俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

愚痴聞き屋

ここ最近、”愚痴聞き屋”なるビジネスが登場したのをご存じでしょうか。

”愚痴聞き屋”

その名の通り、お金をもらって他人の愚痴を聞く商売だそうで、こんなものが商売になるなんてエラい世の中になったものだと思います。

確かに仕事のストレスですとか、人間関係でフラストレーションなんてものもたまるんでしょうな。

だれかに愚痴の一つも聞いてもらいたい。

仕事の愚痴を同僚に話そうにもその同僚が愚痴の原因だったりして、

しかたなくうちに帰ってカミさんにでも愚痴を聞いてもらおうなんて思ったらカミさんがまた「冬のコート買ってぇ~」なんて言ってきて別のストレスになりかねない。

「わかったわかった。わかったから今日は俺の話を・・・」なんて始めようと思ったら

「ホント?嬉しいわ~~。だってお隣の奥さんなんて今年2着も買ってもらったっていうのよ~。私は別に構わないんだけど、奥様同士でも意地の張り合いみたいになっちゃって、ご近所関係も大変なのよ~。だからあたしもね、ちょっとパートにでも出てみようかと思って。そうしたら自分のほしいものが買えるでしょう?・・・ねえ?あなた?聞いてるの?ねえったら!私が真剣に話してるのに!」

「ああ、聞いてる聞いてるよ」

「もう!妻の話を聞くのは夫の務めでしょう?ああ、そうそう、それから今日は出かけるから、あと一人でご飯食べてよ!」

「ああ、わかったわかった。どこへでも行きやがれ。今日は書斎でちょいと調べものをしなきゃいけないから」

「まったく!あんたの耳は何のためについてるのよ!あたしの話を聞くためでしょう!?」

「ああ、そうだな、じゃあ、明日だ明日。早く行っちまいな、ったく・・・」

(書斎にて)

「まったく参っちゃうよ。愚痴を聞いてもらおうと思ったら逆に聞くことになっちゃうんだから。なに?ご近所付き合いだぁ?そんなの俺の仕事つき合いに比べたら大したこたぁねえや。

パートだぁ?楽な仕事ばっかりしやがって。

こちとら基本12時間労働だよ。

まったく俺の苦労なんて誰もわかっちゃくれない。

本当に俺に温かく接してくれるのは便座だけだよ。

かといって便座に愚痴を聞いてもらうわけにもいかないからな。

”しっかりしろ!”ってお湯かけられちゃうよ。ピューって。

ああ、そういえば、経理の田中君がおもしれーこと言ってたな。

”最近、愚痴聞き屋ってのがあるんですよ?”だって。

田中のヤロー、後輩のくせに俺より早く昇進しやがって。

オメーが一番ストレスだっつーの。

でも愚痴聞き屋なんて世も末だね。(ネットで検索し始める)

こんなのが仕事になるなんてさ。

儲かるのかね?

なになに、・・・30分○千円?

うそだろ?・・・・テレクラの間違いじゃないの!?

話聞いてくれるだけだろう?

まったくもう・・・

お~い!ちょっとお茶持ってきておくれでないかい!

(反応がない)

あのやろ~・・・本当に出かけやがったな。近所のババアが集まってカラオケ大会か?ふざけやがって!もう怒ったよ。こうなったらね、こうなったらね・・・」




「はい、愚痴聞き屋です」

「ああ、愚痴聞き屋さん?ちょいとあんた、聞いておくれよ~~」

「あ、はい。ご利用前に当システムのご説明させていただきます」

「ああ、いい、いい。金なら払うから。今はとにかく、一刻も早く話を聞いてもらいてーんだ。」

「あ、さ、さようですか。このたびは何か・・・」

「そうそう、ちょっと聞いておくれ・・・」

「え?そんなことが!?」

「まだ何も言ってないよ。あんたも気が早いね」

「そんな奥さんなら別れた方がいいですよ」

「だからまだ何も言ってないって!」

「大丈夫。来年、蠍座は当たり年だから。」

「だから、まだ何も言ってないだろ!しかもあたしゃ水瓶座だよ」

「今のうち、あのスナックの女とは手を切ったほうがいいですよ!やつはね、セックスでイきそうになると肩に噛みつきますよ」

「だから誰なんだよそれは!勝手に話を作るな!おまえ、本当に愚痴聞き屋か?」

「すみません。私、今日が初日なもので」

「なんだ新人さんかい。まあ、いいや黙って聞いてくれればいいから」

「・・・」

「わかった?」

「・・・」

「おい、返事くらいしろよ!」

「(プッシュ音)」

「だから!相づちぐらいは打てよ」

「ああ、いいんですか?」

「当たり前だよ」

「今日はどのようなお悩みで?」

「いやね・・・そうだな。あの、経理の田中ってのがいるんだけどね」

マー君?」

「知り合いみたいに言うなや。で、そいつが後輩のくせに出世が早くてね」

「ああ、そういうやついますよね」

「だろ?生意気に!」

「後輩にどんどん抜かれて愚痴ばっかり言うやつね」

「俺のことかい!そうじゃねえよ。あんたは俺の味方になってくれなきゃ」

「失礼しました。初日なもので」

「初日って、マニュアルぐらい読んでるだろうに・・・あんたも金取ってるんだからちゃんとやってもらわないと」

「まあ、時給800円ですから」

「800円か。不景気だな」

「でしょう?こんなストレスのたまる仕事で800円って!」

「まあ、あんたはまだ初日だからストレスもたまってないだろうけど」

「あたしだってストレスぐらいありますよ。亭主の給料が安くて働かなきゃならないんだから」

「まあ、まあ、そういうこともあるわな」

「ね~?やってられないわよ。うちでも亭主の愚痴聞いて、外でも他人の愚痴聞いて」

「まあ、でも自分でその仕事を選んだんだから」

「それだけじゃないわよ。近所づきあいだなんだ言っていい年したババアが見栄の張り合いをやって!そんなのにつきあわされる身にもなってよ!」

「ああ、女同士ってのは面倒くさいからな」

「おまけに亭主は役立たず!家事も手伝わないし妻の話も聞かない。おまけにちんこも立ちゃあしない!」

「いやまあ、でも旦那さんも外でがんばってるんだし、きっとあんたのこと、心の中では感謝してるよ」

「そうかしら?」

「ああ、そうだとも」

「そうよね?」

「そうですよ」

「そうよね。きっとそうよ」

「そうそう。そうだよ」

「ありがとうございます。おかげで少しすっとしました。」

「そうかい。そりゃ良かった」

「本来なら私が愚痴を聞かなきゃいけないのに・・・」

「う、うん、まあ、いいって事よ・・・」



次の日、男がオフィスで弁当箱を開けると、ご飯の上にはハートマークの海苔がのっていましたとさ・・・