俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

おじさんになって捨てたもの

新川「部長、今日は相談に乗ってもらってありがとうございました。」

部長「いやいや、お役に立てたかどうかわからないけどね」

新川「いえ、本当にチームの中で一番伸び悩んでたんで・・・本当に話を聞いてもらっただけでも気持ちがすっきりしました」

部長「ははは。まあ、話を聞くことしかできないからね」

新川「いえいえ、部長はいつも細かいところに気づいてくれるし、みんなが思ってもみない角度から提案してくれるし、さすがだなって・・・」

部長「あ~、そうでしょう~?」

新川「え、ええ」

部長「ま、そんな風に見てくれてありがとう。じゃここは僕が・・・」

新川「え!いえいえ、あの、今日は私が相談に乗ってもらったので私が・・・」

部長「そんな、部下に払わせるわけにはいかないよ」

新川「いえ、本当に今日は私が払います。私がお誘いしたので」

部長「え~・・・でもねぇ・・・」

新川「本当に、大丈夫です。ほんの気持ちなんで」

部長「そう・・・悪いね。じゃ、ゴチになります。」

新川「え?あ、はい。」

部長「あ、良かったらコーヒーでもどう?出すよ」

新川「あ、じゃあ、それで・・・」

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(新宿南口のとあるスタバにて)

新川「部長って入りたての時、営業成績どうだったんですか?」

部長「ん~・・・まあ中の上くらい?ま、ずっとそんな感じだけどなんでか部長になってた」

新川「なんか部長って、こういっちゃなんですけど・・・つねに動じないというか・・・気にしないというか・・・」

部長「あ~、なんかね、年取ってくるといろいろと面倒臭くなって、いろいろと捨てちゃうのよ」

新川「はあ、捨てる・・・。何をですか?」

部長「なんか・・・世間体とかプライドとか・・・あと遠慮と謙虚さとか?」

新川「世間体?」

部長「なんかね、周りにどう思われてもよくなっちゃうのよ。見た目もおじさんだしね。”部下には嫌われてんだろうな、俺のいないところで色々言われてんだろうな”とか」

新川「いえ、そんなことないですよ」

部長「まあ、万人に好かれるなんてことはないしね、どうしてもソリが合わない人とか生理的に受け付けない人っているじゃない?俺もいるしね」

新川「はあ」

部長「でも俺は俺なりに誠実にはやってるつもりだからさ、人に仕事押し付けて楽したり責任逃れしたりはしてないつもりだし、感情的になることもないようにしてるしね」

新川「まあ、そうですね」

部長「それでも嫌われちゃったらしょうがない。合わなかったんだよ、そいつとは。今も昔も部下は上司の悪口言うもんだしね、俺も言ってたし。だからどうでもいいやって思って。」

新川「それ、寂しくないですか」

部長「いや、慣れると別に。昼飯はデスクでYoutube見ながら食べると旨いし、元々酒強くないから部下を誘うこともないし、誘われてもねぇ・・・お小遣い少ないし」

新川「上司になるとそう・・・泰然自若というか・・・そうならないといけないんですね」

部長「いや、そんな大したもんじゃない。面倒なだけ。昔からそうだったんだよね」

新川「昔から?」

部長「なんか仕事で知り合ったくらいの人と食事すると『ここは私が!』なんて数人で言い合うじゃない?それが面倒でさ、お金払ってくれる人がいたら素直に奢ってもらうようにしてる」

新川「・・・確かに、さっきも割とすぐ引き下がりましたね」

部長「2回くらい『私が払います』って言ったらもうゴチになることに決めてるから」

新川「そうなんですね。私もびっくりしました。」

部長「他にもみんなで写真撮ろうとかいう流れになると必ず『私はただの手伝いなんで

(写真に入らなくて)結構です』なんて言い出す奴いるでしょ?」

新川「ああ、いますね」

部長「結局みんなに『〇〇さんも入りなよ、さ、早く早く』なんて言われて、渋々入るみたいな流れ・・・あれが面倒でさ」

新川「それはわかる気が・・・」

部長「結局最初に真ん中に座ってる重鎮を一番待たせることになるし、失礼になるから、写真撮るって流れになったら迷わず入るようにしてる」

新川「それはいい心掛けですね」

部長「あと実家でも盆と正月になると家族が集まるじゃない?で両親が料理を作ってると兄嫁、弟嫁、俺嫁なんかに加えて兄貴と弟まで台所に立って仕事を手伝おうとするわけよ。実家の台所狭いのに」

新川「でもそれは仕方ないんじゃ・・・」

部長「だから俺は迷わず居間でテレビを見ることにした。」

新川「なんで?」

部長「だって、俺の実家だし。嫁さんは仕事手伝ってないと体裁悪そうだから、その仕事を奪うわけには・・・」

新川「だから居間でテレビ見てるんですか?家族みんな食事の準備してるのに?一人で?」

部長「うん。なんか”みんなで台所に立つの図”とか”仕事がなくてただ立ってる図””とりあえずお箸を運ぶ仕事をもらって喜ぶの図”とか・・・面倒じゃない?」

新川「・・・ちなみに奥様のご実家では?」

部長「お義母さんに『座ってゆっくりしてくださいな』って言われるから、言われたとおりにしてる」

新川「(コーヒーをすする)」

部長「あと写真写りも気にしなくなった。なんか昔は『写真写り悪いな』と思ったけど、周りの目には普通にブサイクに映ってるんだろうなってわかってからね。カラオケもだな。別に俺にカラオケの上手さを期待してないしね。もう道化でいいやって。ピエロになろうって。おじさんは笑われてなんぼ。変に若作りしたり見栄を張ったり年齢にあがくより、バカにされたれって」

新川「そこまで悟ると逆にすごいですね」

部長「そう、すごいのよ、最近」

新川「そこを否定しないところもすごいです。ある意味」

部長「あ~、なんかね、謙遜するのも面倒になってきて」

新川「そんなふうになります?普通?」

部長「なんか『お上手ですね』って言われて『いやいや、そんなことないです』『いや、本当にお上手ですよ』『いや、本当に大したことなくて』なんてやりとり、面倒じゃない?」

新川「・・・それで謙遜するのを辞めたと」

部長「そう。褒められたらもういいやって。受け入れちゃえって」

新川「・・・今日でちょっと部長のイメージ変わりました」

部長「そう、ありがとう」

新川「褒めてないです」

部長「なんならコーヒー代もおごってくれてもいいよ」

新川「いい加減にしろ」

ちゃんちゃん。

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