俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

チキンライス

僕は今、海外で単身赴任をしている。

三度の飯よりテレビが大好きで、子供のころからテレビばっかり見ていた僕だが、南国マレーシアでは日本のバラエティ番組が見られず、仕方なくYoutubeで昔のバラエティ番組を見ていたりする。


そしてたまたま見た、浜田雅功槇原敬之の『キチンライス』という曲にひどく感銘を受けて、一人涙したりしている。

もちろん、『チキンライス』という曲は知ってたが、この曲を聴いていた当時は何も感じなかったし、特に思い入れがあるというわけではなかった。

浜ちゃんのヒット曲なら『Wow war tonight』のほうが話題になったし、松っちゃんが書いた詩なら『エキセントリック少年ボウイ』や『ああエキセントリック少年ボウイ』のほうがインパクトも哀愁もあったような気がした。

http://www.youtube.com/watch?v=UlzhBQ2KU-o
(↑『エキセントリック少年ボウイ』のテーマ)
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しかし僕も41歳となり、子供を持つ身になった。
子供には苦労をかけたくないなと思いつつも、甘ったれのくそ坊主にも育ってほしくない。

そう思うと、この『チキンライス』が妙に心に響くのだ。



僕は酒屋兼スーパーの次男坊として生まれた。

両親は自営業で、朝から晩まで働いていた。

父親は朝5時には起きて仕入れに行き、牛乳配達をし、9時の開店の準備。
営業中は軽トラにビールのケースやら日本酒の木箱やらを積んでパワフルに配達していた。
7時の閉店後も店の片づけ、伝票整理…

母親も営業中はずっとレジに立ちつつ、家事をこなしていた。

もちろん土曜日も営業していたし、正月三が日とお盆の2日以外は連休などなかったから、あんまり遊びに連れて行ってもらった記憶もなかった。

男三人兄弟なので、一人におもちゃを与えるとほかの二人もほしがる。だからおもちゃもあんまり買ってもらえなかった。


そんな両親が3か月に一度くらい、日曜日の夜に外食に連れて行ってくれた。

まさに『キチンライス』の世界だ。

駅前のデパートの最上階にあるレストランがお決まりのパターン。

”一人1000円以内”というルールだったから、親父としては「5000円以内に収めたい」という気持ちがあったのだろう。

”三つ子の魂100まで”とはよく言ったもので、僕は40歳を超えた今でも1000円を超える食事を注文するのが嫌だし、焼肉屋や回転すしで遠慮なく食べている子供を見ると腹が立つ。

あの回転寿司の子供たちは「黄色い皿しかとっちゃダメ」とか「一人5枚までよ!よく選んで食べなさい!」とか言われているんだろうか?

「この前家族5人で焼き肉食いに行ったら1万5千円もかかったわ!」なんて言ってる親は、子供にどうやって”我慢”を教えているのだろうか?

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小学生だった当時の僕は、レストランのショーケースに端から端まで目を凝らし、おいしくてかつボリュームのあるもの、そして”1000円以内”のものを時間をかけてじっくり選んでいた。

兄と弟が「おれ、ポーク生姜焼き!」「僕、スパゲッティ!」なんてさっさと決めて店内に入っても、僕はなかなか決めきれず、15分は食品サンプルとにらめっこしていたのを、通りすがり家族がくすくす笑いながら見ていた。

僕は腕を組み、指をさし、頭の中で計算をしながら慎重にメニューを選んでいたが、その姿が小学生にしてはおっさんくさかったからかもしれない。

小学校高学年くらいになると、食後にパフェだのかき氷なんかも食べたくなる。

が、それを注文してしまうと1000円を超えてしまう。

「かき氷350円を注文するには、食事を650円以内に収めなければならない」

「そうなるとスパゲティとか、サンドイッチとかを単品で頼まなければならないが、夕食にご飯を食べないなんてことは食事を抜いたのと同じだ・・・」(と当時は思っていた)

「以前、雑炊(600円)とかき氷を注文したことはあったが、なんともむなしい食事だったな・・・」


そんな風にさんざん悩んで店内に入ると、弟はすでにスパゲティを食べ始めていたりして、両親が呆れた顔で俺を見ていた、なんてこともよくあった。

で、デザートをあきらめてポークステーキ(880円)を食べたりしていたのだが、

帰り道、エレベーターで1階まで下りると親父は1階にあるファーストキッチンで100円のソフトクリームを買ってくれたりしたのだ。

そのソフトクリームがすこぶる旨かった。

甘くて冷たくてやわらかくて優しくて・・・、なんだかすごく贅沢をしている気分になった。

最上階のレストランで飯を食った後に、1階で食べるソフトクリームがその後我が家の定番となり、

僕ら兄弟は真冬でもソフトクリームを注文するのをやめなかった。

親父は嬉々としてソフトクリームを食べる息子たちを、目を細めて見ていたことだろう。



そんな父ももう後期高齢者の仲間入りだ。

ビールケースを軽々と肩の上まで持ち上げていたその腕はミイラのように細くなり、昔陸上で鍛えたたくましい足は急な坂道が登れないくらい弱くなり、体重は我が嫁を余裕で下回ってしまった。

3か月前に生まれた我が息子を溺愛してやまないのだが、3か月で(しかも母乳だけで)8.5㎏にまでなった孫を10分以上は抱っこすることができないくらい衰えてしまった。

父の残りの人生で、できる親孝行ってなんだろう?

僕にはまだわからない

でも それを考えようとすることがもう 親孝行なのかもしれない


やはり『チキンライス』は名曲なのだ

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http://www.youtube.com/watch?v=nz2ghdBeIbI
(↑『チキンライス』)