先日、生まれて初めて下北沢という街におりた。
友だちが小さな劇場で舞台に出るから見に来てほしいというので、仕事帰りに行ったのだが、
なんだが、プチ嫌な気持ちになった。
みなさんは、下北沢という街が、どういうところかご存知だろうか。
よく言われるのが「若者の街」「ファッションの街」「小劇場の聖地」「アンダーグラウンド」などなど
また役者やアーティスト志望の人が集まる場所でもあるらしい。
一昔前の学生街、といった風情か?

で、僕はなんとなく、その話を聞いたとき「嫌な感じだな」と思ってしまった。
もともと人が集まる場所がそんなに好きではないのだが、
それに加えて、なんか叶わぬ夢を見続け、沈没した人生をどんよりと生きる退廃的なイメージが
なんとなく好きになれなかったのだ。
「無駄なことしてないで、就職して働けよ」と小バカにしたい気持ちの反面
世間体を気にせず、夢に向かってひたむきに生きていることへの嫉妬心もあるのかもしれない。
だから僕はこの街をずっと意識的に避けていた。
36年目にして、ついに足を踏み入れたのである。
改札を出て、南口の階段を下りた途端、
「うわ~・・・・いかにもだな・・・・」という感じがした。
古い商店街風ながら、小さな店がびっしり隙間なく並んでいる。
古着屋、喫茶店、ラーメン屋、ファミレス・・・
なんか、いかにも暇を持て余した学生や若者がたむろしていそうな店の並びだ。
そして噂どおり、小さな劇場が軒を連ねている。
なんとも危険な街だ。
変に落ち着きがあって、いくらでも長居出来そう。
それこそ、5年とか10年とかのレベルで・・・・

路上にはシートを広げ、自分の詩集や、あいだみつをもどきの色紙を売るコスプレ少女
自分が書いた漫画やイラストを売る古着のロリータ
意外に本格的な絵画を売る赤い髪のパンクロッカー
アクセサリーを売る外人さんなど、
「いかにも」といった人たちがあちこちにいる。
なかでも異彩を放っていたのが、テレビでもたびたび紹介されている漫読家の東方力丸だった。
みなさんはこの男をご存知だろうか?
汚らしい長髪に、手入れのしていない伸び放題の髭、そしてメガネ
頭にタオルを巻き、これまた古着に身を包んでいる。
この男が、いつものようにビニールシートに自前の漫画を並べ
寄ってきた客に漫画の読み聞かせを行なっていた。

ぱっと見、日雇いかホームレスといった汚い男だが、
もう、テレビや雑誌で何度か紹介されているので街の有名人である。
写メを撮る人や、幾ばくかの謝礼を払って漫画の読み聞かせを頼むものもいた。
僕は、その前を2,3度往復して、様子を伺っていた。
もちろん、写真を撮る勇気もなければ、漫読をお願いする勇気もない。
強がりを言わせてもらえるなら、関わりあいたくもない。(めっちゃ気になってるくせに・・・)
僕は、こういう世の中を舐めたような男が大嫌いなのだ。
おそらく平日昼間は別のところでバイトをし、休日や夜になると路上で漫読を行なっているのだろう。
漫読は仕事というよりは、彼が編み出したパフォーマンスだ。
確かにものめずらしさが手伝って、テレビでも取り上げられた。
が、パフォーマンスとしては成り立っていない。
作品は人のもの。しかもコミックサイズで見にくいし
これといってボイストレーニングを受けているわけでもなく、発声や声色の変化も自己流
大声で騒いでいるだけで、子どもが漫画の登場人物になりきって声を出して漫画を読んでいるのと同じ
これで仕事になる、パフォーマンスになるなんて思っているから奴には進歩がないのだ。
何が腹立つって、こいつが僕と同い年(同じ学年)ということだ。
何やってんだよ・・・・
ダメじゃん・・・・・。
しかも出身が神奈川県茅ヶ崎市って・・・・・・・僕の故郷と隣りの市じゃん・・・・
僕は、こうしてちゃんと働いていないやつが嫌いなのである。
いつまでもタラタラと夢を追ってんだが、人生をあきらめているんだがわからないようなやつが嫌いなのである。
正直、蹴飛ばしてやりたい衝動にかられる。
おそらく僕は、何かが悔しいんだと思う。
そして、何かを恐れているんだと思う。
将来のこと、お金のこと、仕事のこと、結婚のこと、今日のブログのこと
毎日毎日、スーツを着て、ネクタイを締めて、満員電車に乗って不安とストレスに悩んでいる僕の気持ちが
漫読家なんかにわかってたまるか!!
おい!こら!聞いてんのか!
ちょっとは人生のことを考えろよ!
将来のことで悩んでみろよ!
なんでお前みたいなのがテレビに出られんだよ!
なんでお前みたいなのが人に囲まれてんだよ!

僕は東方力丸を認めるわけにはいかないのである。