このクソ暑いさなかに風邪を引いてしまった。
エアコンのせいなのか扇風機のせいなのかわからないが
夏の風邪はタチが悪い。
体を温めようにも暑くて温められないし
風邪には良くないと思いつつ、シャワーもじゃんじゃん浴び、エアコンもガンガンかけ、扇風機で体を冷やさなければやっていられない。
結局市販の薬を飲んでも1週間治らず、僕は病院に行くことにした。
ちょうど午後に暇な時間ができたので、仕事場から一番近い内科に行ったのだが、半年くらい前に一度行ったときには面食らった。
なんせ、診察時間2分
簡単に問診して、喉を診ておしまい。
僕がちょっと大げさに「せきとくしゃみと鼻水と痰と熱と下痢と倦怠感が・・・・」などと訴えると、そのまま疑いもせずにカルテに書き込み、喉だけを診て薬を出したのであう。
まあ、今回の風邪はほぼ治りかけ。
このまま市販の風邪薬を飲んでいても2~3日もすれば治ると思うのだが、こじらせても悪いので一応、診てもらうことにしたのだ。
財布の中にかろうじて半年前の診察券が入っている。
午後の検診は2時から6時
2時ちょっと前には病院に行って、午後一には診てもらいたいと思っていたのだが、昼食後に少し仕事をしたら時刻はもう2時すぎ
結局病院に着いたのは2時を30分ほど過ぎたころだった。
この時間帯ともなると、病院の待合室は妙齢の婆様たちのたまり場になっているんだよな~と思いつつ、病院のドアを開けると、なんと患者は一人もいない。
一瞬、「あれ?今日の午後は休診か?」とも思ったが、受付のお姉ちゃんは「こんにちわ~」なんて明るい声で言ってるし、診察室の中にはどうやら一人、診てもらっているようだ。
僕は診察券と保険証を提出し、待合室のいすに腰掛けた。
なんか、こうなるとちょっと申し訳ない気がするのが僕という男である。
僕は正直、風邪は治りかけている。
それほど症状は重くない。
だからできればさっと診てもらって、さっと帰りたかった。
が、病院はガラガラなのである。
受付の姉ちゃんも暇そうなのである。
困ったな・・・と思っていると、ちょっと喉がカラカラしてきた。
バッグにはのど飴もペットボトルの水も入っている。
この一週間は喉を乾燥させないように、喉がカラカラしてきたらすぐのど飴をなめるか、水で喉を湿らしてきた。
が、今日はせめて診察前だけはちょっとだけ症状がほしい。
喉もちょっとでいいから赤くなっていてほしい。
そこでのど飴も水も、どちらにも手をつけずに我慢してると、いい感じに「ゴホッ、ゴホッ」と咳が出た。
「う、ううん!」と痰を無理矢理喉元に押し上げてみると、意外にちゃんと喉元に存在してくれる。
これなら医者も「ま、軽い風邪ですね」ぐらいは言ってくれるだろう。
ま、それは自分でもわかっているのだけれども・・・
それにしても、この病院、まったく患者が来ない。
午後の病院のガランとした待合室には静かなクラシック音楽が流れていて、気を抜くと深い眠りの淵に陥ってしまう。
このまま2時間くらい寝ていたい気もするが、いつ名前を呼ばれるかわからない。
熱も計らなければならないだろうし、診察前に問診票に自分で症状やら常備薬やらアレルギーなんかを書き込まねばなるまい。
僕が必死で眠気と戦っていると、診察室から「ありがとうございます」という声が聞こえ、60代くらいのスウェットのおばさんが出てきて、僕の方を一瞥し、そして僕の隣に腰を下ろした。
順当にいけば僕の番なのだが、僕はまだ熱も計っていないし、問診表も書いていない。
このまま診察室に入って
「今朝、体温を測りましたか?」なんて聞かれても、測ってないものは答えられない。
医者「あれ?待合室で測らなかった?」
患者「ええ、なにも言われなかったので」
医者「そういう時は自分から言わなきゃ」
患者「あ、はい、すみません・・・」
なんてやりとりになるのかしら?
面倒だな。自分から受付の姉ちゃんに言うべきだろうか?
でもふつう、受付の人が「今日、お熱測りましたか?」って聞くよな?
忘れたのかな?そうすると後で僕を挟んで
医者「君!診察前に患者さんに熱を測ってもらわないとだめじゃないか!」
受付「あ!すみません、先生!」
医者「まったく、君はなにをやっているんだ!」
受付「すみません!許してください!」
医者「いや、許すわけにはいかない!」
受付「嫌!先生!ヤメて!」
医者「君にはお注射が必要だな」
受付「いやん!太いん!しかも熱い!」
医者「ふふふふふ!どうだ私の特大注射は!」
受付「先生!激しい!」
医者「ようし!今、ラブ注入してやるぞ!」
受付「あ!Yamazyさん!」
僕「ん?」
受付「Yamazyさん、どうぞ~~~~」
はっ!
気づくと僕の名前が呼ばれていた。
結局、熱も計らず、問診表も書かずに僕は診察室に入った。
医者「はい、今日はどうしました?」
僕「あ、あの・・・寝冷えをしたみたいで・・・鼻水と痰が・・・」
医者「熱は?」
僕「あ、あの・・・・大丈夫です」
医者「じゃあ、ちょっと喉を診てみましょう。口を開けて・・・。ああ、奥のほうがちょっと赤くなってますね。じゃあ、タンが切れる薬、鼻炎の薬、それと、抗生物質と胃薬も出しておきましょうね」
僕「はあ・・・・どうも・・・」
診察時間・・・・・・・・・1分・・・・・。
(というか、実際は喉を診た3秒ほど)
(というか、実際は喉を診た3秒ほど)
聴診器で心臓の音を聞くこともなく、僕の自己申告と喉の具合だけですべてを判断するこの医者
よっぽどの達人か、ものすごいインチキかどちらかだな。
または喉の調子だけですべての病気を言い当てる「喉占い」の権威なのかもしれない。
ま、僕はほんとうに軽い風邪なので別にいいんだけど、嘘でもいいから聴診器くらい当ててほしかったな・・・
結局1分間の診察で1070円取られた。
時給で換算すると6万4200円である。
1日8時間、月20日働いたとしたら月給約130万円
年収1500万円ってところか?
医者とはいい仕事だな、と一瞬思ったが、
僕が会計を済ませると省エネで照明を落とした薄暗い待合室は見事に人がいなくなり、静かなクラシック音楽だけが軽快に流れているのである。
病院を出て、近くの薬局へ向かう。
結局、あのヤブ医者(言っちゃった・・・・)は6種類もの薬を6日分も処方してくれた。
治りかけの風邪なのに6日分って!!
引き立ての風邪でも普通は3日分くらいしか処方してくれないこのご時世に、気前がいいねぇ!!
僕の自己申告と3秒間 喉を診ただけでよくもこれだけの量の薬をこの治りかけ寝冷えおじさんに(つまり僕)に処方したものである。
薬局の人がうれしそうにたくさんの薬を出してきた。
こちらの商売もなかなかいいものだ。
が、薬に関しては日本人はむしろ、ある程度出さなければ安心しない性質らしく、薬がたくさん出ると「ほら!私って、やっぱり病気なのよ!やっぱり無理はできないわ!みんなも私に気を使ってよ!」とうれしくなるらしい。
ちなみに、繰り返しになるが僕の風邪はほぼ治りかけなのである。
おそらくこの6種類の薬を3日も飲み続ければ間違いなく治るだろう。(残り3日分はもったいないが)
この医者や薬局にかかって症状をこじらせることはあるまい。
ということは、また性懲りもなく、時間がないときは職場に一番近いこの病院に来る可能性が高いのだ。
やはり医者はいい仕事だ。
その晩、日高屋で夕食を取った後、薬局でもらった薬を取り出した。
6種類、6日分の薬は結構な量で、これだけみたら僕は生まれつきの虚弱で、死の病を抱えているかわいそうな子のようにも見える。
隣りで「野菜たっぷりタンメン」を食べていた客が僕の薬の量を見てギョッとしていた。