俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

本当の自分とは何ぞや

2022年6月4日放送『マツコ会議』(日本テレビ系)にタレントのぺえさんが登場。現在、すっぴん、ぼさぼさの髪、スウェットのだらしない姿で自堕落に暮らす素の姿を晒し、飾らない自分の言葉で本音を語るYoutubeが30代、40代の女性に受けているという。

番組の中でぺえさんは何度も「本当の自分」という言葉を発していた。それは派手なメイク・髪型でおねえを演じていた時代が”偽りの自分”、それに対して現在のYoutubeの中の自分が”本当の自分””素の自分”であるという意味だと思うのだが・・・僕はなんとなく違和感が残った。そして「(ぺえYoutubeは)人間をそのまま出している」というマツコさんの観ている視点と、ぺえさんの言う「本当の自分」には、少し距離があるような気がした。

ぺえ - Wikipedia

ぺえさんは2016年に同番組で見いだされた。原宿のカリスマショップ店員、読者モデルを経て芸能界入り。ピンクやパープルの派手なヘアスタイル、奇抜なファッションで、”新たなオネェ枠””ギャル枠””10代のカリスマ枠”として取り上げられた。しかし当時はりゅうちぇるさんやら藤田ニコルさんやら強烈なキャラが次々と現れ、おねぇ枠もマツコさんを筆頭にミッツさん、ナジャさん、釜江さんなどキャラの大渋滞状態。そんな中、ぺえさんもパターン化したキャラクター像を演じることを強いられることになるのだが、かなり無理をしていたそうだ。突発性難聴などの症状が出るなど結局体調を崩す結果となってしまったそうだ。

芸能界に残っている人たちはいい意味で”化け物”だ。キャラの怪物だ。中途半端なキャラクターでは当然通じないし、押しつぶされてしまう。自分の力が通じないと分かった時の喪失感は大変なものだろう。確かにデビュー当時のぺえさんは、テレビで観ていても「苦戦しているな・・・」という感じがしていたな。

 

しかし現在は自身のYoutubeチャンネルにおいて、飾らない姿(悪く言えばだらしない姿)を晒し、自分の本音を包み隠さず語る様子が「救われる!」と30代、40代女性に受けており、スタイルブックなども好評なのだそうだ。

 ん~・・・そうか・・・。確かに芸能界に入って、周りからキャラクターを押し付けられ、ムリをして偽りの自分を演じていたのは相当の苦痛だったと思う。それは観ているぼくらの想像を超えるだろうし、それについては同情してあまりある。

 ただ今の自分を「本当の自分だ」「本来の自分の言葉(を発している)」とすると、この後大変になるんじゃないだろうかと、おじさんはちょっと心配になるのである。

 Youtubeの中の、寝起きのすっぴん・ぼさぼさ頭、スウェットから腹も出ただらしない姿は間違いなく”飾っていない”。世の中の生きづらさをぼやいたり、口をついて出てくる愚痴や不満も本音だろう。僕だって家の中じゃ部屋着さえ来ていないし、頭の中はエロのことばかり考えている。人の不幸や悪口が大好きだし、金持ち・イケメンみんな死ね、と思っている。調子に乗ってる若い奴が大嫌いだし、謙虚じゃない奴も大嫌い。それは本音だが、それを職場の人の前で垂れ流すことはない。家の外ではきちんとしたおじさんを演じている。

 でも演じていることも含めて「本当の自分」なんだよな。

確かに僕も10代20代の頃は本当にひねくれてた。モテなかったし、金もなかった。浪人もしたし就職もできなかった。さらに友だちも少なったし、兄弟とも連絡を取っていなかった。自分以外みんな不幸になればいいのに、自分も早く死ねればいいのにって毎日思っていたな。世の中に”本当にいい人””ピュアな人””人の幸せばかり願っている人”なんて絶対にいないと思っていた。綺麗ごとばかり言う人が全く信じられなくて「どうせこいつも心の中では人のことバカにしてんだろ」「自分が結婚もして収入も安定してるから、偉そうに上の立場でものが言えるんだろう?俺の立場になってみろよ」なんて思っていた。

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今でもちょっとそう思っているところがなくもないが、それでも自分も家族をもって少しは丸くなった。あの頃思っていたことも本当、あの頃ひねくれてたのも本当。そんで今、ちょっと丸くなった自分も本当の自分。ネガティブな部分だけが「本当のあなた」なんて言われると、今は「ん~・・・そうでもないんだよね」と思う。

 それが仮に「ネガティブ思考な自分」が周りに評価されて、周りから「ネガティブな言葉を吐くこと」を期待され続けたら嫌になると思う。宮下・草薙の草薙だって、今はネタでしかネガティブにならない。収入も上がって周りからちやほやされてるからね。

 仮に腐りきった考えや発言が本音だったとしても、「腐り芸人」なんて言葉で括られて「腐り発言」を期待されたら、それはそれで辛いし自分の首を絞めることになる。ハライチの岩井君も今は売れてしまって腐る理由がないからね。

 ぺえさんに関しても、今は”リハビリ中”というか”第二形態”なんだと思う。無理をして偽りの自分を演じていた時期(第一形態)から無理をしない状態で受け入れられている現在。でもこれを”本当の自分”と決めてしまうと、そこから抜け出せなくなってしまうのではないか。まだまだ”違う本当の自分”も見つかるのではないか。

 今は”がんばっていた時期の自分”を知っている人がいるからかろうじて支持をされているが、その支持をしている30代、40代の女性たちだって別にファンではないだろう。確かに飾らないぺえさんに励まされたかもしれないが、(マツコさんも言っていたが)基本的には前を向いている女性たちだ。”こんな奴でも生きているんだ。私も無理せず頑張ろう”と通り過ぎていく存在だ。”がんばっている時代のぺえ”を知らない世代はきっと評価してくれない。

 それに今後ぺえさんが好きな人でもできてもう一度自分を飾りたいと思った時、またもう一度外で働かなければならない時、「本当の自分」と決めつけていたことが足かせになるかもしれない。

 Mr.Childrenも「名もなき詩」で歌っていたけどね、「本当の自分」に縛られないほうが楽な気がするんだけどな。

Mr.Children 名もなき詩 - YouTube

 ちなみにマツコさんは最初から今に至るまでぺえさんの「どちらにもなり切れていない姿」を”人間らしい”と評価しているような気がする。すっぴんでだらしない姿を晒し、世の生きづらさを嘆いていながらも、まだ節々に「人に認めてもらいたい」「ウケたい・目立ちたい・売れたい」という気持ちが表れてしまう。そういう人間的な弱さが見られる部分も含めて「一番信頼ができるYoutubeチャンネル」と言っているのだと思うがどうだろうか。

 とにかく、ぺえさんの第三形態に期待しているおじさんです。

ぺえの相談室【切り抜き】 - YouTube