それは週末の昼のこと
僕は家でなにをするでもなく、ダラ~っとしながらテレビを見ていた。
もう石ちゃんのグルメレポートはいたるところで見るので、どの局のどの番組だかも区別つかない。
その日は築地のおいしいものかなんかを紹介していたのであるが、同じく名グルメレポーター彦麻呂さんの名言、「味の宝石箱や~!!」を生んだという海鮮ひつまぶしを紹介していた。
確かにこれは旨そうだ。
魚介の種類もハンパないし、それぞれが普通のちらし寿司より細かくダイス状に切ってあるのがまた美しい!
隣でテレビを見ていた嫁も「ああ~~美味しそう~~!!」ともだえている。
これは築地に行くことがあったら食ってみたいな、と思った瞬間、「2100円」の文字が。
すると僕の「食べたい」という欲は、それこそ潮が引くようなものすごいスピードでサーッと消えた。
「高いな」
と、僕は企画部長のような冷淡さで切り捨てると
妻は少しふてくされたような顔をし、黙ってしまった。
僕は無言のままテレビを眺めつつ、
と思った。
こういうケースは我が家では実によくあるのだ。
テレビで美味しいモノの特集をする。
二人で「旨そう~~」ともだえる。
「今度食べに行こう!」という話が出る。
値段が1000円以上だとわかる。
僕が「高い」と一刀両断し、妻が黙る。
まあ、金がない男と承知して結婚したのではあろうが、
さすがに妻も「つまらないヤツ・・・・」と思っているかもしれん。
「毎日あんなぜいたくをしようと言ってるわけじゃあるまいし!月に一度くらいはうまいもんくらい食わせろや!心まで貧しくなったらどうすんじゃい!!」
と思っているに違いない。
それはごもっともなのである。
妻は家計をやりくりしているので、毎月1回くらい外食しても大丈夫なことを知ってるのである。
が、独身貧乏生活が長かった僕はそれがなかなかできない。
長く「ワンコイン・ランチ」「夜のスーパー値引きねらい」生活を続けていた僕は、一品1000円以上すると、瞬間的に「高い!」と感じてしまうのである。
だから、いくらグルメレポーターが
「天丼に、これだけタネが乗って1800円ですよ!」
「銀座で寿司ランチが1500円!!」
「ディナーで一皿1000円するA5ランクのカルビが、ランチだとご飯、サラダ、ナムル、食後のコーヒーがついて1200円!!これはお得ですよぉ~~」
なんて言っても、無条件で「高い!」と切り捨ててしまうのだ。
ランチはせいぜい800円(できればワンコイン)が僕の基準なのだ。
が、ランチならまだ「ワンコイン特集」なんかも組まれることが多いので、見る価値がある。
それがディナーとなるともう目も当てられない。
「両国の塩ちゃんこ」
「白金のイタリアン」
「恵比寿の韓国鍋」
「広尾のフレンチ」
「湯布院の懐石料理(温泉付き)」
これまで、もだえた妻をどれだけ冷めさせたことだろう。
おそらく、「コース料理3500円~」なんてのは、ものすごくお得な部類に入るのだと思う。同じ業界の中では。
ここは一発、勇気を出して自分の小遣いから散財してみたらどうかとも思うのだが、今月も僕のお小遣いはなんとも心許ない。
このまま貧乏性が直らなければ、いつか嫁に愛想を尽かされるのではないか。
フルコース6000円~なんていうのは無理にしても
せめてなにかの記念日にでも焼き肉食べ放題一人1880円ぐらいなら連れていってやれないものか。
そんなことを思っていると、妻は「今日はバイトで疲れたから、外でご飯を食べよう」と誘ってくる。
そしてガストに招き入れた妻は開口一番、こう言うのであった。
「二人で2000円以内ね」
よく教育がいき届いている・・・・