今回の旅では僕は色々なことを考えさせられた。
ありきたりだが、「結婚というのは本人同士だけの問題ではないのだ」ということ。
結婚とはお互いの家と家、家族と家族がつながるのだということ。
初めて日本でジュンちゃんのお母さんに会った時、ジュンちゃんのお母さんはろくに目も合わせてくれず、僕は「嫌われているのか?」「この結婚に反対なのか?」「対日感情が良くないのか?」なんて戸惑ったりした。
ジュンちゃんは「お母さんは恥ずかしがっているだけ。陰ではあんたのこと『優しそうだから気に入った』って言ってるよ」と言ってくれるのだが、もしかしたらジュンちゃんが気を使ってうそをついているのかもしれない。
そう思っていた。
しかし、今回の訪韓で、3泊中3日とも、晩御飯の席にはジュンちゃんのお母さんがいた。
お義母さんは、僕の訪韓のだいぶ前から「あいつにおいしいものを食べさせたい」「あれもこれも食べさせたい」と張り切っていたという。
そして僕のためにおいしいお店を探していてくれたそうだ。
訪韓初日。
夜9時に空港から出来てた僕はジュンちゃんとともにソウル市内へ向かっていた。
するとジュンちゃんの携帯にお義母さんから電話が入り、「刺身が食いたいならおごってやる」と言ってきた。
あのお義母さんらしいぶっきらぼうな言い方だが、せっかくなのでご好意に甘えることにした。
お義母さんは相変わらず僕と目を合わせようとしてくれないが、「ついてこい」とばかりに海鮮料理の店に連れて行った。
そして「ホヤの刺身」と「アナゴの刺身」という世にも奇妙な珍味をご馳走してくれた。
ホヤは日本でも東北地方などで食べることがあるらしいと、漫画『美味しんぼ』に載っていた気がするが、刺身じゃなかったような・・・。
舌触りがブニュっとして、口の中でウミョっとして気持ち悪いのだが、韓国の人と同じようにやや甘めの刺身用コチュジャンについて食べると意外にイケる。
アナゴの刺身は、金属の箸で挟もうとすると、箸の間をスーっと上っていくのがおもしろい。
噛んでみるととにかく硬く、軟骨のようで、刺身の概念を根底から覆されたようだ。
味はよくわからない(刺身用のコチュジャンもつけていたので)のだが、歯ごたえが面白かった。
ちなみに韓国では「父の日」「母の日」というものがなく、両方合わせた「両親の日」というものがあるそうだ。
僕はお義母さんに日本で買ったパワーストーンのブレスレットをプレゼントした。
お義母さんが少しだけ照れたように笑ってくれた・・・・ような気がした。
この一族は、毎週日曜日に教会で顔を合わせるし、それ以外でも時々一緒に飯を食べたり、遊んだりするメンバーらしい。
とにかく絆の強い一族なのだ。
ちなみに僕の母親の一族は、上の叔父さん、下の叔父さんともに、じいちゃんの介護を拒否。
うちの両親にじいちゃんの世話を任せたまま連絡を断っている。
また、僕の父親の一族は、本家の叔父さんが一族みんなに敬遠されており、実の妹である叔母さんとマジ喧嘩をする始末。
とにかくまとまりがないというより、非常にドロドロした一族なのである。
が、ジュンちゃんの一族を見て、「家族とは本来、こうあるべきだよな」と思わずにはいられなかった。
昔は新年会もあって、一族が顔をそろえたのにね。
僕がジュンちゃんの会社近くのレストランでジュンちゃんと昼ごはんを食べていたときのことだ。
その時のメニューは僕の希望により「ジャージャー麺」になっていた。
韓国のジャージャー麺は中国から伝わった後、独特の変化を遂げたという。
また、昔は高級料理だったらしく、卒業祝い、引っ越し祝いなど、人生の節目節目で食されるものだったそうだ(現在は普通にどこでも気軽に食べられるが)。
また、僕がこのジャージャー麺を知るきっかけとなったのが、韓国の習慣を紹介するようなテレビの企画で、2月14日のバレンタインデー、3月14日の「ホワイトデー」に何も関われなかったモテない男たちが、4月14日を「ブラックデー」と称し、泣きながらジャージャー麺を食べる習慣がある、というものだ。
僕はそれを知って「いつか俺も韓国でジャージャー麺を食べねば」と思っていた。
ジャージャー麺はスープのない麺の上に甘ったるくて、とろみのついたアンカケをかけたような料理で、可もなく不可もなく、と言った感じだった。
僕がなんともパッとしないジャージャー麺を食べていると、ジュンちゃんは「そういえば、あんたが韓国に無事着いたこと、ちゃんとあんたの御母さんにメールで知らせておいたから」とのたまわった。
僕は高校を卒業以来ずっと一人暮らしだったので、いちいち両親に「○○へ行く」とか「無事着いた」なんて報告をしたことがなかった。
それを「親を心配させよって」と苦々しく思っていたジュンちゃんが母の携帯にメールで連絡していたというのだ。
よくできた人だよ、まったく。
しかしその後に出て来たジュンちゃんの言葉に僕は耳を疑った。
「そうしたら、あんたの弟から返事が来たよ。『僕と嫁もいつかお会いできるのを楽しみにしてます』って。」
ここでまたわが家の事情を説明をしなければならない。
実は僕も弟も高校を卒業後、家を出ていたのだが、お互い帰省する時期が合わず、この16年間で3回くらいしか顔を合わせていない。
94年 夏休みの帰省
06年 弟の結婚式
08年 我ら子供達が両親を招待した温泉旅行
だ。
しかも僕と弟のすごいところは、お互いがお互いに全く無関心で、これといって連絡を取ろうとしないということだ。
僕は未だに弟の現住所はおろか、携帯電話の番号すら知らない。
しかし別に喧嘩をしているとか、お互いが嫌いということでは全くない。
本当にただの無関心なのだ。
たまに帰省したときに母親から一方の情報が伝えられるだけで、そのときですら「ふ~ん」という感じで終わってしまう。
むしろ今はあまりに離れすぎていて、「何を話したらいいのかわからない」状態なのだ。
ちなみに僕と弟は自分から両親にも連絡をとろうとしない点では共通している。
(僕は不精、弟は秘密主義)
(僕は不精、弟は秘密主義)
そんな弟がジュンちゃんのメールに返信をしてきたのだからびっくり!!
なにがどうなっているのだ?
なにがどう、やつを変えたのだ?
なんだか、ジャージャー麺の味がわからなくなってきた。
3日目の夕方、僕とジュンちゃんが電車に乗っていると、またしてもお義母さんから電話が入った。
「カムジャタンをごちそうしてやる。今すぐ来い!」というものだ。
ちなみにジュンちゃんの弟・妹は頻繁に僕を食事に誘うお義母さんに対し、
「せっかく一ヶ月ぶりに二人で会ってるのに、わざわざ邪魔しに行くなよ」と諭したそうなのだが、お義母さんは聞く耳を持たず、毎晩、僕たちに飯をおごりにやってきた。
(おかげでジュンちゃんが僕に食べさせようと計画していた料理はすべておジャンになってしまった)
(おかげでジュンちゃんが僕に食べさせようと計画していた料理はすべておジャンになってしまった)
指定されたお店に行くと、お義母さん、一族の長である叔父さんとその奥さんが待ち構えていた。
この店はガイドブックには載っていないが地元では有名で、有名人の色紙がたくさん壁に張られていた。
上機嫌な叔父さんと叔母さん
僕の隣りに座りながら、相変わらず僕のほうを見ないお義母さん。
しかし、よく見ると腕には初日に僕がプレゼントしたパワーストーンのブレスレットが・・・。
そしてこの店のカンジャタンはすこぶる旨かった。
僕がまたしても我を忘れてじゃがいもと牛の骨の周りの肉にかぶりついてると、叔父さんは
「今度の夏に、お前の両親が韓国に来るだろう?俺が車を出してソウルの街を案内してやる!」
「来年、韓国で結婚式をする時にはお前のおっ父さんとおっ母さん、あと家の親族みんなで南のほうに旅行に行こう。コテージを借りるから家族毎に寝ればいい」
などと大胆な計画を立ててくるのだ。
なんというサービス精神というか、関わりあい方!
叔父さんから見たら姪っ子の旦那の両親だぞ、うちの両親は。
日本だったらほぼ付き合いはない。ましてや一緒の旅行なんて・・・。
しかし韓国では(というか、ジュンちゃんの一族の中では)”アリ”なのである。
(これを知ったら家の両親、ビビるだろうな)。
ジュンちゃんのお母さん、叔父さん、その奥さん、その子供達・・・
今までまるで関わりのなかった人たちが、僕の”家族”になる。
なんとも不思議な感覚である。
が、思ったより”悪くない”
僕は今まで好き好んで人との関わりを避けてきたつもりだが、
これだけ一族の一員として歓迎されれば、悪い気はしない。
そして僕の結婚は、僕の日本の家族すら変えようとしていた。
わが家は兄も弟も結婚し、3人兄弟の次男坊であるぼくだけが残ってしまった。
僕は両親にも申し訳なく、また兄と弟の幸せな家庭を見るのも辛く、なんとなく距離をとっていた。
しかし、韓国旅行を終え、僕が土産を持って実家に帰ると、実家には弟が僕のために買ったという雑誌『ゼクシィ』が付箋を挟んで床の間に鎮座していた。
その横にはこの夏の訪韓を楽しみにしている両親が買った韓国のガイドブック
さらに、韓国にいるジュンちゃんに見せるために、兄と兄嫁、弟と弟嫁、そしてこの4人の写真が撮られ、プリントアウトされていたのである。
今まで全く連絡をとっていなかった兄夫婦、弟夫婦が僕の結婚を喜んでくれているのである。
きっといつか、ジュンちゃんが僕の家族に加わり、
両親、兄夫婦、弟夫婦、そして僕とジュンちゃんの6人が、食卓を囲む日もくるのだろう。
僕のあきらめかけていた人生は
ジュンちゃんのおかげで、やっと人並みになれそうなのである。
とりあえず、みなさまに謝っておきたい。
*コンビニで買った栗アイス。ただの”栗味”ではなく、中に細かく砕いた栗が入っている。旨し!