになりたいんだよ!」

A「ああ、もう本音が出ちゃって」

B「ついでに人が死ぬのも見てみたいんだよ!」

A「そろそろやばいよ。警察呼ばれるよ」

B「お前も何か言えよ。共同経営者として!」

A「勝手に共同経営者にするな!」

B「私の趣旨に賛同してくださる方!スポンサーを募集しています!」

A「やめとけよ」

B「ついでに社員募集!かわいい秘書も募集!」

A「なんか変わって来たぞ」

B「恋人募集!嫁募集!新しいコンパニオン募集!」

A「もういいよ!」

B「死ぬ前に結婚したいよ~!!」

A「なんだよ急に!」

B「嫁さんと毎晩SEXしたいよ~!」

A「うるさいよ」

B「結婚しないで死にたくないよ~!!」

A「どんだけ生に執着あるんだ・・・」

B「いや、どちらかといえば『性』の方に執着しています」

A「いい加減にしろ!」