俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

「ネコだからいいでしょ?」

僕は今、マレーシアに住んでいるのだが、昼時に職場近くの大学の学生寮でご飯を食べることがある。お皿にご飯を盛って、肉か魚のおかずを一つ、野菜のおかずを1つ、卵か豆腐のおかずを1つ載せるとRM8(240円くらい)で済むのでお小遣いの少ないおじさんは助かっている。

学生寮には妙に毛並みのいい野良猫がそこら中にいて、オープンエアの食堂でも10匹くらいの猫が悠々と過ごしている。ここの猫はよく言えば”行儀が良い”のだが、悪く言えばちょっと”あざとい”。僕が一人で飯を食べていると、1匹の猫が足元に近づいてくる。僕が気にせず食べ進めていると、今度は僕の横の椅子に乗り、僕を下から見上げてくる。それも無視していると、今度は僕の正面の椅子に移って、顔だけテーブルの上に出すようにしてこちらを見る。完全に誘っている(?)というか、おねだりしている。しかしここの猫は獲物を狙うような姿勢を取ったり、素早く手を出してかすめ取るような真似はしない。行儀がいいのだ。すると今度はテーブルの上に乗り、僕の皿のフライドチキンを物欲しそうに見つめる。ここまでされるとさすがに一口くらいはとフライドチキンの身をちょっとだけ取ってあげるのだが、ここでもネ子はがっつくことなく静かにそれを平らげ、大人しく僕の食事が終わるのを僕の傍らで待っている。僕がお皿をきれいに平らげるとネ子は「すみません、じゃ、これいただいていきます」と言ってフライドチキンの骨を遠慮気味に咥えて、しずしずとテーブルを降りて行ってしまう。この一連の態度を見て僕は思わず唸ってしまった。

ん~~、なんと”しをらしい”・・・。

がさつなネコだったら乱暴に追い払っていたところだが、こんなふうにされたら思わず一口あげたくなってしまう。これがネ子の作戦だとしたら相当なやり手だ。銀座のクラブで働く貧乏学生風というか、ネコなのに”夜の蝶”感というか”水商売”感が漂っている。僕らおじさんはこういうしおらしい子に弱い。ここのネコは人をたぶらかす天才だ。

https://www.hmetro.com.my/utama/2020/04/565479/penuntut-uum-bantu-kucing-terbiar

ただ、僕の同僚は逆に大の猫嫌い。何度か同じ食堂で猫を追い払ったことがあるそうだ。ある調査によると、大の猫好きは大体2割程度。反対に猫嫌いも2割程度。残りの6割は「好きでも嫌いでもない」という人達らしい。僕はどちらかと言えば”犬派”だが、猫が嫌いというわけではない。でも猫好きの人は苦手かもしれない。

小型犬の哀れ - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

というのは、猫好きの人に共通するのは、どこかに「ネコだからいいでしょう?」という態度が見え隠れするのだ。例えば猫好きが良くするという”猫吸い”。猫の横っ腹当たりに顔をうずめて思いっきり息を吸うのが猫好きにとって最高に癒しであるという。でも猫だって汗かくだろうし色々なものに触れて毛も汚れているだろうから、そんな猫を吸い込んだら普通に汚いと思う。そんな特殊な性癖を、なぜかSNSとかテレビで披露する人をよく見かけるのだが、あれはなんなんだろう?僕がAV女優の抱き枕で同じことをしていたら絶対に気持ち悪がられるだろう。同じように猫が嫌いな人、そんなに好きでもない人にとって”猫吸い”は結構気持ち悪いものを見せられているのに、なぜか「ネコだからいいでしょ」で済まされている気がするのだ。ネコにとっても嬉しい行為ではないし、ストレスを感じているかもしれないだろうに、動物虐待を訴える人もいない。「ネコだからいいでしょ」で守られている。

https://news.livedoor.com/article/detail/19708959/

あと最近、「ネコ動画」を見ているわけでもないのに、Youtubeを観ているとふいに猫に出くわすことがよくある。例えば先日、タブレットを買おうと思って、いろいろな商品の解説をしている動画を観ていると、こんな人に出くわした。

【2021年冬】Surface Pro 7 +(プラス)新発売 !? 最新Surfaceのアップデートポイントとたかみーの感想 - YouTube

僕はパソコン関係に疎いので、こういう動画をじっくり見ながら自分が買うべきものをちゃんと選びたいのである。だから動画を真剣に見ているのである。似たようなパソコンとかスマホの比較、製品の特長やコスパなんかを詳しく解説できる人は素直にすごいと思うし、僕はそういう人を”講師”として真剣に話を聞こうと思っている。なのに猫がカメラの前を通り過ぎても知らんぷりなのである。なんなんだろう?普通に考えたらNGで撮り直しをするのでは?もしくは猫が入って来てしまったところは編集でカットするのでは?しかしこの男はお構いなしなのである。

「いやいや、このYoutube動画って、あなたの大事な収入源なんじゃないの?あなたはプロとして誇りをもって製品解説をしてるんじゃないの?自分の専門の話を邪魔されてるんだよ?遊びでやってんの?」

しかしおそらく動画主は「ネコだからいいでしょ?」と思ってる。「ネコがすることだもん。仕方ないでしょ?ネコだよ?かわいいじゃん。だからネコが映ってもみんな和むでしょ?」と純粋に思ってるのだ。それを共有できるのは世の中に2割くらいしかいないのに、観ている人はみんな「ネコだからいい」と思ってくれていると疑いもしないのだ。

なんなんこれ?俺はネコが観たいんじゃなくて、あんたの話を聞きたいんだよ。ネコは邪魔なの。集中力が途切れるの。なんでわかんないんだろ?

もしかしたらこういう人たちのチャンネルを登録している人も多くはネコ好きで、ネコが出演すること込みでこの人のチャンネルが好きなのかもしれない。でもメンバー向けでもない一般公開している動画なら、猫好き以外が観る場合の方が多い。だから「すみません、ネコが・・・」とか一言いってくれたら「あ、まあ、大丈夫ですよ」なんて返せるのに、「ネコだからいいでしょ?」って態度で最初から最後まで来られると「コイツ常識ないな。こいつに教わることはないな」と思ってチャンネル登録も戸惑ってしまう。それはお互いにとって良くないことだろう。

だからネコ好きの人に言いたい。「ネコだからいい」わけではない。その価値観は世の中の大半の人は認めていない。

勝手に決めるな。ちゃんとやれ。

パワーワード祭り】ネコを見ながらゆる質疑応答 - YouTube