俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

夫の自尊心

嫁が北京に来て1週間。こちらの長期滞在ビザを取るために役所に申請をしに行くことになった。私の配偶者ということで私の会社の人が連れて行ってくれるとのこと。予約をしていた午後1時に会社から車で出発をするのだが、困ったことが1つあった。妻はまだ北京で地下鉄に乗ったことも配車アプリを利用したこともないので会社に一人で来られるかどうかが不安なのだ。そこで明日は私と一緒に朝出勤し、オフィスの周りのカフェで午前中時間をつぶし、昼飯を一緒に食べてから事務所の人と一緒に役所へ行ってもらうことにした。

 明日は大丈夫だろうか。朝は8時頃家を出て、地下鉄のアプリの使い方を教えて、改札出口から会社までのルートを教えて・・・・う~む、想像するだけで・・・ちょっとドキドキ・・・。

4列での整列乗車のイラスト(電車) | かわいいフリー素材集 いらすとや

 まずは家から最寄りの地下鉄駅までの道。ここは川沿いで景色がいいのでデート気分。

「ここの川、結構深いのよ。水草が垂直に1メートルくらい伸びててさ、そんで中国人のおじいさんがいつでも釣り糸を垂らしてんのよ。あ、あそこの屋台で朝飯買う人多いよ。なんかケバブみたいな感じ?小麦の皮に肉とか炒めた野菜とか入れるんだよ」

地下鉄は空港の手荷物検査のようにX線を通さなければならない。荷物が出てきたらすぐ改札だ。

「手荷物チェックを受けたらすぐスマホのアプリを立ち上げて。改札でQRコードをかざすから。ダメだったら俺、交通カード持ってるからそれ使って。」

地下鉄はほとんど日本と同じだが、出口がA~Dまであって間違えると帰り道がわからなくなる。

「うちはC出口だから。電車で帰ってきたらCD改札があるほうに行ってね。向こう側はAB出口。間違えないように」

会社の最寄り駅までは5駅だから20分もかからない。ただその駅は1号線と10号線の乗り換え駅でもある。電車を降りたら10号線から1号線のD出口まで行かなければならないのだが、道順は結構複雑でしかも長い。

「1号線は1つ上の階を交差しているから、まずは階段を上る。ほら、あの1号線という看板を目指して。改札出る時はまたアプリを立ち上げてね。で、出たら右!」

妻は帰りは一人で電車に乗って帰るのか、配車アプリで帰るのかまだ決めていないという。電車で帰るなら帰り道を教えてやらねば。配車アプリで帰るならタクシーが停まるオフィスの裏口を教えてあげなきゃ。あ、ビルの正面側にあるスタバも教えてあげよう!

するとどんな順番で歩いて行けばいいだろうか。まずは地下鉄入口からオフィス正面に行ってスタバの場所をチェックかな。それから裏のタクシー停車場を確認。あとは少し面倒だけど地下鉄入口まで戻って、デパ地下も教えとこうかな。朝飯食べたりできるしな。あんまりいっぺんに教えたらわからなくなるかな?もうちょっとわかりやすい方法はないかな・・・。段取り段取り・・・。

明日のことを考えると眠れなくなる。が、こんなワクワクするシミュレーションもない。そう言えば昔読んだ本にもそんなことが書いてあったな。

自信満々の男性のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや


基本的に男は教えたがりである。教えることで自尊心を高めている。自己満足が最高潮に達し、えも言われぬ快感を得られる。幸せリンパがどばーっと脳から流れてくるのだ。それが好きな女性、子供、家族だったらさらにいい!教えた人が「へ~、そうなんですか。」「あ~教えておいてもらって良かった」なんてリアクションをしてくれたらもう最高!アドレナリンどばどば!男として自尊心が限界突破!

ましてや明日は僕の通勤経路!僕の得意分野!妻ははじめての地下鉄!初めての土地!圧倒的なアドバンテージ!絶対的有利!妻が頼れるの俺だけ!100%の勝ちゲーム!

堂々と出勤する僕、おどおどしながらついてくる妻。「旦那がこんなに頼もしく見えるなんて!」惚れ直す妻!感激する妻!濡れる妻!

男という生き物は本当に単純である。頼られると自尊心が爆発し、いい所を見せようと張り切ってしまう。女性や子供に「教えて」と言われるととたんに舞い上がって、「しょ~がねぇな~」なんてにやにやしながら全力で対応してしまう。だから女性は勘違いさせておけばいい。「お願い💛」なんて言っておけばいい。

ああ、早く明日にならないかな~。