1時間ほど眠ったであろうか。
まるで先ほどの情事がはるか前の出来事のように思える。
実に3ヶ月ぶりのSEXだった。
獣のように吠える女を、健二は激しく後ろから攻めたてた。
そのまま、シャワーも浴びずに寝てしまったのだ。
健二は寝ぼけた頭の中で、今、自分が置かれている状況を冷静に分析した。
今、自分はシティホテルのベッドに横たわっている。
隣に寝ているのは恋人の・・・由美香?
いや、違う。
由美香とは2ヶ月前に3年間の交際にピリオドを打ったのだ。
隣りにいる子は・・・なんだったっけな?
夕べ友達が主催したコンパで意気投合したんだ。
この子も彼氏と別れたばかりで、出身が俺と同じ奈良で・・・名前は・・・・
とにかく明るい子で、よくしゃべった。
女の子ながら、プロレスファンだったので、盛り上がったんだよ。
プロレスリング・ノアの名勝負について語り合い、三沢社長の試合中の事故死を悼み、ノアの未来について議論を交わしたんだ。
幹事の友人が「最後まで責任持てよ」なんてわけのわからないことを言ってきて、俺もわけもわからず彼女をタクシーに乗せて・・・
ああ、頭が痛い・・・
彼女の名前が思い出せない。
「み」がついてた気がするんだが・・・みゆき?みさと?みか・・・・・・なんか、違う気がする。
(おもむろに寝返りをうち、男の体にかかっている毛布をはぎとる女)
おっ!
ちょっとびっくりした・・・。
起きたのかと思った・・・。
う~む。そうか。
おれは素っ裸で寝ていたのか。
よく見りゃゴムもつけっぱなしだ。
しかし、なんだ・・・その~・・・
素っ裸で毛布をはぎとられるというのは何とも恥ずかしいものだ。
どうしたものか。引っ張り返してもいいものか・・・・
(するとおもむろにむくっと起きだし、トイレに向かう女)
ね、寝ぼけているのか?
まったくこっちのほうを気にも止めなかったぞ。
しかも起きあがってからの動きの早さと来たら・・・
なんか・・・不気味だ。
っていうか、なんだったっけ?
この子の名前・・・・・
(数秒の静寂)
「(ジョロロロロ~~~~)」
う~む。
これはまた深夜の静寂を切り裂くような豪快な小便音だ。
そういえば、元カノの由美香は小便の音を聞かれるのすら嫌がって、いつまでも二度流しをしていたな。
俺は「恋人同士なんだからそれぐらい気にするなよ!」って何度も言ったのに・・・。
由美香は「親しくなったからってデリカシーがなくなるのは嫌なの」の一点張りだった。
思えば、由美香はどんなに体を重ねても俺との間に節度を求めた。
そして俺はそれが納得できなかった。
が、今、こうして女の豪快な小便音を聞いていると・・・
俺が求めていたのは、果たしてこれだったのだろうか?
まあ、もしかしたら水を流す音で俺を起こしてしまうから気を使っているのかもしれない。
でも最終的には流すんだから同じか?
「(ジョッ、ジョワ~~~~~)」(トイレを流す音)
やばい。
女が戻ってくる。
寝たフリ、寝たフリ・・・
(男のことをまったく気にすることなく、布団に入り、再び眠り始める女)
ふう。
それにしても・・・隣に真っ裸の男が布団も掛けずにエビのように丸まって寝てるというのに・・・
ちょっと毛布をかけるくらいの気遣いがあってもいいものだろうに・・・。
ああ、腹がちょっと冷えたな。
めっちゃ屁ぇしたい。
あ、俺もトイレ行きたい。
でもあまりすぐに行くと、せっかくの寝たフリが無駄になってしまう。
彼女が寝入るまで、しばらくこのままでいなければ・・・。
(15分後)
ふう。
そろそろいいかな?
毛布かけてないのに、汗をかいてしまった。
何をやってるんだ、俺は?
さあ、トイレトイレ・・・
(トイレに入り、便座に腰を下ろす男)
いつからだろうか。
俺が座り小便をするようになったのは。
父、母、そして男三兄弟。
よって男性陣の小便で、我が家のトイレの床はいつもびちゃびちゃだった。
それを母は「男ども!トイレはもっときれいに使え!誰が掃除すると思ってるんだ!」といつも怒っていた。
が、父は「男はそういうもんなんだ!」と意に介さず、
理論派の兄は「尿道がストローのようにまん丸なら、まっすぐ小便が流れるんだけど、実際は口の部分をつぶしたゴムホースのようになってるから、物理的に不可能なんだよね」屁理屈を言い、
弟は「そうじはお母さんの仕事」などと言って母の怒りに油を注いだ。
俺だって「座り小便なんて男の恥」とずっと思っていた。
結婚したって、座り小便を求める女ならこちらから願い下げだ。
そう思っていた。
由美香に会うまでは。
女が男に座り小便を求める理由は
①「小便が床にはねるから」と
②「小便の音が不快だから」という。
母は①の理由で座り小便を求めたが、僕は②の理由で由美香に気を使った。
由美香は自分の小便の音を消すために2度流しをしていた。
だからこそ、俺も由美香に「ジョボジョボ~」という小便音を聞かれるのを恥ずかしく感じるようになった。
そしていつのまには自主的に座り小便をするようになったのだ。
以前は「条件反射でうんこが出ちまうんじゃないか?」と心配することもあったが、座り小便も慣れれば問題ない。
それどころか、小便の音はほとんどゼロにすることが可能なのだ。
小便の音を小さくする方法は二つ。
一つはなるべく低い位置から小便を放射すること。
もう一つは水がたまっている部分でなく、便器の壁の部分に小便を当てること。
立ち小便は放出の位置が高く、また水たまりの部分に小便が落ちやすいので、音が大きくなる。
その点、座り小便は放射位置が低いので、立ち小便より音が小さくて済む。
さらに、男と女の”座り小便”を比べた場合、男の座り小便の方が、圧倒的に音が小さい。
その理由は、男にはホース代わりのちんこがあり、さらにそのnちんこが前についていることによる。
つまり、同じ座り小便でも、男のほうがちんこの分、小便の放出位置を低く、ほとんど便器の接するかどうかということころまで近づけることができる。
さらにちんこ前についているので、トイレの壁を滑らすように小便を当てることができる。
これであの不快な小便の音はほとんど聞こえなくなる。
一方、女性は放射位置を便座より低くすることができず、また女性器の位置的関係で小便が水たまりに落ちてジョボジョボという音を立ててしまう。
なんとも皮肉なことではないか。
「立ち小便の音が不愉快!座ってして!」なんて言ってみたものの、いざ男に座り小便をさせてみたら、自分の音の方が大きくなってしまったのだ。
男が本気を出したら、女はあっけなく負けてしまったのだ。
もしかしたら、由美香が俺の元を離れていったのもそれが理由なのかもしれない。
だとしたら、俺はなんてデリカシーのないことをしてしまったんだろう?
あのまま立ち小便を続けていたら、由美香を傷つけることはなかった。
わざと格好悪い音を立ててやって、女性を優位に立たせてやることが、男としての優しさなんじゃないだろうか?
「ジョワ~~~」(トイレの水を流す音)
ちょっと考えごとをしていたら、結構な時間が経ってしまった。
うんこと間違われるかと思ったが、女はあいかわらず、生尻をこちらに向けたまま寝ている。
俺からはぎとった毛布もそのままだ。
しかたない。
ベッドのシーツでも体に巻いて寝るとするか。
(すると、不意に女の尻から聞こえるキュートな寝屁ぇ)
フフっ・・・・
俺はこの女とはやっていけないな、たぶん・・・。