俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

僕の好きなおじさん・梅沢富美男

毎週楽しみにしている『プレバト!!』(毎日放送、TBS系列)。梅沢さん渾身の俳句は夏井先生曰く”型の選択ミス”でボツ。梅沢さんが駄々をこねる中、梅沢さんの俳句はシュレッダーにかけられ、紙吹雪が舞いながらの終焉。”番組の型”に見事にはまった大定番の大団円だった。

プレバト俳句 2022 梅沢富美男vs夏井先生 大ケンカの末にシュレッダーボツに

プレバト!!』は絵画や陶芸、洋裁や生け花などに芸能人が挑戦し、その道のプロ(専門家)が「才能あり」「凡人」「才能なし」を査定、ランキングを発表する番組で、中でも俳句のコーナーが人気を博している。

俳句は俳人の夏井いつき先生がランキング・評価・添削をするのだが、夏井先生の愛のある叱咤・絶妙な添削・そしてチャレンジャーとのやりとりが実におもしろい。何度か「才能あり」(100点満点中70点以上)を取ると”特待生(5級~1級)”となり、さらに昇格すると”名人(初段~9段)”となり、さらに名人10段として5つ星を獲得すると”永世名人”となる(現在、永世名人梅沢富美男さんと東国原英夫さんの二人のみ)。

2012年から放送を開始しているのだが、僕が見始めたのはたかだか3年くらい前からで、梅沢富美男さんはすでに永世名人になっていた。現在は後世に残す句集を作るために50句を作成中、今もその句を夏井先生に査定してもらっている。

この番組の見どころは何といっても梅沢さんと夏井先生、そして司会の浜田(雅功)さんのやりとりなのだが、これを見るたび「いいな、俺もこんな風に年を取りたいな。俺もこんな風な仲間に囲まれたいな」とつくづく思うのである。

プレバト!!』3/3(木) 梅沢富美男と夏井先生 久々の大喧嘩!! 春のタイトル戦が開幕【TBS】 - YouTube

梅沢さんと言えば、数年前から「頭の固い・頑固な、気が短い・すぐに癇癪を起こすおじさん」としてバラエティ番組でも再ブレイクを果たしていた人。でももちろんそれだけでは長く芸能界で活躍することはできない。来年50になる僕は名曲『夢芝居』で「ザ・ベストテン」などに出ていたのも観ているし、大衆演劇女形として女性以上に艶っぽい女性の表情やしぐさを表現できるのを知っている。

だがバラエティ番組で活躍する梅沢さんの魅力を一番うまく引き出したのはダウンタウンではないだろうか。遠征と嘘をついて浮気旅行をしようとしていたが台風で空港に足止めになり、ニュース中継に映って浮気がばれてしまったエピソードを『ダウンタウンDX』で嬉しそうに話していたのを鮮明に覚えている。それ以降もスケベで女好きキャラ、「天才役者」「成功者」「モテ男」と自分で言っちゃうお茶目キャラ、若者を「けしからん!」と叱る頑固おやじキャラなど次々と獲得。バラエティ番組になくてはならない存在になった。番組の流れを読んで、必要なときには前に出て道化となり、それ以外はちゃんと他を盛り立てた。そしてキレキャラを演じつつ、浜田さんに突っ込まれるとちゃんとおとなしく引き下がるあたりの空気の読み方はさすがだった。

プレバト!!』浜田雅功、梅沢富美男、手塚理美 (c)MBS - music.jpニュース

で、その梅沢さんの魅力が現在最大に出るのが『プレバト』ではないかと思う。

2022年4月28日放送の俳句のお題は「ゴールデンウィーク」。チャレンジャーのぼる塾田辺さん、勝村政信中川翔子さん、高橋真麻さんが「才能あり」「凡人」「才能なし」の結果を受け、名人6段の女優・中田嬉子さん、Kis-My-Ft2横尾渉さんの昇進査定へと続く。永世名人・梅沢さんの査定は番組のトリなので、他の方の俳句が査定されている間は上段から「これは”凡人”と言われてもしょうがないねぇ」「これはいいよ!(昇格間違いなしだから)にっこり笑っておいたほうがいいよ。カメラ、何カメ?」「すばらしいよ!こういう俳句を詠むようになったんだね」とガヤを入れる。自分の評価と夏井先生の評価が同じだと満足そうに「うんうん、そうそう。俺もそう思った」というように頷く。

夏井先生も夏井先生で、梅沢さんの査定をするまでは永世名人を持ち上げ続ける。勝村政信さんの査定の時などは「あなたしばらく俳句作ってなかったでよしょ。私あなたの芝居を見に行って”演技素晴らしいな。俳句もがんばってんだろうな”って期待していたのよ!おっちゃん(梅沢さん)見てみなさいよ!舞台しながら俳句もちゃんとやって、俳句の筋肉落としてないでしょ?しばらくおっちゃんの弟子になりなさい!」と梅沢さんを最大限に持ち上げる(照れる梅沢さん。ただ夏井先生は事前に梅沢さんの俳句をボツにしているので査定発表に向けてわざと持ち上げていたのかもしれない)。

冴えわたる梅沢を夏井先生がべた褒め「こんなに出来る男だったんだ!」 | もう一度楽しむプレバト | MBSコラム

そして番組のトリは梅沢永世名人の査定。「今日は自信があります!」「かわいい弟子(横尾さん)が同じような句を作っていたね。これが嬉しい!」と余裕しゃくしゃく。作った句は

「暁光や 桜隠しの五稜郭(*”暁光”は朝陽、”桜隠し”は雪をかぶった桜のこと)

横尾さんには「お手本のような句!」、中田さんには「”桜隠しの五稜郭”って響きがきれいですね~」と絶賛され、ご満悦の梅沢さんは「何カメ?」と確認しながら笑顔で結果を待つ。このあたりのハードルの上げ方、お調子の乗り方も毎度のことながら見事だ。実にお茶目で可愛げがある。

しかし結果は”ボツ

アップにされた梅沢さんの顔が一瞬で真顔になり、「ボ、ボツ」「ど、どういうことだ!」とうろたえる(このリアクションももはや名人芸)。

夏井先生曰く”暁光””五稜郭”という言葉が固く・重すぎるので間の”桜隠し”という柔らかで繊細な季語が死んでしまうとのこと。で、先生が添削した後の作品が

「桜隠しや 暁(あかつき)の五稜郭

夏井先生「永世名人ですからこれぐらいはやってもらはないと」

梅沢さんは「無理だって!」「(添削後に)感動したよ!確かに」「それはもうできないって!それができたらもう卒業してるわ!」と逆ギレするのだが、セリフが実に可愛げがある。71歳の梅沢さんも夏井先生(64歳)の前では子どものようにバカな泣き言を言うのが面白い。

梅沢さんはどんなに俳句をボロクソに言われても、絶対に「うるせぇ!クソババァ!」で終わったりしない。最後は駄々っ子を演じて可愛げを見せる。だからテレビで使われ続ける。普段は夏井先生のことを敬意と親しみを込めて「なっちゃん」と呼び、その瞬間だけ子供になる。キレたりふてくされたりしている態度を見せながらもどこか楽しげだ。年を取っても子供に戻れる瞬間があるって、なんて嬉しいことなんだろう。そして自分をちゃんと叱ってくれる大人がいることは、なんと幸せなことだろうか。

夏井先生はいつも上品な着物をまとい、凛とした毅然とした態度で誰もが首肯せざるを得ないような添削を即座にやってのけるのだが、梅沢さんに対してだけは親しみを込めて「おっちゃん」と呼び、好戦的になる。そして梅沢さんの駄々っ子ぶりを受け止めつつ褒めては叱り、叱っては褒めて梅沢さんを掌で転がすのである。

もう一人の先生、浜田さんはしばらく梅沢さんのリアクションを楽しんだ後、問答無用で話を区切り、番組を締めくくる。もはや「プレバト!!」は梅沢さんの俳句がボツになってシュレッダーにかけられるのが最大の見どころ。3回中2回はボツになってほしいね。

梅沢さんも浜田さんには全てを委ねている感がある。ちゃんと自分のおふざけにツッコミを入れてくれ、キャラを引き立たせてくれる浜田さんに手綱を取られている状態が気持ちいいのだろう。

 

いいな、年をとってもあれだけはしゃいで、遊んでもらえて、褒めてもらえて叱ってもらえて、偉そうに振舞ったり道化になったりしながら余生を過ごせたら、幸せだろうな。梅沢富美男さん、僕の憧れだ。

梅沢富美男、夏井先生の辛口査定に"ぴえん" スタジオ騒然のぴえん俳句 (2021年6月16日) - エキサイトニュース