俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

未熟者

それは昨日のことである。

僕は平日だというのに仕事がなくて、うちでダラダラとYoutubeなどを見ていた。

Superflyの『愛を込めて花束を』を聴いて涙し、いっこく堂の腹話術に感動し、グレートムタの登場シーンに震えながら、嫁がパートから帰ってくるのを待っていた。

嫁は近所のスーパーでパートをすることが最近決まり、今日は13時まで仕事なのだ。

僕はそれまでお預けを食らっているのだ。


すると1時を少し過ぎた頃に嫁から電話があり、「仕事が終わったら買い物をするからうちのスーパーに来るように」との指示を受けた。

僕は本日、仕事のない夫なのでおとなしく嫁に従うしかない。

荷物持ちでもせねば、昼飯をあてがってもらうことができないのだ。

僕はボサボサの頭、無精ひげ、だらしないスウェットに帽子だけかぶって外に出た。


スーパーへは徒歩5分。

だが、朝からダラダラしていたので、ちょっと歩くだけで力が抜ける。

スーパーへ着くと、嫁は着替えでもしているのか、店内に姿は見えない。

僕はスーパーの前のベンチでスマホをいじりながら時間をつぶす。

それにしても・・・

”平日の昼間に、スーパーの前のベンチに腰かけてスマホをいじるスウェットで無精ひげの男”

人はこの男を何者と見るだろうか・・・。

我ながら情けないし、僕が同じようなおっさんを見たら、便所バエを見るような軽蔑した目つきで見るような気がする。

そして心の中で「社会の役に立たないクズめ!死ね!」ぐらい言ったかもしれない。

でも、今、まさに自分がそれなのだ。


苦々しい気持ちで待つこと5分。

嫁が「ごめんごめん」と言いながら現れた。

僕はややふてくれされたような態度で立ち上がり、「遅いよ~」と不満を垂れた。

すると嫁は、すぐ後ろに歩いていた小柄の女性を指し「あ、こちら同じパート仲間のAさん」と紹介し始めた。

「あっ!・・・・・」

Aさんのことは前から嫁に聞いていた。

同じ時期にスーパーのパートに採用され、ずっと一緒に研修を受けていた人だ。

40代後半~50代前半の女性で、うちの嫁におにぎりを作ってくれたりしたという。

つまり、嫁がとてもお世話になっている人なのだ。


僕はとっさに頭をさげ、「あ、ど、どうも・・・」とあいさつをした。

嫁はうれしそうに僕の手をつないできたが、僕はそれを振り払った。

Aさんは「いつもお世話になっております」と丁寧に頭を下げたので、僕もつられて頭を下げた。


Aさんは「じゃ、失礼します。」「じゃ、また明日ね」と僕と嫁にあいさつをし、去って行った。

そして僕らはスーパーに入って買い物を始めたのだが、僕は心ここにあらずだった・・・。



僕はさっき、生まれて初めて「嫁のパート仲間にあいさつする」というシチュエーションを体験したのだ。

が、明らかに僕のあいさつは失敗だった。

Aさんと妻は、同じパート仲間として家族のことも話していただろう。

嫁が僕のことをどう紹介したか知らないが、まあ普通の日本人男性という感じでとらえていただろう。


で、会ってみたら平日の昼間からだらしない格好と無精ひげのおっさんで、ろくにあいさつもできない男だったのである。

僕はもしかしたら嫁の面目もつぶしてしまったかもしれないのである。

やはりここはちゃんとスーツとビジネス鞄で現れて

「あ、これはどうも。いつも妻が大変お世話になっております」と、さわやかな笑顔であいさつをするのが筋だった。

そして「これからも妻をよろしくお願いします」と丁寧にあいさつをするのが”さわやかな夫”には必要だった・・・。

そうすれば妻も次にAさんに会ったときに「ご主人、素敵な方ね~~」と言われ、鼻高々になり

しいては今晩のおかずが僕の大好物のから揚げになるはずだったのだ。

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僕は38歳にもなって、ちゃんとしたあいさつもできなかったのだ。

まあ、これまで36年以上、「人付き合いの苦手な」「電話もろくにとれない」「一般常識も知らない」「非常識な」男だったし、

いきなり嫁に仕事仲間を紹介されるとは思っていなかったのでしょうがないといえばしょうがない。

が、Aさんにしたら、同じ日本人で、しかも40近いおっさんがちゃんとあいさつもできないなんて・・・

と思ったことだろう。


ちなみに嫁は韓国人だ。

日本語がペラペラとはいえ、細かいところで日本の習慣と違う面を見せる。

たとえばさっき僕にAさんを紹介する際、無意識に僕と手をつなごうとした。

韓国ではみなそうなのかどうかはわからないが、妻の頭の中では「夫婦仲がいいところを見せる」のは普通のことなのだ。

また、欧米でもそのようにするということを聞いたことがある。

夫は妻の肩を抱きながら、笑顔で自分の友だち、親類、パーティー客などに紹介する。

外国の大統領が日本に来て飛行機から降りるときも、たいてい奥さんと手をつないで降りてくる。


が、日本で、しかも40近いおっさんがそれをするのは、やや常識はずれ(もしくは西洋かぶれ)だ。

家族や知り合いの前ではイチャイチャしない。

これが日本では常識。

昔、安倍首相や鳩山首相が外国の大統領の真似をして奥さんと手をつないでいたが、やはり多くの日本人にはやや違和感を感じる光景だった。

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僕は反射的に嫁の手を振り払ってしまったが、嫁にとってはショックだったかもしれない。

が、やはり「バカップル」「非常識夫婦」とは言われたくない。


さらにもしこれから子供が生まれでもしたらさらに

「○○ちゃんのお父さん」みたいな見られ方もされるだろう。


こういうときに「○○さんのご主人、素敵ね~」「○○ちゃんのお父さん、かっこいい!」とやはり言われたいし、

嫁や子供たちの鼻が高くなるような見栄え、振る舞いを保ちたい。




とりあえず僕は外出する際は・・・・・・・・・・・・・・







目ヤニぐらいはとろうと思った・・・・・・・・・・・・・・・・・・大人として・・・・・。

結婚って、意外に大変なのだ・・・

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