昨年のM-1グランプリ優勝以来、テレビで観ない日はないというくらい仕事が増えたお笑いコンビ・錦鯉の二人(長谷川雅紀、渡辺隆)。最近『情熱大陸』や『水曜日のダウンタウン』(共にTBS系)などでステージ以外の素に近い二人の様子を観る機会があったのだが、改めて「いいコンビだなぁ」と思っている。
二人は元々別々のコンビを組んでおり昔からの知り合い・友達というわけではなかった。コンビ解散後、お互いピン芸人をしていた際に、渡辺さんから長谷川さんに声をかけたそうだ。当時渡辺さんは33歳、長谷川さん40歳。Wikipediaによると渡辺さんは「組んでみて、本当にこの人、バカなんだな」と思い、歯を磨かない、爪を切らない、服を替えないなど私生活のだらしない長谷川さんを毎日のようにたしなめていたらしい。
ただWikiを観るまでもなく、渡辺さんの態度からは長谷川さんを半分本気で見下している様子が見て取れる。芸歴、年齢共に上の長谷川さんに対し、渡辺さんの態度はかなりキツイ。呼び方こそ”雅紀さん”とさん付けであるが、常に「こんなダメな大人初めて見た」という目で見ているし、言葉もため口、ツッコミも遠慮がない。だからこそ『水曜日のダウンタウン』のどっきりで”糟糠の彼女を捨てて25歳年下の女性と結婚する”と伝えた長谷川さんに対し「ダセーな。一番ダセーやつじゃん。25歳年下とか」と本気で軽蔑している。
おそらく人間としては最低、ただ芸人としてはそのダメさ加減も含めて優秀と捉えてコンビを続けているように見える。
長谷川さんは長谷川さんで自分がダメな人間であることがある程度わかっている。だから年下の渡辺さんに厳しく言われても反発するどころか反省し、渡辺さんを「東京のお母さん」とまで呼んでしまう。自分をここまで引き上げてくれた相方に感謝しているのだろう。
それにしても『情熱大陸』で10年前の錦鯉のネタを放送していたが、長谷川さんのボケは今とほとんど変わらないのにそれほど響かないのが面白い。30代、40代でバカなことをしている芸人は他にもたくさんいる。M-1で披露した”合コン”のネタも、これまでたくさんの芸人が題材にしてきたし、ブサイクやうざいキャラが登場するネタも出尽くした感さえある。ややもすると40歳当時の長谷川さんは「この歳にもなってまだこんな幼稚なネタをやっているのか」「いい加減、芸人を辞めたほうがいいんじゃないか」と思われていたかもしれない。しかし50歳の長谷川さんならさすがに笑える。50代の長谷川さんがあれだけバカをやってくれたら、そりゃ面白い。唯一無二のボケだ。長谷川さんはやっと熟した感じ。
”合コン”のネタも錦鯉だからこそ
(長谷川)「みんなよりちょっとだけお兄さんかな?」
(渡辺)「お父さんだよ」
なんてやりとりが通用する。
ちなみに『水曜日のダウンタウン』のどっきりは、M-1で優勝する前、2021年の10月頃に撮影されていたらしい。それでも前年のM-1決勝進出もあってテレビの出演本数が前年から111本増えたというから相当売れていたはずだ。にも拘わらず、渡辺さんは「まだスタート地点に立ったばかり」「今年こそ優勝せねば」という思いがあったのだろう。浮かれて貧乏時代から付き合ってくれた彼女を捨て、25歳の彼女を作ったと言ってきた長谷川さんに相当イラつき、軽蔑していたように見える。
長谷川「記者会見とかそっちの話もあるから(お前に言っておこうと思って)」
渡辺「大丈夫だよ。ねぇよ、バーカ。50歳過ぎのバカなおっさんが結婚するって言って記者会見なんかするわけがない」「すごいじゃん。慢心がすごいじゃん。なってねーからな、テレビの人気者に!」
どっきりなので二人の素の会話なのだろうが、完全に漫才になっているのがすごい。長谷川さんのことを常に「突き抜けたバカ」と見下し、プライベートでもツッコミ続けた結果、長谷川さんのすることなすことに、スムーズにツッコめるようになっているのがすごい。それに対し反論することもできず、素直にツッコミを受ける長谷川さんの間も素晴らしい。
錦鯉とは、素で突き抜けたバカの長谷川さんと、それを素で見下す保護監察官・渡辺さんが織りなす厳しくも温かい人生劇場。
2022年、錦鯉は本物の売れっ子になるのか、それは終わってみないとわからない。でも家族からも周りからもバカにされ続け、気づけば就職もできず芸人しか残っていなかった男が50歳で漫才日本一になるなんて、もはやドラマだ。その男を”絶対に面白い”と信じ続けた男もまた見事。M-1決勝の大オチで決めた”Life is beatiful”。いいな、映画になるな。