俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

床屋にて

それは昨日のこと

僕は仕事帰りに近所の床屋へ行っていた。

この店は、カットとカラーを入れても4000円。割引券を遣えば3800円と割安なので4月から利用している床屋だ。

僕は元来、短い髪が好きなのだが妻が伸ばせというのでこの2年ぐらいは少し伸ばしていた。

が、さすがに夏は暑かろうと、夏の間だけ短髪でもよいというお許しをもらっていたのだ。

僕は嬉しくなって先月からソフトモヒっぽい髪型にしてたのだが、これがまた涼しいし、手入れは楽だし、髪を洗ってもすぐ乾くし、いいことだらけ。

鏡を見ても「これは完全にベッカムだな・・・」とニヤニヤが止まらないのだが

妻からみると「小堺一機みたい・・・」ということらしい。

センスがない・・・

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さて、僕は床屋にてすでにカットを終え、白髪をごまかすためにカラー液も塗りたくっていた。

あとはこのカラーが染み込むまで30分ほど置いておかなければならない。

ここの床屋は割安な分、雑誌やコーヒーを出してくれるといったことはしてくれない。

僕はあらかじめポケットに用意しておいたiphoneを取り出し、暇つぶしに見ていると、

隣りの席に年のころ30代後半、長身でやせ形の男が腰を下ろした。


店の親父が「今日はどうしましょう?」と愛想よく尋ねると、その男は

「なんか・・・・この顔に合う髪型って・・・できますか?」と尋ねた。

僕は他人事ながら、「厄介な注文するなぁ・・・」と床屋の親父に同情した。

親父は一瞬戸惑ったあとに、「え、ええ、できますよ」と答えた。

明らかに動揺していた。

だって、ここは東京のおしゃれな美容室ではないし、担当するのも”カリスマ”なんて言葉すら知らないような床屋の親父だもの。

それは無理な注文ってものよ。


床屋「お客さんですと・・・・どのヘアースタイルも大体お似合いなんですが・・・」

客「そ、そうですか?お世辞じゃなく?」

床屋「え、ええ・・・」


それはそれは何とも不毛なやりとりだった。

が、親父は目の前の鏡の横に張られている髪型モデルの中のどれかを指さし

「あれなんかお似合いかと・・・」と話を振ると、客は案外あっさり「あ、じゃあ、それで」と納得してくれ、親父は安心して仕事に取り掛かることができた。

その男は明日、初めてのデートかコンパでもあるのかもしれない。

しかも、普段は髪型やファッションには無頓着なのかもしれない。

だからこそ、床屋ごときに無茶なリクエストをしてしまったのだ。


僕は聞き耳を立てながら、「もし、自分が床屋だったらどうするか・・・」なんてことを考えていた。


僕「はい、いらっしゃい。今日はどうしますか?」

客「そうだな。なんか、流行りのやつで」

僕「わかりました!”石川遼ヘア”入ります!」

客「ちょ、ちょっと待った!」

僕「はい?何か?」

客「石川遼って、まさかあれ?」

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僕「ははは。まさか。あれはさすがにお客さんにはおすすめできませんからね。」

客「ああ、そうですよね。さすがにあれは・・・」

僕「さすがにあれはね~、職場でもちょっと・・・・・・ですよね?」

客「ええ、まあ」

僕「ですから、その前のやつです」

客「いや、あれも職場では・・・・・」

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僕「いや、でもあの髪型、今安いんですよ」

客「安くてもちょっと・・・」

僕「今、ちょっとうちに見習いがいまして、カットモデルをしていただければ、半額で・・・」

客「見習いですか?でも失敗したら・・・」

僕「大丈夫!失敗しても、あの髪型だったらわかりませんよ!完成型も失敗作みたいなもんですから!」

客「お断りします」

僕「そうですか。じゃあ、ジャンボ尾崎ヘアなんてどうでしょう?」

客「だからなんでゴルフつながり!!流行ってないでしょう?」

僕「いや、これが結構流行ってるんですよ。プロレスラーの天山とか・・・」

客「本人が流行ってねーっつーの!」

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客「もういいです。えっと・・・じゃあ、桜井翔みたいな髪型にしてください」

僕「桜井君?嵐の?」

客「そうそう」

僕「わかりました。シャンプーは?」

客「お願いします?」

僕「リンスは?」

客「・・・ええ」

僕「コンディショナーは?」

客「それ、全部一緒じゃないんですか?」

僕「ああ、一緒のやつもありますよ。”チャン・リン・シャン”とか?」

客「古っ!まあ、とにかくお願いします」

僕「顔そりなんてどうしますか?」

客「ええ、お願いします」

僕「耳そりもありますよ?」

客「ああ、じゃあそれも」

僕「ちょっと耳なくなっちゃうんで聞き取りづらくなりますけど、痛かったら手を挙げて教えてくださいね」

客「いやいやいや。やめて。耳はいいです」

僕「眉の下も剃っていいですか?」

客「・・・・ええ」

僕「眉の上もいいですか?」

客「上・・・・あの、本当に整える程度に・・・」

僕「わかりました。ついでに中も剃りますね」

客「待って待って、やっぱりいいです」

僕「マッサージはどうしますか?」

客「いや、結構です」

僕「気持ちいところあったら言ってくださいね~」

客「いや、だから結構ですって。なんか卑猥だし・・・・」

僕「じゃあ、カットします。かゆいところありませんか?」

客「ええ、しいて言えば、襟元がチクチクして・・・・ちゃんとシートをかけてから切ってもらえます?」

僕「はい、じゃあ襟足と耳元剃っていきます。あ、もみあげはジャンボ尾崎にしていいですか?」

客「・・・ええ、もう好きにしてください」

僕「かゆいところはありませんか?」

客「・・・耳に息を吹きかけるのやめてください。こそばゆいです」

僕「では顔を剃りま~す。かゆいところありませんか?」

客「(ヒゲ剃りながら答えられるわけねーだろ・・・)」

僕「あれ?かゆいところありませんか?おかしいな?さっき素手で山芋下ろしたのに・・・」

客「・・・・・・・」

僕「じゃあ、頭を洗いま~す」

客「・・・・・・・・」

僕「・・・・・・・・」

客「・・・・・・・・」

僕「はい、お疲れ様でした」

客「・・・・・・・・」

僕「ドライヤーで髪乾かしま~す。かゆいところありませんか?」

客「さっき聞けや!なんで今聞くんだよ!」

僕「できあがり、いかがでしょう?桜井翔っぽく・・・」

客「なってるけども!!!」

僕「最新型です」

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