俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

拝啓、尾崎豊様

夕方、Yシャツにアイロンをかけながら『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ』(TBS系)を観ていた。「旅立ちに刺さる卒業グッとフレーズ」という部門で50代以上の人が選んだのが尾崎豊の『卒業』であるが、今、Z世代にも尾崎の歌は再評価されているという。SNSで見栄を張り続ける今の生活、不景気やコロナ禍で明るい未来が見えない現状を”不自由”や”束縛”と捉えた若者の心に尾崎の言葉が刺さっているという。僕はYシャツのシワを伸ばしながら思う。

尾崎・・・あんたズリぃよ。

『グッとフレーズ』4時間SP出演者

僕も尾崎世代で、中学・高校・大学とずっと尾崎を聴いていた。「夜の校舎窓ガラス壊して回った」ことはないし、むしろ生徒会長を務めるくらい真面目だった。校則も守ったし、制服もきちんと着ていた。部活もしていたし、受験戦争にも挑んだ。でもずっとどこか窮屈さを感じていた。真面目な生徒も不良も、その点では同じで、むしろまじめで大人に逆らえなかったからこそ不良に憧れたり、尾崎の歌詞に共感したりしていた。当時はみんな弱かった。喧嘩の話じゃなくて、不良も心身ともに未成熟だったからこそ虚勢を貼っていたし、真面目な生徒もそう。そして先生もか弱き大人の代弁者だった。

卒業ソング… - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

尾崎は26歳で亡くなってしまった。最後までティーンのカリスマであり、若者のやりきれない感情を代弁したまま逝ってしまった。

んで残された僕らはそのまま大人になって、おじさんになって、若者から毛嫌いされる立場になった。僕はしがない派遣社員なので別に若者を縛り付ける社会のルールやシステムを作っているわけでも、明るい未来を描けない社会を作った張本人でもない。が、子供には「勉強しなさい」という親にはなったし、新人社員には偉そうに講釈を垂れる大人にはなった。だから若い人から見たら”汚い大人””信じられぬ大人”と見なされているのかもしれない。

『うっせぇわ』を言われる側に - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

で、これくらいの年齢になると、”汚い大人”ってのも社会には必要だということもわかってくるし、社会に取り込まれた犬・豚となった大人の気持ちもわかってしまう。日本の主権や領土を奪おうとするアメリカ・東アジアの国に対し「NO!」と言える政治家が正義!と昔は思っていた。が、裏で「ま、ここは穏便に」と袖の下を渡す政治家がいるからこそ戦争が回避され、日本の平和が保たれていることは今ならわかる。社会に縛られず自由に生きるのが尾崎イズム!と気に入らない会社を辞めるのも20代までならできる。しかし家族を抱え、子供の教育費・家のローンのために社畜になる人を今は責めることはできない。そんな弱い大人をわかってしまう今の自分がいる。

そんな大人を尾崎も薄々気づいていたように思う。大人と若者、社会と若者という二項対立ではなく、大人も含めて”人は誰も縛られたか弱き子羊”なのだということを。尾崎だって生きていれば街に、そして社会に飲まれている可能性はある。息子の裕哉君が「学校に行きたくない」と言い出したとき、「がんばって行きなさい」といえば昔からのファンに幻滅されてしまうし、「学校なんていかなくていい」といえば”ゆたぼんのパパ”と叩かれそうだし、「今はフリースクールやN校もあるよ!」なんて言えば「なんか・・・尾崎っぽくない・・・」とこれまた不評を買いそうだ。50歳になったらいくら尾崎でもティーンのカリスマではいられない。”説教臭いおじさん”って言われかねないし、「自由になりたくないかーい!熱くなりたくはないかーい!」なんて言っても「うぜぇ」とネットで叩かれかねない。

洋平🐾 (@yohey1231) / Twitter

だからもし50代の尾崎がいたら、40代のファンを鼓舞するような魂の叫びを聞かせてほしい。60代の尾崎がいたら、50代の気持ちを代弁してくれる歌を歌ってほしかった。令和の社会を、世界を、人間を尾崎の世界観で表現してほしかった。今年50歳になる今の自分はまだまだ弱くて、社会の冷たい風には立ち向かえなくて、それでもがんばって生きていくためにはアニキの言葉が必要なのである。

が、尾崎は26歳で逝ってしまったのである。僕らを残して。

尾崎は今、僕らがいる「大人側」「先生側」「社会側」に来ることはなかった。そして尾崎の死後も生きながらえて、自動的に”こちら側”に来ることになった今の僕らは「老害」「使えない大人」なんて言われたり、尾崎の歌そのものでZ世代から批判をされてたりしている。

だから思うのだ。

尾崎・・・あんた、ずりぃよ。

老いたところも見せずに、大人や社会に悪態をつくだけついて若者を煽ってドロップアウトするなんて・・・。

勿忘草(わすれなぐさ)