俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

坂上忍という男

俳優でタレントの坂上忍さんが司会を務めていたお昼のバラエティ番組『バイキングMORE』(フジテレビ)が8年間の歴史に幕を閉じた。ネット上ではアンチの多い坂上さんであるが、この時ばかりはちょっとばかりの労いのコメントも見られた。

僕は坂上さんが以前司会をしていた『好きか嫌いか言う時間』(TBS)という番組が好きで、そのころから坂上さんのことを「なんだかんだ言われていてもやっぱりテレビタレントとしてすごい」と思っていた。

彼は僕にない「嫌われる勇気」を持っていた。

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TBSのサイトによると『好きか嫌いかいう時間』は

バイキングMORE」来春終了 MC坂上忍が動物保護活動に注力のため卒業申し出 8年の放送にピリオド(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース

番組概要

この番組は、現代の日本人がなかなか言うことのできない「YES」と「NO」をハッキリ言うことでスッキリできること間違いなしの討論バラエティ。 芸能界屈指の“歯に衣着せぬ"論客芸能人"たちが、今話しておくべき日本のイライラを「好き」か「嫌い」か大討論。 毎回、テーマに合わせた他の番組では見られない一般人ゲストが熱いトークバトルを繰り広げる。 彼らが本音で話すことでリアルな日本の“今“を映し出す。(以上抜粋)

好きか嫌いか言う時間|TBSテレビ

とまあ、これぞ”THE坂上忍"という番組で、「東大VS京大」「女子高生の文化」「ほめて伸ばすVS厳しく指導」といったテーマに対してまずはパネラーが”好き”か”嫌い”をチョイス。その後ゲストの東大生・京大生・女子高生・父兄らとともに討論を繰り広げていた。

テレビ大好きおじさんの僕は毎回「俺だったら”嫌い”かな。だって・・・だもんなぁ」なんて一緒に番組出演者になった気分で考えていたし、なんだったら夜、お風呂に入っている時も、就寝時の布団に入ってからも、翌日の通勤の電車の中でも「いや待てよ、褒めて伸びる奴もいれば、叱られないと動けないやつもいるぞ」なんてずっと考えていたりした。周りの人は「あいつ、何かブツブツ言いながら悩んでいるぞ。仕事の悩みでもあるのか?」「なんか思いつめた顔してるな。人生の悩みか?」なんて思っていたかもしれないが、実際僕の頭の中は「女子高生がTwitterでナンパ待ちなんてけしからん!」なんてことだった。

好きか嫌いか言う時間 3時間SP 2016年12月19日 (Edit-2) [高画質] - video Dailymotion

そして考えれば考えるほど「いや、好きか嫌いかの単純な二択じゃ無理だろ」と思うようになる。だって「子どもは褒めて伸ばす・叱って伸ばす、どっちが好きか」なんて聞かれたって、「いや、ケースバイケースだろ」とか「叱った後にちゃんといい所を褒めるとか、やり方はあるだろう」とか、「親との信頼関係があれば叱っても褒めてもどちらでもいいよ。形ばかりの誉め言葉だったり親の感情をぶつけるだけの叱咤なら子供には伝わらないよ。」みたいな結論になる。僕は何日もかけて自分の中の結論を作り、教育評論家にでもなった気持ちでコメントする自分の姿を脳内再生。脳内坂上忍はぐうの音も出ず、他のパネラーは「おお!すげぇ!坂上さんも論破されとる!」と感心しまくり、会場のゲスト・視聴者も「やはりあの先生の言うことは違う。俯瞰的に見ている!」と称賛しまくる。そんな妄想をしながら楽しんでいた。

が、しばらくすると不安になるのである。

「きっとテレビではそんなコメントは求められていない。」

番組および坂上忍さんが出演者に求めているのは”好き”か”嫌い”か。そのどちらか一方の立場に立て、ということだ。

ゴールデンタイムのテレビで求められているのはきっと”極論”だ。浅はかでもいい、批判されてもいい、どちらかの立場に立って味方と敵を作ることだ。これがなかなかできない。

僕は仕事でも八方美人な性格で、誰にも嫌われたくない、誰とも争いたくない。だからいつもニコニコしながから、穏やかに、穏便に済ませることだけを考えている。相手を説得する時も、論理的矛盾がないように時間をかけて準備するし、あらゆるケースを想定し、相手が妥協してくれる線を探りつつ話を進める。なるべく事を荒立てないようににこやかに、慎重に、言葉を選び、相手の立場も理解する姿勢を見せつつ、平和的解決にまい進する。

でもきっとそれではテレビタレントとしては失格だ。テレビでコメントするタレントさんは、考えが極端なら極端なほうがいい。視聴者が怒って番組に抗議したりネットに書き込みをするくらいでいい。コメントは浅はかなら浅はかなほうがいい。視聴者にバカにされるくらいがちょうどいい。視聴者が上から目線で「やっぱ芸能人は社会常識がねーな。世の中がわかってねーな」と思ってくれるのがきっとベストだ。

その点で視聴者に嫌われる覚悟、批判を受ける勇気を人一倍持っていたのが坂上忍さんだと思う。それはもう狂気に見えるほどだった。

そしてそれを共演者にも求めたものだから『バイキング』でもたびたびトラブルを起こした。きっと坂上さんの中で「タレントたるもの」「コメンテーターたるもの」という確固たる信念があるので、その覚悟がない共演者にイラついたのであろう。

さらに坂上さんは「自分だけ中立の立場を取る」ということも嫌がった。司会者は本来それでいいはずだが、人に”好きか嫌いか”の決断を求めておいて、自分だけその決断から逃げるのは卑怯だという考えがあったのかもしれない。(ただ「俺は~と思うんだけど、どう思う?」と話を振られると反対しづらいという批判もあったが)

恐らく坂上さんは喧嘩になってもいいから本音で意見をぶつけたかったのだと思う。が、悲しいかな(私もそうだが)坂上さんと真っ向から議論をしてやろうという芸能人・タレントは少ない。『バイキング』のゲストのほとんどは年齢もキャリアも坂上さんよりだいぶ下だし、先輩だとしてもいい年なのだから大人の対応をしてしまう。誰だってテレビで醜い言い争いなんてしたくないし好感度もほしい。だから自然と坂上さんに同調するか、笑いでごまかすかしかなくなる。それが晩年の『バイキング』だ。

バイキング】号泣する池谷幸雄に対する坂上忍の態度wwwww(画像、動画あり) - 動画配信サービス速報

ま、僕はそもそも『バイキング』を観ていなかったので、別に番組が終了しても構わないのだが、また別の機会に坂上忍の「嫌われる覚悟」「批判を生み出すコメント」を見てみたい気もする。テレビっ子おじさんの僕もダラダラYoutubeを観てるより、コメンテーター気分で一緒にコメントを考えているほうが楽しいしね。

 

サンドウィッチマンおぎやはぎさんら共演者からはその人柄を称賛されているので本当はいい人なのかもしれないが、仮に裏ではただのギャンブル好き・動物好きの酔っ払いだとしても坂上忍はテレビタレントとしては有能。表舞台に立ち続け、ネットの標的でありつづけることの難しさよ。

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