俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

ジョナサンで朝食を

ある朝、トイレに行ってから手を洗おうと蛇口をひねったら水が止まっていた。

おかしいと思って、台所の水道、お風呂場の水道も試してみたが、まったく水が出てこない。

「あや?これは断水か?」

と思ったのだが、そんなお知らせのチラシ、見たことがない。


もしかして嫁がチラシを処分してしまったのかもしれない。

僕はネットで区役所のお知らせ、水道局の工事のお知らせをチェックしてみたが、特に僕が住んでいる場所が断水するというお知らせは書いていない。

部屋を出て水道メーターのあるところを見てみるが、レバーが閉まっているということもない。

すると嫁が起きてきて、フラフラとトイレに行こうとしたので

「ま、待て!トイレに行っても流れないぞ!」と嫁を制した。

事情を説明すると嫁は「何それ?聞いてないよ?」と驚き、「うちだけなのか?」とつぶやいた。

うちは築20年くらいの3階建てマンションで、ワンフロアに3つしか部屋がない。

だからと言ってご近所づきあいがあるわけではないが、一応引っ越しのあいさつはしているし、廊下ですれ違えば挨拶くらいはする。

嫁はすぐにちゃんちゃんこを羽織り、お隣りさんの呼び鈴を鳴らしたが、お隣さんは起きてこない。

お向いさんは・・・ちょっとボケちゃったおばあちゃんが徘徊しないようにドアに木の棒がかかっているからちょっと声がかけづらい。

そこで真下の部屋の人に聞いてみたところ、なんと水は出るとのこと。

じゃあ、うちだけなのか?

嫁は下から少しだけ水を分けてもらって顔を洗った。
(引っ越しのあいさつ以来、はじめてちゃんと話したが、とても親切で優しい人だったと感動していた)


そこで今度は僕が水道局に電話をかけたが、その日は運悪く祭日で電話に出ない。

不動産屋に電話してみるも、これまた祭日で電話に出ないとのこと。

ということは、自分で水道修理をするか、業者を呼ぶか、明日まで我慢するか、ということになる。


うそだろう?よりによって祭日に水が止まるなんて・・・


電気やガスが止まるのもきついが、水はさらに辛い。

シャワーはもちろん、洗濯もできないし手も洗えない。何よりトイレが使えない。

嫁は朝起きてトイレが使えないというイライラと、膀胱の張りを訴え始めている。

水道工事を呼ぶのは後にして、まずはトイレだ。

そこで朝はぜいたくだが外食をして、その店でトイレをすませようと考えた。

僕はよっぽどでなければ公園のトイレだろうが駅のトイレだろうが構わないが、嫁は割とトイレに敏感で、きれいなところでしか使いたがらない。

そこで朝は駅前のジョナサンで朝食を摂ることにした。


二人で着替えて階段を下りていくと、マンションの入り口にお向かいのおじいちゃんと近所のおっさんらしき人が立ち話をしていた。

すると僕らに気づいたお向いさんが「あ!水、出なかったろ?」と声をかけた。

お向いさんによると、1・2階はちゃんと水が出ているのに、3階の3部屋だけ水が出なくなっているという。

どうやらこの古いマンションは3階部分だけはポンプで水をくみ上げる方式を取っており、そのポンプが古くなってよく壊れるのだそうだ。

半年前にも壊れたそうだが、その時は平日昼間に壊れて、すぐに直してくれたので僕は気づかなかったようだ。



それにしても・・・・

ジョナサンへ歩きながら嫁の怒りは止まらなかった。

「朝食は食パンを買ってあったのにぃ!」

「シャワーがダメなら銭湯でしょう?二人とも銭湯に行ったら800円はかかるよ!」

「明日の朝まで外食だったらかなりお金飛ぶよ!」

「マンションのポンプの問題なら”クラシアン”とか呼んでもダメでしょう!明日までトイレ使えないんだよ?」

「夜とかどうするんだよ!最悪、公園まで行かないとダメじゃん!」


確かにそうだ。

この痛い出費は大家さん、負担してくれるんだろうか・・・

「当たり前だよ!本来、払う必要ないお金だったんだから。絶対不動産屋か大家が払うべきだよ」

「ま、そうだよな。」

「だから、ちゃんと請求してよ!」

「だれが?」

「あんたがよ!」

「・・・そ、そうね・・・」

「よし!じゃあ、今日は良いもの食べに行こう!」

「・・・」

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ジョナサンには10時30分ちょうどに入店。

モーニングコースは10時半までなのでダメかなと思ったが、ギリギリ注文を受け取ってもらえた。


嫁は急いでトイレに行き、僕はドリンクバーに立った。

それにしても・・・・こういう・・・”ちゃんとした”とこで朝ごはんを食べるって、いいもんですな。

なんかマクドナルドなんかとは別世界だな。

このゆったりとしたソファーといい、窓からの眺めといい、

ウエイトレスの対応といい・・・

そんでもって出てきた「スクランブルモーニングセット」がまた旨いんだ・・・

ふわっふわのスクランブルエッグ、プリップリのソーセージとベーコン。

そんでパンもまたホカホカで美味いんだ。

まぁ~・・・ホテルの朝食を食べてるみたい。

あ~。。。毎朝、こんなふうに優雅な朝飯食いてぇ~な~・・・

のんびり朝を過ごしたいよなぁ~・・・

こういうファミレスのモーニングセットってどういう輩が利用してるんだろう?

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そう思って周りを見渡してみる。

すると小さい子供を連れた母親が多いかな?

あとはゴールデンウィークだからか、父親が子供を連れたパターンも。

あとは老夫婦?

みんななんか楽しそうだな。


すると僕は、嫁の斜め後ろに陣取ったある集団に釘付けになった。

それは4人の婆さんなのだが、実に慣れた感じでジョナサンの一角を陣取っていた。

4人はそれぞれ、「ほうれん草とベーコンのソテー」「フライドポテト」「BLTサンド」「オニオングラタンスープ」を注文。

「あれ?パンとか、パスタとか、和定食みたいなのは注文しないの?」と思ったのだが

婆さんのはおもむろにビニールからタッパーを取りだした。


そして靴を脱ぎ、ソファーの上に正座。

まるで自宅のようにリラックスをし出したのだ。

なんとタッパーの中は焼きそば。

婆さんたちは注文したものが来るまでドリンクバーの野菜ジュースやグレープフルーツジュースで焼きそばをほおばっていた。

しばらくして、店長クラスのウエイターと思しき人が注文の品を運んできた。

僕は「ああ、これは何か言われるんじゃないの?」と思ったが、ウエイターは何も言わず、婆さんたちもこれといって悪びれることもなく、食事を続けた。

調子に乗った婆さんズは、たくあんやら佃煮やらも取り出し、まるでコタツで茶飲み友達と話しているかのように楽しそうに話していた。


これはこれで、朝のファミレスの風景としてはいいのかもしれない。

僕はまるで自宅のようにゆっくりとうんこをして店を出た。

マンションに戻ると、大家さんの姪御さんが来て「水を出るようにしておいたから」とだけ言い残して去って行った。

朝食分は・・・請求できまい。

ま、優雅な朝食だったので良しとしよう。

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