地下鉄三田線のドアが開く
僕は勢いよく乗り込み、反対側のドアの前に立つ。
降りる駅は二駅先。ちょうど、こちら側のドアが開くので、僕が一番先に降りられるという寸法だ。
やるね、僕ちゃん。この段取り屋さん!
この駅は、それほど人が乗り込むわけではない。
ま、他の人と接触しないぐらいの、ちょうどいい感じの込み具合だ。
「あ~、今日も一日終わった。お疲れさん、オレ・・・」
と自分をねぎらいつつ、電車の中ですでにネクタイをはずしてしまう。
ふと右を見ると、小太りのおっさん(といっても30代半ばくらい。もしかしたら年下かも?)が、ニンテンドーDSに夢中になっている。
なにやらちっちゃいペンで画面をコツコツ叩いている。
「お~お~、ご苦労さんだね~」
そう思いながら、左を見れば、これまた眼鏡デブのサラリーマンが、PSPに夢中。
左手で十字のボタン、右手で丸ボタンをせわしなく押して、熱中している。
さらに右後方を振り向くと、細身のメガネスーツ君が、こちらもDSliteの画面に釘付け
まさかと思って左後方を見ると、こちらはi-phoneを右に傾けたり左に傾けたりと、これまた何かのゲームをしている模様。
そう、僕は携帯ゲーム機に夢中なサラリーマンに囲まれていたのだ。
それを自覚した瞬間、僕は
「は、恥ずかしい・・・」と思った。
思い起こせば15年ほど前。
僕が小学生のときに、初代ファミコンが発売された。
あの、白と赤の土台のやつだ。
当時の小学生はファミコンに夢中になった。
お年玉や誕生日プレゼントにファミコンのソフトをねだった。
ファミコンの攻略本なども飛ぶように売れた。
あまりにゲームに夢中になるもんだから、「ゲームは一日一時間まで」というのが
当時の家庭での標準的なルールだった。
ちなみに、わが家はファミコンがなかった。
男三人兄弟だから、一台くらいあってもよさそうなものなのに、なぜかファミコンがなかった。
ただ当時は、それほどゲームをしたいとも思わなかった。
もちろん、友だちが学校でゲームの話をしていても話に入れないので、うらやましく思うときもあったが、それでも当時の僕は外で野球をやるほうが好きだったので、別段不自由はしなかった。
でも、当然のごとく、僕はゲームを始めてもすぐに負けてしまう。
友だちは自分のうちのゲームなので、10分も20分も続けてしまう。
見ていても面白くないので、そのうち飽きて黙ってうちに帰うことがよくあった。
あの頃からだろうか?
自分に興味のないことに、我慢して付き合うことを止めたのは。
おかげで大人になって大変苦労をしているのだが。
ゲーム業界は発展を続けるのだが、わが家はみな部活動と受験勉強で忙しかったので、ゲームは不要であった。
唯一、「全日本プロレス」のゲームが出たときだけは、買いたくて仕方がなかった。
大のプロレスファンの僕にとって、プロレスゲームだけはすごくやりたくてしかたがなかったのだが、
「大学に合格して、一人暮らしをはじめたら自分で買おう!」
そう思って我慢した。
で、1年浪人した後、晴れて大学生になったのだが、なぜかゲーム機を買うことはなかった。
アルバイトもしていたので、ゲーム機くらい自分で買えたのだが、
アルバイト代で最初に買ったのはゲームではなくビデオデッキで、その後はご想像の通り、アダルトビデオの甘美な世界にはまってしまった。
社会人になってからは、「大人買い」なんてことができるようになったし、
携帯ゲーム機くらい持っていても邪魔にはならないのだが、それでも僕はゲームを始めなかった。
別に、ゲームが嫌いなわけではない。
「ゲームがあったらな~」と思うことは多々あるし、
最近は「脳トレ」みたいな自分に役立つソフトで、やってみたいものも多い。
「ゲームにはまる自分が怖い」「時間を無駄にする自分が嫌」というのもあるが、
正直言うと、「ゲームをはじめる強いきっかけがなかった」というのが一番の理由
僕はタバコも吸わないが、これも本当にたまたま。
学生時代も今も、たばこを吸う友達、たばこを勧めてくる友達がいなかっただけ。
同じように、ゲームもなんとなくやらないまま、今日まで来てしまった。
(ついでに、AVにはまったまま今日まで来てしまったのは偶然か?必然か?)
僕は今、都営地下鉄三田線に乗っている。
そして、携帯ゲームに夢中になっているサラリーマンに囲まれている。
彼らはそれぞれ全くの他人であるが、みな同じようにゲームの画面に釘付け。
そして、熱心に、一心不乱に指を動かしている。
ゲームをやらない僕は、ちょっと冷めた目で彼らを見ている。
そしていかにも日本人らしい彼らに囲まれて、ちょっと「恥ずかしい」気分になっている。
僕が外人さんなら「Oh~,crazy!!.What a Japanese!!」なんて驚いたり、冷ややかな視線を浴びせたり、見下したり、気味悪がったりできるのだが、
同じ日本人の僕としては、この中に立っているのがちょっと「恥ずかしい」
なんだろう?
これまで、黙々と携帯電話をいじる乗客が一番不気味だと思っていたが、
なんか、ゲームをしている大人のほうがきつい!
漫画を読んでいる大人の方がやや健全に見える。
だって、ゲームって・・・・まさに・・・ゲームなんだもん。
携帯電話はメールやネットがメインだから特に幼稚さは感じないが、
DSやPSPは見た目がそのまんまゲーム機だし、
夢中になってる時の目が怖いんだもん。
特にシューティングゲームで、必死にボタンを押してる姿がマジなんだもん。
「ああ、早く駅に着かないかな・・・」
プッシュ~
あ、着いた。
すると、僕の周りのゲーム君達は
ある者はものすごいスピードでゲームをかばんにしまい込んで、
ある者は両手でゲームを握り締めたまま
ある者はゲームを続行したまま、僕を後ろから押してくるのであった・・・
だから、オメーら怖ぇ~よ・・・