ある日、妻が「骨盤が猛烈に痛い。パートをしていても長い間立っていられない。腰から首へと痛みが伝わり、しまいには頭が痛くなる」と仰々しく述べ始めた。
で、病院にでも連れていこうかと思ったら「整体に連れていってほしい」という。
骨盤を矯正してもらえば楽になるはず、というのだ。
「ついでにあんたもなんかしてもらったら?」というので、とりあえずついていくことにした。
近所の整体は割と安くて、保険を使わなくても50分、3000円くらい。保険を使って、なおかつサービスデーに行けば、1500円程度でマッサージをしてもらえるらしい。
整体師の先生が「どこが痛いんですか?」と妻に尋ねると、妻はさっきまで元気に歩いて整体医院まで来たにも関わらず、「ここが痛い、そこも痛い、ついでにあそこも痛い」と、自分がさも重傷なように症状を訴えた。
が、僕は妻の様子を見ながら「はて?俺は別にどこも痛くないんだよな。どうしよう?先生に聞かれても答えられないぞ・・・」と思った。

1時間後、妻は「すごい!体が軽くなった!もう全然痛くないよ!すごいよあの先生!」と興奮して帰ってきた。
そして「あんたも整体、やってもらいなよ!」と言うので、「え、あ、まあ、そのうち・・・」とお茶を濁したのであった。
おそらく、これで妻は整体にはまり、月に何回か通うようになるのだろう。
骨盤の矯正も1回では直らないので、最低5回は通わなければならないし、整体の先生は「定期的に来ていただくと効果的ですよ」なんて笑顔で営業をしているはずだ。
女性はけっこう整体やマッサージを利用する人が多い。
自分のリフレッシュのため、そして腰痛・肩こり解消のために年に何回か利用するのがフツーだ。
が、僕らおっさんは違う。
日常、マッサージを利用することはない。
むしろ、マッサージは”非日常”の楽しみだ。
温泉旅館に泊まったときの風呂上がりや、
アジアに旅行に行ったときの足マッサージ
そしてピンクのネオンが怪しく街などで楽しむものだ。
特に独身時代は年に4回くらいタイに通っていた時期があり、その旅にタイ式マッサージ+アルファで男の凝りをほぐしてもらっていたものだ。
が、タイで2時間1200円くらいでマッサージをしてもらってしまうと、日本ではとてもじゃないがマッサージ代が払えなくなる。
日本ではマッサージはとても気楽に楽しめるような値段ではないのだ。
贅沢そのものなのだ。
だから僕は海外では何十回もマッサージを受けたくせに、日本では1回もマッサージをしてもらったことがない。
幸い、体は疲れていても立てないほどではなく、肩は凝ってても腕が上がらないほどではない。
そんな状態でマッサージに行くのはぜいたくだ。

が、その考えを妻に押しつけるつもりは毛頭ない。
それで妻がリフレッシュしてくれて、機嫌よくいてくれるならば行ってもらったほうがいい。
でも「あなたも一緒に・・・」と言われると困ってしまう。
妻は「あたし一人では悪いからあなたも・・・」「この気持ちよさを独り占めするのはなんだから、あなたもぜひ・・・」ということで誘ってくれているのだろう。
もちろん僕はマッサージ大好きだし、やれば気持ちいいに決まっている。
が、おそらく今の僕はマッサージをしながら損得勘定をしてしまうだろう。
「どうせマッサージをしても、1週間仕事をしたらまた疲れがたまってしまうのではないか・・・」
「1回1500円を月2回行くとして3000円。二人で6000円、6000円あったら月に1回焼き肉にいけるのでは?」
「月6000円なら年間で72000円、これだけあれば年に1回温泉旅行に行けるのではないか?オーブンレンジも買えるのではないか?」
「少なくとも僕がマッサージを我慢するだけで、1ヶ月3000円、年間36000円浮くことになる。10年で36万円うくことになる!!」
結局僕はマッサージにお金を使うのはもったいない、と考えてしまう。
どうせ毎日仕事をして肩も腰も凝ってしまい、姿勢も悪くなり、筋肉も固まってしまうのだし、それでもふつうに生活できるのだからマッサージなんかいらない。
だから今後も妻のお誘いはうやむやにごまかしていくつもりだ。
何に価値をおくかは、男性と女性では天と地ほど違う。
が、僕は僕なりに貯金に回さないと・・・・・
都民税が払えなくなるのだ・・・
