それは『めざまし占いカウントダウン・ハイパー』で、僕の星座が最下位になった不吉な朝であった。
もちろん、あんなものを100%信じるわけではないけれど、それでも最下位はいい気持ちがしない。
これで何かアンラッキーなことがあれば、「やっぱりな」となるし、「今日はまだ何か悪いことが起きるんじゃないか・・・」と不安にもなる。
その日は、自分でもびっくりするぐらい不運が続いた。
これで7分のロスである。
朝の7分は結構痛い。
駅まで早足で歩き、いつもと同じ車両に乗り込もうとすると、「なんで!?」というくらいその日は人が多い。
いつもの数本後の電車というだけで、こんなにも違うものか!?
一瞬迷いつつも、後ろからの圧力で満員電車へ押し込まれた。
いつもなら携帯でメールを打ったり、文庫本を読んだりもできたのだが、吊革も持てず、両手をあげることもできない。
むむむ・・・今日はまだまだ何かありそうな・・・。

8:00
駅を出て、朝飯を買おうとセブン-イレブンに入る。
お気に入りの「アジの干物ご飯」を手に取り、レジに並ぶ。
そしてかばんの中から財布を取り出そうと、ごそごそまさぐったが、財布が見つからない。
「あれ?うそ?」
少し焦って、もう少し詳しくかばんの中を調べてみたが、やっぱりない。
「・・・・ははは、少し待ってくださいね。」
「ええ、大丈夫ですよ・・・」
という店員の視線は僕の後ろに並ぶ行列に注がれている。
確かSUICAはセブンじゃ使えないよな。
携帯もおサイフ機能付いてないし・・・
そこで僕は奥の手を使うことにした。
こういう時のために、ミスター小心者の僕はすべてのかばんに現金をいくらか忍ばせてあるのだ。
自分でも全部でどれくらい隠しているか忘れてしまったが、部屋中のかばんにある隠し金をかき集めれば、数日は生き延びられるだろう。
僕はかばんのポケットに小さく折り畳まれたボロボロの五千円札を取り出して払い、お釣りの小銭をポケットに入れた。
そして小銭をジャラジャラ鳴らしながら「そういえば、昨日はほかの鞄で出かけたんだよな・・・。そうか、財布はあの鞄の中だ・・・」と後悔を始めたのである。

その後も仕事は、滞りなく進んでいたように見えた。
しかし、コピー機の調子が悪かったり、エアコンが利きすぎて暑かったり、トイレのうんこが流されていなかったりしただけで、「今日は運勢が悪いからだ」と思うようになった。
そして4時半、休憩のために入ったロッテリアでその出来事は起こったのだ。
僕はカフェラテなんていう小洒落たものを頼みながら、彼女へのメールを書いていた。
ちなみに僕の携帯のメールは最近「ち」という言葉を入力すると次の候補に挙がるのが「ちんこ」、その次が「乳首」、さらに「チュー」「ちんちん」と続く。
一体、どんなメールを送ってきたんだと我ながら情けなくなるが、これだけは人に見られたくない。
しかしロッテリアは座席と座席の間が狭い。
隣のテーブルの、いかにも仕事が充実してそうな、自信が顔にみなぎっている中堅サラリーマン達には決してみられたくないな。
そう思いながらこそこそメールを打っていると、隣の男が「さて、行くか!またバリバリ働くぜ!」という感じで颯爽と立ち上がり、ソファーに置いてあったコートを”ぶわっと”翻し、羽織ると同時に僕のカプチーノをこぼしたのである。
僕は突然の出来事に狼狽した。
が、そのサラリーマンは特に悪びれる様子もなく
「ああ、すみません。それ、いくらでした?」と聴いてきたのである。
「(そ、それいくらでした?だとぉ~~!!)」と思いながらも口から出てきた言葉は
「ああ、大丈夫です」だった・・・・・。

でも本当は全然、大丈夫じゃない。
僕のカプチーノはめっさスーツのズボンにかかっていた・・・・。
サラリーマンが階段を降りていった後、紙ナプキンで拭き取ろうと思い、ゴミ箱の上にあるナプキンを何枚か取ろうとおもったらこれまたものの見事に品切れ、
仕方なくハンカチで拭き取りながら、僕はその瞬間のできごとを反芻していた。
「それ、いくらでした?」だとぉ~~
そんなこと言われたらいくらって言えばいいんだ!
そもそも「それ」って何のことだ!!
スーツなら39800円だよ!
クリーニングなら1200円くらいだよ!
カプチーノなら200円だよ!
貴様は何を弁償するつもりだったんだ!!
カプチーノ200円を弁償してもらってもズボンの汚れは落ちないぞ!
それとも何か?
「その安物スーツぐらい、現金で弁償できまずよ」ってことか?
それはそれでムカつくんだよ!!
というか、スーツに飲み物こぼされて弁償するシーンなんて漫画かドラマでしか見たことないから
実際、自分の身に降り懸かってきてパニックになったっつーの!!
しかも「クリーニング代1200円!」とかいうのも恥ずかしいっつーの!
「スーツ代4万円」なんていうのもヤクザっぽいっつーの!!
僕はあまりに小市民で、日本人な自分に嫌気がさしてしまった・・・・・

ちなみに、僕の彼女は純粋な韓国人
彼女に事の顛末を話すと・・・
「もったいない。お金もらえば良かったのに・・・」
「あたしだったら普通にお金もらう」
とのことでした。
クロッスムニカ~