朝6時半
僕はユニットバスの洗面台の前で歯をシャコシャコ磨きながら上を見上げる
上を見なけりゃヨダレが垂れる
だから僕は上を見る。
シャコシャコシャコシャコ歯を磨き
折り見て「ペッ!」とはき捨てる。
10分近く磨いたら、パンツをずり上げ出勤だ!
僕がこんな行動をするようになったのは、それはきっと彼女のせいなのだ。
自慢じゃないが、僕は歯を磨くのが下手だ。
子供の頃は「未処置歯」が見あたらないほど歯を痛め続け、治療ばかりしていた。
大人になってからも30歳の時、34歳の時、そして1ヶ月前と結構な治療を行った。
大人になってからはちっとは学習しようと思って、歯医者さんに言われた「正しい歯の磨き方」を守ろうと思ったのだが、2・3ヶ月もすると元に戻っていた。
デンタルフロスも二日に一度と言われていながら、最近は月に1度するかしないか
”鉛筆持ち”にして、力を入れないで細かく何度も動かすように言われても、気づくと男らしく歯ブラシを鷲掴みにして、ゴシゴシゴシゴシと歯を削りまくっている。
「半年に一度は定期検診に来いよ」と歯医者に言われていたのに気づくと前回の治療から3年も経っている。
僕は悲しいくらい学習しない猿なのかもしれない・・・・。
そんな僕なのだが、歯を磨く時間は結構長い。
それこそ歯を削るくらい長い。
だいたい鏡とにらめっこしながら10分くらいはゴシゴシ磨いている。
ちなみに僕は朝のうんこも長い。
別にブリブリ出続けてるわけではない。
むしろ本でも読みながら、ダラダラとふんばりつづけ、ある程度「もう今日は無理だわ」とあきらめがつくまでは居座り続ける。
これまた20分はかかるので朝はいつも時間がかかる。
僕はそれまでまずユニットバスの浴槽に腰掛けながら10分歯を磨き、それから便座に座って20分踏ん張るという生活を続けていた。
それが、僕が彼女と付き合ったばかりの時のこと
彼女と迎える朝はとても新鮮で、なんとも言えない新婚さん気分であった。
が、喜んでいたのはほんの数日。
実は僕はそれまでの36年間、
朝は出かける75分前に起き、10分で朝食、20分の食休み、35分の歯磨き、トイレ、剃髭、そして10分の着替えというペースを全く崩すことなく生きてきた。
しかし彼女は出かける1時間前に起き、30分かけてゆっくり朝ご飯を食べ、休む間もなく歯磨きをさっと済ませ、20分で着替え・化粧等を済ませる人であった。
女性にしては化粧時間が短いのだ。
それが僕にとっては不幸な結果を招く。
朝ご飯を一緒に食べ終わる頃にはなんと30分しか時間が残っていない。
僕と彼女でユニットバスで二人、歯を磨きトイレを済ますには時間がなさすぎる。
とりあえず僕は彼女に先に洗面台を使ってもらい、残り時間をすべて洗面所で過ごすことにした。
が、それでも歯磨きとトイレを順番にやっていては時間が足りないし、30分近くユニットバスに籠もっていたら「うんこの長い奴」と思われてしまうかもしれない。
そこで編み出したのが現在の「歯磨きとトイレの同時進行」という方法だ。
僕は歯ブラシに歯磨きを塗り付け、パンツを下ろす。
そして便座に座りながら歯をシャコシャコ磨く。
実際、歯を磨いている間に”ミ”が出ることはほとんどない。
が、歯を磨いている間に余計なガスが出て、磨き終わるころにはロケットスタートが切れる。
これまで歯磨きに10分、トイレに20分かけていたのが、同時進行にすると時間を半減できる。
便座に座りながら上半身をひねり、洗面台に「ペッ」っと泡を吐く姿勢は辛いけど、
それでも時間の節約は最大の魅力だ。
これが今も気に入って、彼女がいない今もその習慣を続けているというわけだ。
そういえば、家の兄も結婚前はひどいものだった。
トイレ掃除は年に1回
便器の内側に、緑色の水カビがびっしりついても気にしない男だった。
もちろん洗面台のタオルは「手を洗った後に拭いたのだからきれい!」というジャイアン的理論で全く洗濯されておらず、洗面台の鏡は歯磨き粉の白い斑点で真夏なのに吹雪の中にいるような錯覚に陥るほどだった。
そんな兄貴が結婚後、見違えるように人間的な生活をするようになった。
久しぶりに実家に一人で遊びに来た兄は、台所にリンゴを見つけると、それを包丁で皮をむき、4つにカットし、芯を切り取ってお皿に載せ、フォークで刺して食べ始めたのだ。
家族はみな目を丸くした。
結婚前は、好物のリンゴを見つけると、ゴリラのようにそのままかじりついていたのに・・・。
女は男をこんなにも変えるものなのかと、つくづく思ったものだった。
しかしその僕もいまや彼女の存在によって、それまで頑なに守ってきた習慣を簡単に崩すようになり、「女は男を変えるもの」と実感している。
ま、その結果が「うんこをしながら歯を磨く」というのだから、
やはり僕は「学習能力のない猿」なのかもしれないな・・・。